第26話



機龍たちにも危機が迫っていた。

街中を走る機龍たち。

時折投げつけられる棒手裏剣を気づかれないようにかわし、シネマ村へと紛れ込む。

ハルナと夕映と別れ、体制を立て直す。

「桜咲くん、状況は?」

「さすがにこの人ごみでは襲って来れないようです。ネギ先生との連絡は途絶えてしまいました」

「そうか………」

機龍は思案を廻らせる。

ネギたちを呼び戻すとしても時間が掛かり過ぎる。

敵の規模がわからない以上、打って出るには危険すぎる。

(どうしたものか………)

「せっちゃん〜〜〜〜、機龍先生〜〜〜〜」

と、苦い顔をしていた機龍と刹那に時代劇のお姫様のような姿のこのかが話掛けてきた。

「じゃーん」

「わあっ!?」

「なんだい、その格好は?」

顔を赤くして慌てる刹那と冷静な機龍。

「そこの更衣所で貸してっくれたんや。似合う?」

「ハッ…いや、そのっ、もう、お…おキレイです……」

「何を動揺いてるんだ?」

刹那にツッコミを入れる機龍。

「えへへ、ほんなら2人も着替えよ。ウチが選んだげるーー」

「ええ、あの、ちょっと………」

「おいおい………」


このかによって2人は新撰組(刹那)と宮本武蔵(機龍)に扮される。

「2人とも似合っとるで」

「そうですか?」

「ふふふ………小次郎、敗れたり」

怪訝な顔をする刹那とのめり込んでいる機龍。

しばらく店を見回っていると、1台の馬車が3人の前に止まった。

「ひゃあっ!!」

驚くこのか。

「む!?」

機龍は素早くいつでの抜刀できる体制をとる(渡されたのは模造の刀だったが、こっそり愛刀と取り替えた)。

「お……お前は!?」

「どうもーーー、神鳴流です〜〜〜」

現れたのは相変わらずの惚け口調の月詠だった。

服装はややゴージャスになっている。

「じゃなかったです………そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます〜〜〜。そこな剣士はん、今日こそ借金のカタにお姫様をもらい受けに来ましたえ〜〜〜」

「な………何?  何のつもりだ、こんな場所で」

「せっちゃん、これ劇や劇、お芝居や」

「そういうことだ………」

馬車を操っていた男が立ち上がる。

無造作に伸ばした白髪、研ぎ澄まされた刃のような鋭い眼つき、軍服を着て、右腕に鎖を巻きつけている。

(!! あの軍服は!?)

男の着ている軍服を見て、目の色を変える機龍。

それもそのはず、その男が着ている軍服はヴァリム軍のものだった。

(ヴァリム………ついに見つけたぞ!!)

軍服の男の登場に野次馬は怪訝な顔をしたが、何かの演出だと思い込む。

「俺はこの女の用心棒ということになるが、この際そんなことはどうでもいい。気に入らん作戦だが、その女を渡して貰おうか?」

深く静かに言う男。

ただそれだけで刹那は悪寒を覚えた。

(な、何だこの男の迫力は? ただ立っているだけだというのに………)

「断る!!」

だが、その時、機龍が2人を庇うように前に出た。

「ほう………」

ニヤリと笑う男。

「貴様等の言うとおりにする道理はない!!」

気迫を込めて言い返す機龍。

「大した台詞だな。1戦交えるつもりか?」

「どの道、俺は貴様等と戦わねばならん」

キッパリと言い放つ。

「フフフ………面白い。どういうつもりか知らんが、いいだろう………おい!!」

「はい〜〜〜、では、え〜〜〜〜い」

左手の手袋を投げつける月詠。

「む……」

刹那がそれを受け取る。

「このか様をかけて決闘を申し込ませてもらいますーーー、30分後、場所はシネマ村正門横「日本橋」にてーーー、ちなみにセンパイの相手はウチが………」

「お前の相手は俺がしてやろう」

機龍を見据えて言う男。

「望むところだ!!」

敢然と言い放つ機龍。

「ほな、助けを呼んでもかまいまへんえ〜〜〜〜」

「フ…………」

そう言い残して去って行く2人。

「(仕方ない……やるしかないか………)機龍先生………!!」

機龍を見て驚愕する刹那。

機龍は溢れんばかりの闘気を漲らせ、拳を硬く握り締めている。

「き、機龍先生………」

「スマン、先に行っていてくれ………すぐに行く」

来た道を戻って行く機龍。

(一体どうしたんだろう?………あんな迫力に満ちた機龍先生を見るのは初めてだ………)

その後、どこからともなく現れた夕映とハルナ、そして3班のメンバーを巻き込んで(というか巻き込まれて)、刹那とこのかは決闘場所へと向かった。


決闘場所へと向かう途中、光の玉が刹那の傍に降りてきた。

「刹那さん、刹那さん!」

「え……!?」

光の玉は頭にカモを乗せたデフォルメされたネギの姿になる。

「大丈夫ですか? 刹那さん!!」

「ネギ先生!! どうやってここに!?」

他の人に見られないようにこっそりと話す2人。

「えと、ちびせつなの紙型を使って気の跡をたどって………」

「それより何があったんだ、姉さん!? 機龍のダンナは!?」

ちびネギの言葉を遮り、カモが聞く。

「そ、それが………」

と、刹那が状況を説明しようとしたが、既に決闘場所へと着いてしまっていた。

「ふふふふ………ぎょーさん連れてきてくれはっておおきにー、楽しくなりそうですなー」

「フン………ほとんど一般人じゃないか。俺にはつまらなさすぎる。あの男はどうした?」

満足そうな月詠とあからさまに不満な男。

と、

「俺ならここにいるぞ!」

下から声が聞こえてきて、男は川を見た。

すると、舟の上に立った機龍の姿があった。

宮本武蔵の姿ではなく、アルサレア帝国軍服を着込み、愛刀の二刀を左腰に差している。

「その軍服………フ、フフフ………そうか、そういうことか………まさかお前がアルサレア軍だったとはな………」

心底面白そうに笑う男。

「「「アルサレア軍??」」」

事情を知らない3−A生徒3班+5班は怪訝な顔になる。

しかし、ネギとカモは気づいていた。

(兄貴!! アルサレアのことを知ってるてこたぁ!?)

(まさか!? あの人が機龍さんの言っていた………ヴァリムの!?)

「とあっ!!」

舟の上から跳躍し、橋の上に立つ機龍。

ギャラリーから歓声が挙がる。

「スゴーーイ!! 機龍先生!!」

「のってるね!! 先生!!」

3−A生徒3班+5班も囃し立てる。

しかし、機龍は一目もせず、男を睨み付けている。

「フフフ………アルサレアの男………名は何という?」

機龍は抜刀すると構えを取り、言い放った。

「神薙………機龍!!」

「俺の名はハクヤ………ハクヤ=ロウだ!!」

右腕の鎖を解き、手に持つと振り回す男………ハクヤ。

「………勝負!!」

ハクヤに突進する機龍。

「チェェェストォォォォォォォーーーーー!!」

気合の掛け声と共に二刀を横薙ぎに振る。

「ふっ!!」

欄干が斬り落とされたが、ハクヤは跳躍してかわすと、鎖を振って反撃する。

「むん!!」

機龍はそれを刀で弾く。

弾かれた鎖は欄干を粉々に破壊した。

機龍はハクヤを追うように跳躍し刀を振る。

「フン!!」

しかし、ハクヤは錐揉みするように回転してかわす。

そして、その勢いで鎖を振る。

「む!?」

左腕を絡めとられる機龍。

お互いに空中で距離を取ると、再び橋の上に着地する。

「フッ………」

「くっ………」

お互いに鎖を引っ張り合う。

「てやぁっ!!」

伸びきったところで、機龍は空いた右手の刀で鎖を斬り落とした。

「ぬうっ!?」

微かに動揺し、鎖を巻き戻すハクヤ。

「チッ!!」

舌打ちすると再び跳躍し、町の屋根の上に乗り、駆けて行く。

「待て!!」

それを追う機龍。

「「「………………」」」

あまりの超人レベルの戦いに唖然とする一同。

「………ハッ!! ウチとしたことが、ついボッーとしてしまいました〜〜。気を取り直して、行きますえ〜〜〜、刹那センパイ!! ひゃっきやこぉー!!」

いち早く我に返った月詠が札をばら撒き、デフォルメされた妖怪軍団が現れる。

「なっ……!?」

「何このカワイイの〜」

3−A生徒3班+5班に襲い掛かる………というか、セクハラをする妖怪軍団。

ギャラリーはCGだと思っているようだ。

「こ、これは………」

「ネギ先生! このかお嬢様を連れて安全な場所へ逃げてください!!」

「え…でも」

「見かけだけですがネギ先生を等身大にします、キャーヤ!!」

刹那が呪文を唱えるとネギの姿が等身大の白色の忍び装束に変わる。

「わぁ!! 僕は忍者の役ですか!!」

ややうれしそうなネギ。

「ひゃあ!? ネギ君、いつの間に!? びっくりしたー」

「このかさん、僕について来てください!」

驚くこのかの手を引き、ネギは安全な場所へと退避する。

「あ……せっちゃ……」

このかの声を背に、月詠と切り結ぶ刹那。

「あの軍服の男は何者だ? 何故、機龍先生があそこまで執着する?」

「さあ〜〜〜? ウチの雇い主(クライアント)の協力者らしーんですけど、詳しいことは知りまへん」

激しく切り結びながら問答する2人。

(機龍先生………)


一方、機龍は………

ハクヤと屋根の上を駆け、激しい戦いを繰り広げている。

攻防は一進一退。

両者の実力はほぼ互角だ。

やがて、お互いに距離を取って静止し、睨みあいとなる。

「フ………フフフ………フハハハハ!!」

と、突然、高笑いを挙げるハクヤ。

「何が可笑しい!?」

「嬉しいのさ! 俺は今までこんなにも苦戦する相手に会ったことがない! いいだろう!! 神薙機龍!! 貴様を俺の宿敵と認めよう!!」

「全然嬉かないぞ!! そんなこと!!」

そう言い放ち、跳躍し二刀を振りかぶる機龍。

「神薙二刀流………真っ向!! 二刀唐竹割り!!」

そして、落下の勢いに乗せて一気に振り下ろす。

「むん!!」

だが、ハクヤは鎖を束ねて両手でピンッと張り、防御する。

足が少し屋根にめり込んだが、防ぎきる。

「何!?」

「甘い!!」

その隙に上段回し蹴りを叩き込む。

「どわっ!!」

斜め下へとふっ飛び、家に突っ込む。

砂塵が舞い上がり、瓦礫が崩れ落ちる。

それを見ながらハクヤは地面に降り立つ。

「おい、どうした? まさか、これで終わりなんてことはないだろう?」

瓦礫の山に向かって言い放つ。

「………冗談じゃない!!」

瓦礫が弾け飛び、機龍の怒声と共に刀が飛んで来る。

「むおっ!?」

何とか鎖で上に弾くハクヤ。

すると、再び瓦礫が弾け飛び、今度は機龍自身が飛び出して来た。

「でぃえいやあぁぁぁぁーーーーーー!!」

右手の刀を両手で構え、袈裟懸けに斬り下ろす。

「まだまだ!!」

しかし、ハクヤは鎖で絡めとり受け流す。

「……だろうな!!」

と、ここで、ハクヤが上に弾いた刀が落下してきた。

左手を伸ばしてキャッチする機龍。

「!! 何だと!!」

「ぬおうりゃぁぁぁーーーーーー!!」

ハクヤの顔面に突きを繰り出す機龍。

「ぐうっ!!」

咄嗟に首を右に動かして紙一重でかわすハクヤ。

突きの斬撃が左頬を掠め出血する。

刀を絡めていた鎖を解き、後ろに跳んで距離を取る。

左手で左頬の傷を触り、その血を見てニヤリとする。

「そうだ! その調子だ!! もっと俺を楽しませろ!! 神薙!!」

「呆れた奴だな!!」

再び構えをとって、睨み合いとなる2人。

が、その時………

「聞ーとるか!! お嬢様の護衛、桜咲刹那!! そして妙な男!!」

突然響いた声に聞こえてきた方向を向く2人。

見ると、城の天守閣の屋根の上にヌエが立っていた。

その左肩には千草が立ち、右手にはこのかとネギが握られていた。

「!! このかくん!! ネギ先生!!」

「チッ……天ヶ崎め………余計な真似を………」

「このヌエの手に握られとる2人が見えるやろ! お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!!」

どうやら2人を人質に捕ったようだ。

「クソ! 卑怯な!!」

苦い顔をするとハクヤに向き直る機龍。

しかし………

「………行け」

「何!?」

驚く機龍。

「どういうつもりだ!?」

「人質に気をとられたお前と戦ってもつまらん。この勝負はケチがついた、決着はいずれ付ける!!」

そう言い残し、立ち去るハクヤ。

「敵ながら、正々堂々とした奴め………」

その行為に感心しながらも、すぐさま城へと向かう。

(迂闊だった………俺としたことが、ヴァリムのことに気を取られ過ぎた………待っていろ2人共、今行く!!)


「スゲーーーー!! ロボットだ!!」

「これ特撮の撮影だったのか!?」

ヌエの登場にヒートアップするギャラリー。

「うぅ!! しまった………」

ヌエの右手に捕まりながら、自分の力不足を呪うネギ。

「ネ……ネギ君、こ、これもCG………? ………とちゃうよね……やっぱ」

戸惑うこのか。

「あの、す、すみません、このかさん………」

(く、何てバカなんだ………刹那さんは僕を信じてこのかさんを頼んだのに………)

「……ネギ君、大丈夫や」

「え……?」

驚くネギ。

「せっちゃんが何があっても守る言うたんや。必ず、せっちゃんが助けてくれるて」

刹那を信じきった笑顔で言うこのか。

「こ………このかさん………」

「何、グズグズ言っとるんや………」

「お嬢様とネギ先生を放せ!!」

このかの信頼に応えるように現れた刹那。

自慢の愛刀『夕凪』でヌエの右手を手首から斬り落とす。

「うわっ!?」

「ひゃあ!!」

驚きながらもこのかを庇って天守閣に着地するネギ。

「んな………おのれ〜〜〜〜………ひよっこ剣士が!!」

激高した千草の意思を代弁するかのように左腕を振って刹那を叩き落とすヌエ。

「がっ!!」

血を吐き、左腕があらぬ方向に曲がり、落下する刹那。

「せ………せっちゃーーーーん!!」

それを追うように天守閣から飛び降りるこのか。

「あーーーッ!!」

「このか姉さん!!」

落下する刹那にしがみ付く。

(お………お嬢様………?)

その時………

2人から光が発せられた。

「ワーーー!!」

「何だーーー!!」

あまりの光の強さに思わず目を覆う人々。

その光の中に浮かぶこのかと刹那。

「うんっ……」

身体から痛みがなくなっていくことを感じる刹那。

見ると、折れた腕は何事もなかったかのように完治していた。

「せっちゃん………よかった」

安堵の笑みを浮かべるこのか。

「お……お嬢様………」

2人はそのまま堀の縁にふわりと着地する。

「さすがはこのかお嬢様や………その力………是非、頂きますわ!!」

千草に応えるように再びヌエが2人に襲い掛かる。

「あ!!」

「お嬢様!!」

このかを庇う刹那。

と、その時!!

「Jフェニックス、ショータイム!!………じゃ、なくて、コール!! フェニックス!!」

機龍の叫びと共に左腕の腕時計を翳すと、腕時計が光輝き、同時にこのかたちとヌエの間に魔方陣が出現する。

「きゃっ!!」

「これは!?」

「何やあれは!?」

そして、その中から赤き鋼の不死鳥が現れる。

その名は………Jフェニックス!!

「おお、またロボットが出た!!」

「こっちはヒーローっぽくてカッコイイぜ!!」

どうやらギャラリーは完璧に特撮の撮影だと思い込んでいるようだ。

「ジェイス! 手早くかたずけろ!!」

腕時計を通じてジェイスに指示をとばす。

[Yes!!]

このかを捕捉するために突っ込んで来ていたヌエの両腕を取って組み合い、パワーで押し倒すフェニックス。

倒れたところでボディに頭部バルカンと肩部マシンキャノンを集中砲火する。

蜂の巣にされ、動力に火が点き爆発するヌエ。

「「「おおぉーーーーーー!!」」」

ギャラリーから歓声と拍手が挙がる。

「な………ヌエが………くっ、退却や!!」

退散する千草たち。

「フ〜〜………危なかった………」

「機龍先生………あなたは一体?」


この時、誰も知るよしはなかった。

決戦の時が近いことを…………………


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