第28話



川辺の立つ2台のPF。

白く塗装されたヤシャと銀色のオードリーだ。

その足元に立つ人影。

千草と赤いロングストレートの髪型のヴァリム共和国の軍服を着た女。

そして、愛機シロヤシャの足に寄り掛かっているハクヤだ。

「ふふ……これでこのかお嬢様は手に入った。後はお嬢様を連れて、あの場所まで行けばウチラの勝ちやな。それにしてもアンタ等はホンマにやりまんな」

猿鬼に拘束したこのかを抱えさせ、横に立つ女に話し掛ける千草。

「当たり前でしょ。こっちはあなたたち、アマチュアと違って、プロなのだから」

かなり高飛車な物言いをするヴァリム共和国の軍服を着た女。

「フン………やはり、気に入らんな」

露骨に不機嫌な顔をするハクヤ。

「そんな少女の力を借りねばならんなど、俺は気に入らん。やるなら正々堂々とやるべきだ」

「ハクヤ………世の中、バカ正直では生きていけんぞ」

皮肉めいた笑みを向けるヴァリム共和国の軍服を着た女。

「………フン」

渋々と視線を逸らすハクヤ。

そこへ、ビックボムのタルカスが戻ってきた。

「今戻ったぜ! 本山とやらは火の海だ! 最高の爆破だったぜ!!」

「御苦労、ビックボム………だが、余計なものまで持ってきたようだな」

「何!?」

と言って、ビックボムは後ろを確認した。

モニターには手に人を乗せた赤いJフェニックスが迫ってくる様子が映された。

[DISCOVERY!! ヴァリム軍のPFを発見!! 数3!! 足元に人影を確認!!]

「居たぞ!! アレだ!!」

「お嬢様!!」

「このか!!」

「このかさん!!」

機龍はフェニックスを少し離れた位置に着地させ、ネギたちを降ろすとショットガンを抜き放つ。

「そこまでだ!! 天ヶ崎千草!! そして、ヴァリム軍!!」

ショットガンを向け、外部スピーカーを通して言い放つ機龍。

「………また、あんたらか」

不敵な態度を取る千草。

「天ヶ崎千草、明日の朝にはお前を捕えに応援が来るぞ! 無駄な抵抗はやめ、投降するが良い!」

刹那が警告を発する。

「ふっ…応援が何ぼのもんや。あの場所まで行きさえすれば………。それにウチには心強い味方がおんねん」

「フフフ、そういうこと」

皮肉めいた笑みを浮かべ、ヴァリム共和国の軍服を着た女が前に出る。

「貴様は!?」

「アタシの名はヴェル。ヴェル・へラー。ヴァリム共和国軍強行侵略偵察部隊ヘルキラーズ小隊の小隊長よ。よろしく、お嬢ちゃん、お坊ちゃん」

小物扱いされ、やや憤慨するネギたち。

「貴様が小隊長か!」

だが、機龍は冷静を保つ。

「フフフ、だったら?」

「直ちに第2地球への侵略をやめ、この星から立ち去れ!!」

警告を発する機龍。

「残念だけど、それは無理ね」

「ふざけるな!!」

機龍の怒声が飛ぶ。

「お〜、怖い、怖い! 悪いけど、お姉さんたちは忙しいの。相手ならこの子たちがしてあげるわ」

と言って、パチンッと指を鳴らすヴェル。

[WARNING!! 周囲に熱量出現!! サイズよりPFと推測!!]

「何!?」

次々と現れるヴァリムのPF軍団。

[機種確認、ヌエ、ヴェタール、イリア、アシュラ。数はおよそ300!!]

「300だと!!」

「ウソ!!」

「そんな!!」

「くっ………」

苦い顔になる一同。

しかし、さらに千草が追い討ちをかけた。

「フフフ、ほならウチも、せっかくやからお嬢様のお力の一端見せてあげまひょ」

取り出した札を木乃香に貼り付ける。

「オン キリ キリ ヴァジュラ ウーンハッタ」

その呪文に呼応し木乃香の体が光り千草の周囲にいくつもの召喚陣が現れる。

「う!………うう〜〜〜!!………う〜〜〜!!」

悶えるこのか。

「お嬢様!!」

「このか…っ……!?」

「近衛くん!!」

やがて召喚陣から大量の鬼が出現する。

「なっ!!」

「ちょっとちょっと、この上、こんなのありなのーー!?」

「やろー、このか姉さんの魔力で手当たりしだいに召喚しやがったな」

「ひゃ、100体くらい軽くいるよ………」

[正確には150体です。ネギTEACHER]

無情なジェイスの報告でさらに苦い顔になる一同。

「あんたらは、この鬼どもと遊んでてもらおか。ほな、ヴェルはん」

「ええ、ハクヤ! 行くわよ!!」

「チッ………」

ヴェルとハクヤはそれぞれの愛機に乗り込むと、千草とこのかを抱えた猿鬼を手に乗せる。

「おい、ヴェル!! 俺は残るぜ!! あのJフェニックス!! 爆破しがいがありそうだ!!」

「好きになさい。では………アディオス」

飛び去るヤシャとオードリー。

(神薙………俺に宿敵と認めさせたからには、それぐらいの状況………乗り越えて見せろ!!)

そう思いながら、千草が言った場所へと向かうハクヤ。

ネギたちは背中合わせに円を組み、機龍は油断なくレーダー、センサー、モニターに気を配る。

「うっ……ううっ……せ……刹那さん。こ、こんなの……さすがに私……」

「アスナさん、落ち着いて………大丈夫です!」

恐怖に震えるアスナとそれを宥める刹那。

(兄貴、時間が欲しい。障壁を!)

(OK)

と、カモと小声で話していたネギが呪文詠唱に入る。

「ラス・テル マ・スキル マギステル 逆巻け 春の嵐 我らに 風の加護を 風花旋風 風障壁!!」

途端に全員とフェニックスを覆うように竜巻の障壁が展開する。

「こ、これって!?」

「風の障壁です! ただし2、3分しか持ちません!」

「よし! 手短に作戦を立てようぜ!? どうする?? かなりまずい状況だ!!」

「心配するな。すでに練ってある!」

フェニックスを膝立ちに屈めて言う機龍。

「ええ!? もう!!」

「さすが機龍さん!!」

「それで!? どんな作戦だ!!」

時間がないので手早く話しを進める。

「危険だが、ネギ先生に近衛くんの救出に向かってもらい、残りはここで敵を食い止める。ネギ先生が近衛くんを救出したら、君たちは離脱するんだ」

「なるほど! それなら………」

「ちょっと待て!!……君たちは? 機龍先生はどうするんだ!?」

「俺はここに残って敵を殲滅する」

「「「「なっ!?」」」」

無謀としか言いようがなかった。

敵の数は膨大なのに対し、機龍はたった1人だ。

1人で3ケタの敵を迎え撃つというのだ。

「無茶です!! たった1人で………!!」

「たった1人だからだ!!」

ネギの言葉を遮り、機龍は叫ぶ。

「この星でヴァリムのPFに対抗できるのは、俺のJフェニックスだけだ! 今ここで、俺が逃げるわけにはいかない!!」

「でも!!………」

「兄貴………ダンナは腹を括ってる。止めても無駄だ」

食い下がるネギをカモが抑える。

「!! カモくん! でも………!!」

「俺たちにできることは、自分の役割を精一杯やることだ」

「………わかったよ」

仕方なく頷くネギ。

「よし! そうとなったらアレもやっとこうぜ!! ズバッとブチュッとよぉ!!」

「アレ??」

「アレって? まさか………」

嫌な予感がするアスナ。

「キッスだよ、キス! 仮契約!!」

「えええっ!?」

こんなときまで金が欲しいのかカモよ?

その後、一同を強引に押し、刹那を仮契約させた。

その様子を眺めていた機龍はフッと微笑んだ。

(そうだ………君たちは青春を戦いに捧げる必要はない………そんな青春を送るのは………俺だけでいい)


「そろそろか………」

「早く出て来い!! 吹き飛ばしてやる!!」

竜巻が消えるのを今か今かと待ち構える鬼たちとヴァリム軍。

やがて、竜巻が途切れていく。

「雷の暴風!!」

だが、その瞬間!!

ネギが雷の暴風で正面突破した。

「おおお!! 西洋魔術師かあ!?」

「やろーー!! 華麗に死ね!!」

タルカス・デストロイヤーが右手のバズーカを千草たちを追うネギに向ける。

「貴様の相手は俺だろ!!」

しかし、それを阻止するため、フェニックスが飛び蹴りをお見舞いした。

「ぐおっ!?」

重量により、ふっ飛びはしなかったが、体制を崩すには十分だった。

キックの反動に乗り、フェニックスは元いた場所の反対側の森へと着地する。

たちまち、ヴァリムのPFに取り囲まれる。

「へへへ、兄ちゃん。コレだけのPFと、あんた1人で戦うつもりかい? 粋だね〜」

「戦う?………違うな」

ビックボムの皮肉に機龍は静かに答える。

「戦うのではない………勝つのさ!!」

軍団の一角に突っ込むフェニックス。

「うおぉぉぉーーーーー!!」


フェニックスが飛んで行った方向から上がる爆炎と響く爆音。

「機龍先生!!」

「神楽坂! 目の前の敵に集中しろ!!」

真名に促され、鬼たちの方に向き直るアスナ。

「落ち着いて戦えば大丈夫です! 見た目ほど恐ろしい敵じゃありません。せいぜい街でチンピラ100人に囲まれた程度だと考えてください」

「それって安心していーんだか、悪いんだか………」

「ぶつくさ言うな! 機龍先生は命がけで戦っているんだぞ!!」

真名の言葉にはっとするアスナ。

そう、機龍は死と隣合わせの戦いをしている。

それに比べれば、何だこれぐらいと自分に言い聞かせる。

「しょーがないわね………じゃあ、ま………鬼退治といこーか!!」

「はい!!」

「了解した!!」

アスナはハマノツルギ、刹那は夕凪、真名はトロンベを装着して鬼たちへと向かって行く。


この戦いの行方を知る者は誰もいない………


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