第8話



空中に浮かび、対峙するエヴァとフェニックス。

[WARNING!! エヴァンジェリンの魔力が高まっています]

コックピットにジェイスの声が響く。

「どういうことだ? 彼女の魔力は封印され、満月の夜にしか活動できないと聞いたが………」

[データより推測。停電により彼女の魔力を抑えていた結界が消失しています。それに伴い魔力が復活したと思われます]

「なるほど………ジェイス、麻帆良都市中枢コンピューターにアクセス!」

[Yes!!]

アクセスを開始するジェイス。

機龍は再び外部スピーカーを入れ、エヴァに言い放つ。

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。貴様のやっていることは明らかな違法行為である。直ちに、抵抗をやめ、投降せよ」

だが、エヴァは不適に笑う。

「ふん、ガラクタを引っ張り出してきて、勝ったつもりか? 片腹痛いわ!!」

「やむをえん、これより貴様を超特別指導する!!」

「やってみろ!!」

上昇するエヴァ。

フェニックスもそれを追い、上昇する。

「「「「……………」」」」

怒涛の展開について行けず、呆然とするネギ達。


橋の上空で戦うエヴァとフェニックス。

今のところ、勝負は互角。

エヴァはフェニックスに対し、次々と魔法攻撃を仕掛けるが、フェニックスは巧みにかわし、あるいはシールドで防いで凌ぐ。

対してフェニックスはエヴァに対し、どういう理由か反撃をしない。

たまに頭部バルカン、肩部マシンキャノン、マシンガンで威嚇もしくは牽制する程度だ。

「ええい! 貴様!! 私をなめているのか!! なぜ反撃しない!!」

「しなくてもいいからさ」

「キィーー!!」

ヒステリー気味に叫ぶエヴァ。

対する機龍は冷静そのものだ。

「ふざけるのも大概にしろ!!」

エヴァが手を上にかざす。

「リク・ラク ラ・ラック ライラック 来たれ氷精 闇の精!! 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪 闇の吹雪!!!」

エヴァの手から放たれる攻撃。

これまでの最大規模だ。

「む!?」

シールドで防御するフェニックス。

が、防ぎきれず、シールドが凍り始める。

「何!?」

咄嗟にシールドを捨て、離脱する。

シールドは完全に凍りつくと粉々に砕けた。

「ハッハハハ、どうだ見たか!!」

勝ち誇るエヴァ。

だが、彼女は完全に失念していた。

「………俺の勝ちだ」

「何?」

橋上にいた茶々丸がはっとして慌てて叫ぶ。

[いけない、マスター! 戻って!!]

次の瞬間、橋の電灯が点灯する。

「な、何!?」

次々と灯りが点灯していく。

[メインコンピューターにアクセス。データ改ざんにより、停電を復旧させました]

「ご苦労、ジェイス」

「貴様!!」

「卑怯だなんていうなよ。あらゆる手を使い、勝利するのが軍人の仕事だ」

「おのれ!!」

途端に結界が復活し、エヴァの魔力が抑えられる。

「きゃん!!」

悲鳴を上げ、落下するエヴァ。

[マスター!!]

「エヴァンジェリンさん!!」

あの高さから落下すればまず命はない。

慌てて走る茶々丸とネギ。

だが、

「えっ!?」

[あ!?]

「な………に………?」

フェニックスの目の前まで落ちたとき、フェニックスが手を伸ばし、エヴァを受け止めた。

「大丈夫か?」

「貴様、なぜ!?」

「生徒を見捨てる教師がどこにいるよ?」

その言葉にはっとするエヴァ。

機龍にとって彼女は生徒なのである。

例え、どんなに素行が悪くても守るべき対象なのだ。

だから、攻撃せず時間切れを待ったのだ。

「あ、甘い奴め………」

「甘くて結構。これが俺のやり方だ」

そこには確固たる信念があるというような機龍。

ゆっくりと橋に降り立つフェニックス。

手を地面に下ろし、エヴァを解放する。

同時にコックピットハッチが開き、ヘルメットを取った機龍が顔を出す。

[マスター、大丈夫ですか?]

「あ、ああ………」

[よかった………ありがとうございます、機龍先生]

「な〜に、いいってことよ」

「機龍さん………あなたはいったい何者なんです?」

ネギが疑問をぶつける。

「そ、そうよ! どうしてそんなロボットに乗ってるの!?」

アスナも疑惑の目を向ける。

「……………」

機龍はしばし黙って考えていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「わかった、教えよう。俺は……………」

と、その時、橋の両脇の湖に何かが着弾し、爆発した。

「きゃあぁぁぁぁぁー!!」

水柱があがり、思わず悲鳴を上げるアスナ。

「なんだ!?」

[砲弾の着弾と推測。学園都市外側からの攻撃です]

「なんだと!?」

ジェイスの報告に驚く機龍。

「馬鹿な!! 堂々と軍事兵器で攻撃を仕掛けてくるなどと、目立ちすぎる! 一体どこのどいつだ!!」

エヴァの叫びに都市外側の方を見る一同。

「!! あれは!」

見ると、緑色のロボットの軍団が都市を目指して行軍してきている。

「間違いない!! ヌエだ!!」

「ヌエ? 知ってるんですか!?」

機龍の声に反応するネギ。

「みんな、すぐに安全な場所まで避難するんだ!」

それを無視して機龍は言った。

「ダンナはどうするんスか?」

「あいつらの進行を阻止する!」

「む、無茶よ! あんな大軍相手に一人で…………」

「大丈夫だ」

「えっ!!」

アスナの言葉を遮って言う機龍。

「なぜなら、俺は……アルサレア帝国軍、特殊追撃部隊セイバー小隊小隊長、神薙機龍少尉だからだ!!」

「アルサレア帝国??」

「セイバー小隊??」

「少尉??」

機龍の言葉の意味が理解できない一同。

機龍は再びコックピットに戻り、ハッチを閉める。

フェニックスがゆっくり立ち上がる。

バーニアから炎を上げ、再び空へと飛翔する。

「機龍さん!!」

衝撃波の風にたじろぎながら、ネギが叫んだ。


[敵の機種はヌエ。数は30]

「そうたいしたことはない。被害が出る前にけりをつける!!」

[Yes!!]

急降下してヌエの軍団の前に立ちはだかる。

敵の出現に進軍を止めるヌエ軍団。

「ここから先へは行かせん!!」

マシンガンを連射するフェニックス。

それにより一気に6機を葬り去る。

ヌエも負けじとハンドガンを乱射する。

フェニックスはそれをすべてかわし、再びマシンガンを連射する。

が、突然、マシンガンは乾いた音を立て止まる。

「!! 弾切れか!? クソ、さっき使い過ぎたか!」

マシンガンを捨てるとマグナムとショットガンを構える。

と、一機のヌエがレーザーソードで斬りかかってくる。

「!! くっ!」

とっさにショットガンを投げつける。

レーザーブレードに接触したショットガンが暴発し、飛び散った弾がヌエを破壊した。

その爆煙が収まらぬうちに、今度は三機のヌエが斬りかかってくる。

それを頭部バルカンと肩部マシンキャノンで牽制しながら、機龍は思考をめぐらせる。

(………ショットガンとマシンガンは使用不能………バルカンとマシンキャノンの残弾も少ない………マグナムと刀だけじゃこれだけの敵を相手にするのは骨が折れる………どうする?)

一瞬の思案の後、機龍は呟いた。

「しかたない、アレを使うか」

三機のうち二機をマグナムで打ち抜き、ヌエ軍団と距離をとる。

「ジェイス!! ウイング・ファミリア、射出!!」

[Yes!!]

フェニックスのウイングの羽根がはずれ、小型攻撃機となりヌエに襲い掛かる。

全方位から襲い来る攻撃になすすべのないヌエ。

一機、また一機と打ち抜かれていく。

数分後、ヌエはものを言わぬ残骸と化した。

「ふ〜〜、こいつは制御が面倒なんだよな」

ウイングを戻して、マグナムを収納すると残骸に背を向ける。

と、その時、一機のヌエが残骸の中から飛び出し、フェニックスに襲い掛かった。

「!! 危なーい!!」

叫ぶネギ。

が、フェニックスはすばやく反転しながら抜刀すると、ヌエを唐竹割りにした。

「甘いな……ん!!」

ヌエの残骸に目を向けると、驚く機龍。

そこには二つに割れてたコックピットがあったが、パイロットの姿はなかった。

脱出した形跡はない。

「まさか!?」

手近な数機の残骸を調べたが、同じようにパイロットはいなかった。

「これは……どういうことだ?」

[UNKNOW。データ不足]

残骸の中に佇むフェニックス。


ヴァリムの野望は深く静かに動きだしていた。


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