第20話



「…………」

ホテルのロビーにてソファーに座り、上の空状態のネギ。

「ネギ先生、大丈夫ですか?」

「…………」

機龍が声を掛けるが全く反応しない。

「ネギ先生?」

目の前で手をヒラヒラと振る。

「…………」

反応なし。

今度は頬を引っ張ってみる。

「…………」

反応なし。

「むう………重症だ」

唸る機龍。

(ハア〜、俺があの時、調子に乗ってアドバイスなんかしたばっかりに………)

激しく自己嫌悪する機龍。

「どうしたんだ? 先生たち。二人して爆撃にあったみたいな顔して」

そんな二人に楓を連れた真名が話し掛けてきた。

「その方が幾分かマシだったかもしれん」

げんなりした顔で答える機龍。

「何かあったのでござるか?」

「話せば長くなるんだが………」

「うわーーー!!」

と、ここで、ネギが突然、奇妙な動きをする。

頭を抱えて立ち上がったかと思うと、今度は跪き、再び頭を抱えて転げまわる。

「あああーー、どうすればー!!」

「………という感じだ」

「いや、分からないって(汗)」

ギャグ汗を浮かべる真名。

「ニンニン………」

楓も呆れ顔だ。

「ネギ先生、どうなされたんですの?」

と、様子を窺っていた3−Aの生徒がネギに話しかけてきた。

「昼の奈良公園で何かあったの? ネギ君」

「うひゃいっ!?」

意味の分からぬ声を上げるネギ。

「い、いやあの、別に何も………誰も僕に告ッたりなんか………」

(あ、マズイ!!)

時すでに遅し。

「え!? コ、告ッた!?」

「えーーー! それホント、ネギ君!? 誰からされたのー!!」

(し、しまった!!)

「いえ、あのっ、告った…じゃなくて!! ココッコックさんがコクのあるコックリさんのスープを……」

もはや自分が何を言っているか分からないネギ。

すると、

「ムンッ!!」

「おふっ!?」

機龍がネギの鳩尾を強打し気絶させた。

「ネギ君!?」

「ネギ先生!?」

驚愕する3−A一同。

「ああ、こりゃイカン!! 過労で昏倒したようだ!!」

「「「あんたがやったんでしょ!!」」」

「部屋に寝かしつけてくる。全員、部屋で待機しろ!!」

ツッコミを無視し、機龍はネギを抱えると部屋にダッシュした。

「あ、ちょっと、待ってよ! ネギくーん!! 機龍先生ーーー!!」

「誰が誰に告ったんですの〜〜〜〜〜!?」

などと言う声を後ろにさらにスピードを上げる機龍。

それを追いかける3−A一同。

「何なんだ一体?」

「さあ?」

取り残された楓と真名は顔を見合わせる。


何とか3−A一同を撒いた機龍はネギに話しかける。

「すみません、大丈夫でしたか?」

「大丈夫です、鍛えられてますから」

鳩尾の辺りを擦りながら言うネギ。

機龍の訓練の御蔭か、その身体は10歳と思えぬほど引き締まっている。

「ちょっと、外の空気を吸ってきます」

「大丈夫ですか?」

「はい、何とか……」

とは言うものの、覚束ない足取りのネギ。

「お気をつけて」

機龍はそれを心配しつつも、警戒に入る。


「お疲れ様です、機龍先生」

「お疲れ様」

交代時間になり、アスナと刹那が機龍のもとへとやって来る。

「お疲れ………ネギ先生は?」

「今、御入浴中です」

「まだ、相当悩んでたみたい」

「そうか……ハァ〜」

タメ息を吐く機龍。

「機龍先生、せめて相談に乗ってあげられませんか?」

「そうしたいのはやまやまだが……」

「どうしたんですか?」

口ごもる機龍を怪訝な目で見るアスナ。

ゆっくりと話し出す機龍。

「俺は恋愛のことは分からん」

「え〜〜〜!!」

「そんな! 昼間の宮崎さんへのアドバイスは何だったんですか!?」

「あれはただ、自分の気持ちには正直になった方がいいってことで、恋愛に発展した気持ちなんて俺には分からん」

あっけらかんと言う機龍に呆れる二人。

しかし、ある意味、それは仕方のないことである。

武家に生まれた機龍は、幼き頃より剣の修行に明け暮れ、アスナたちぐらいになった頃には軍に入隊していた。

そして、第二地球に来るまではずっと最前線で戦っていたのである。

つまり、今までの人生を戦いに奉げてきたのだ。

そんな男に、恋や愛などの気持ちについて語れと言われても無理というものだ。

「とことん軍人なのね………あなたって」

「申し訳ない………」

「いや、謝られても………」

もはや言葉のない三人。

「とりあえず、風呂に行くよ。ネギ先生の愚痴くらいは聞いてやらないと………」

「その方がいいですね」

「ハア〜〜〜〜」

今度はアスナがタメ息を吐く。

それを後ろに感じながら、機龍は風呂場に向かった。


男と書かれたのれんを潜り、脱衣所に入ると機龍は不穏な気配を感じた。

(ん!? ネギ先生の他に誰かいる!? 西の奴か!!)

マグナムを懐から取り出すと、そろりと湯船への扉に近づき、少し開けて中を覗き見る。

(あれは………朝倉くん?)

そこにはタオルを身体に巻き、ケータイを片手に、ネギに迫る麻帆良パパラッチ・朝倉和美の姿があった。

「ふふふ………先生、下手な真似はしない方が身のためだよ。私がこのボタンを押せば、ネギ先生の秘密がインターネットで私のホームページから全世界に流れちゃうから」

「えええ、僕の秘密がーーーー!!」

(!! マズイ、朝倉くんにバレたのか!?)

彼女に魔法のことが知れれば、公表されることは目に見えている。

このままでは、ネギは残りの人生をオコジョとして過ごさなければならなくなる。

(とりあえず、この状況を何とかしなければ………)

機龍はケースからサイレンサーを取り出し、マグナムに装着する。

そして、扉の隙間から和美のケータイに狙いを定めると引き金を引いた。

放たれた弾丸は狙いを過たず、和美のケータイを撃ち抜いた。

「キャー!! 何これ!? ケータイが!!」

突然、ケータイが破壊され混乱する和美。

(よし、後は………)

機龍は廊下に出ると、ケースから拡声器を取り出して言った。

「大変だーーー!! ネギ先生が風呂場で襲われてるぞーーーー!!」

「「「「何ーーーーーーー!!」」」」

素早く廊下の影に隠れると、3−A一同(先頭・雪広あやか)が風呂場に突入して行った。

「朝倉さん!?」

「あっ、いや、これはっ……」

「朝倉さん!! 調査を頼んだのに何ですのコレはーーーーっ!!」

「裸同士でネギ君と何やってたのぉーーーー!!」

「ひいーーーーーっ! お助けーーーーー!!」

地獄絵図を横目にネギは急いで湯船から出ると、脱衣所で素早く服を着て廊下に出た。

「ネギ先生」

そこに機龍が声を掛けた。

「き、機龍さん!」

涙目になるネギ。

機龍に駆け寄ると身体にしがみ付いた。

「うわぁーーーん!! 機龍さーん!!」

「はいはい、泣かない泣かない。俺が何とかしますから」

「うわぁーーーん!!」

これまでのこともあってか、泣き続けるネギ。

(問題1つ追加か………)

機龍はこれからのことに頭を痛めながらも、ネギを慰める。


だが、この後には、更なる問題が待ち受けていた。


NEXT


前へ 戻る 次へ