第84話


遂に、ヴァリムの脅威は葬り去られた。

第二地球は、明日の安息を手に入れたのである。





その後、麻帆良では、復興作業が続いていた。

奇跡的に、アレだけの大決戦だったにも関わらず、味方及び民間人には負傷者こそいれど、死者はいなかった。

破壊された街も、雪広財閥の支援と麻帆良大土木建築研の迅速な作業により、順調に進んでいた。

さらに、超とハカセが、PFを元に造った作業用人型ロボット(もろレ○バー)も、復旧を大きく手助けしていた。

結果、物の数日で、麻帆良は以前の姿を取り戻していた。

そして、そんなとある日の夜、麻帆良学園女子中等部では………





「それでは………3−Aの皆さんの中学校卒業と………」

「ヴァリム軍との戦勝を祝って………乾杯っ!!」

「「「「「「「「「かんぱーーーーーいっ!!」」」」」」」」」

この日、3−A組のメンバーは、中学を卒業した。

それを記念してと、ヴァリム軍との戦勝を祝って、3−Aの教室では、大々的なパーティーが行なわれていた。

勿論、惑星J出身者や、ナギ、アル、ヘルマンすらも参加していた。

「それーーーーーっ!! 飲めや、歌えや、騒げえぇぇぇーーーーーーーっ!!」

「「「「「「「「「イエーーーーイッ!!」」」」」」」」」

元々お祭り騒ぎ好きな3−Aのメンバーのパーティーだけあって、異様な盛り上がりを見せていた。

そちらこちらから、笑い声が響いてくる。

それは、長き戦いを征した者達の笑いだった………





「ガツガツ!! モグモグ!! パクパク!!」

もの凄い勢いで、出されている料理を食べているのは、狛牙 勇輝。

彼にとっては、一生に一度食べられるかどうかの豪華な料理ばかりだった。

「うん!! うんまい!! うんまい!!」

「ったく………意地汚い奴め」

その様子を隣で見ていたハクヤ・ロウは、呆れたように言う。

と………

「おっと、いっただきー!!」

「ぬっ!?」

今まさにハクヤが手をつけようとしていた料理を、勇輝が横から掻っ攫い食った。

「貴様!! それは俺の………」

「へへっ、早い者勝ち………ぐええっ!!」

勝ち誇ったように勇輝が言った瞬間、ハクヤの鎖がその首に巻きついた!!

「吐け! コノヤロー!!」

そのまま勇輝の首を締め上げるハクヤ。

勇輝の顔が、どんどん青くなっていく。

「あががががが………何しやがるーーーーっ!!」

「ぐおっ!!」

しかし、反撃のヤクザキックを受けて、吹き飛ばされる。

「貴様〜〜〜〜〜っ!!」

「殺んのか〜〜〜? 掛かって来いや、コラァッ!!」

途端に睨み合いに発展する2人。

「おっ!! 喧嘩だ、喧嘩だ!!」

「ハクヤさんに500円!!」

「勇輝さんに700円!!」

それを見て、トトカルチョを始める3−A。

「「うおおぉぉぉぉーーーーーっ!!」」

そして今、両雄が激突………しなかった。

「雪広あやか流合気柔術!! 雪中花!!」

〈えいっ!!〉

激突寸前に、勇輝はあやかに投げ飛ばされ、ハクヤは五月にフライパンで頭を叩かれた。

「「ぐはっ!!」」

頭から床に倒れる2人。

「ゆ、雪広!! テメェー、何しやが………」

「お黙りなさい!! 折角の祝いの席で喧嘩を始めるとは何事ですか!! だから貴方という人は!!」

「何だとコラァーーッ!!」

逸早く復活した勇輝は、ハクヤの事などすぐさま忘れて、あやかとの口喧嘩を展開し始める。

「おお! 今度はいいんちょと勇輝の喧嘩だー!!」

「いいんちょに1000円!!」

「勇輝さんに900円!!」

途端にトトカルチョの内容を変更する3−A。

動じないのが、このクラスの良いとこでもあり、悪いとこだ。(笑)

一方、ハクヤの方は………

「〜〜〜〜〜ッ!!」

フライパンで殴られた頭部を押さえながら、声にならない声を漏らしている。

〈喧嘩はダメです!!〉

「四葉………だが、アイツが俺の………」

〈ハイハイ、また作ってあげますから、怒らないで〉

「………チッ!! 分かったよ」

こちらも、あっさり引き下がるハクヤ。

………良い意味で尻に敷かれているようだ(笑)。





「刹那ちゃ〜〜〜ん!! 盛り上がってる〜〜〜っ!!」

赤い顔をして、矢鱈にハイテンションのシリウスが、酒瓶を片手に刹那にヘッドロックを掛けた。

「うわっ!? ちょ、ちょっと、シリウスさん!! 酔ってますね!!」

「ダ〜〜ハッハッハッハ!! 酒飲めば酔っ払うのは当たり前だ〜〜〜っ!!」

「貴方、未成年でしょ!!」

「固い事言うなって………おおっとと………」

「キャアッ!?」

と、足元がフラついたシリウスは、刹那にヘッドロックを掛けたまま倒れこんだ。

そして、刹那を押し倒す形となった。

「あ〜〜〜っ!! シリウスさんが刹那さんを押し倒してる〜〜〜〜っ!!」

「「「「「「「ヒュウヒュウ〜〜〜〜〜ッ!!」」」」」」」

「!!〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!! 斬る〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「うわあぁ〜〜〜〜〜〜っ!! ゴメンなさい〜〜〜〜〜〜っ!!」

何時ものように、刹那は夕凪を抜いて、シリウスを追い掛け回すのだった。





「は〜い、ゼオくん。ア〜〜〜ン………」

「ア〜〜〜ン………」

などという甘ったるい空気出しながら、互いに料理を食べさせ合っているこのかとゼオ。

「う〜〜ん、美味しい。じゃあ、今度は僕の番だね。ハイ、ア〜〜〜ン………」

「ア〜〜〜ン………」

普通の人にならかなりうっとおしがる光景だが、その他大勢のカップル達のいるこの会場では、特に目立っていると言えないのが凄い………

その後も2人は、終始甘ったるい空気を発していた。





「ハハハハ、楽しんでるかい? 夕映ちゃん」

「ハイ、一応………」

レイの問に、『ゲッ○ー線オイル』と書かれた、相変わらず意味の分からない飲み物を飲みながら、何時もと変わらぬ様子の夕映。

「そうか、そりゃ良かった」

しかし、レイには分かっていた。

その夕映の顔が、微妙に嬉しいそうにしているのが。

「………レイさん」

と、夕映は、レイに寄りかかった。

「ん? 夕映ちゃん?」

「………無事で良かったです」

「………ありがとう、夕映ちゃん」

レイをそう言って、夕映の頭を優しく撫でてやるのだった。





「やっと戦いが終わったか………」

「これでもう安心して過ごせますね」

長きに亘る戦いが終わったのを感じ、ほのぼのとしているレッディーとさよ。

あの戦いで、一番の重傷を負っていたレッディーだったが、魔法協会の優秀な治癒魔法使い達の治療を受け、今じゃすっかりピンピンしている。

「………さよちゃん、ありがとう」

「えっ? 何がですか、レッディーさん?」

突然感謝を告げてきたレッディーに、首を傾げるさよ。

「要塞島内での戦いで………俺は我を忘れ、死すら厭わずに戦おうとしていた………でも、その時、さよちゃんの声が聞こえたんだ」

その時の様子を思い出しながら、染み染みと語るレッディー。

「もしあの時、あのまま戦っていれば、恐らく俺は………」

「ダメです!!」

不意に、さよは自分の手の人差し指をレッディーの口に当てて言葉を防いだ。

「!? さよちゃん?」

「こういう席で、そういう話はダメです。もっと明るくいきましょう! ね?」

そう言って、レッディーに笑顔を向けるさよ。

「………そうだね」

それに釣られて、レッディーも笑顔を浮かべるのだった。





「どうぞ、アーノルドさん」

そう言って、アーノルドのグラスに飲み物を注ぐ千鶴。

「ああ、これはどうも………」

感謝しながらそれを受け取るアーノルド。

「「………………」」

その後、沈黙が入るが、それは気まずさによるものではなく、お互いに分かり合っていると言った沈黙だった。

騒がしいパーティーの中、2人の間には、静かで穏やかな空気が流れていた。





「続いての歌い手は、たった今デビューした新ユニット………でこぴんロケットーーーッ!!」

「「「「イエーーーーイッ!!」」」」

美砂、円、桜子のチア3人組に亜子を加えたメンバーが、ライブを始める。

「カッコイイーーーーッ!!」

「良いぞーーーーーーっ!!」

次々にメンバーに声援が飛ぶ。

(ゼラルドさん………見てくれてるかな?)

ふと、亜子はゼラルドの事が気になり、その姿を探す。

ゼラルドは、亜子の事を見ており、2人の視線が交差した。

「…………(ニコッ)」

それに気づいたゼラルドは、笑顔になって手を振った。

(あ………)

それを見た亜子は、若干頬を染めながら、ウインクして返すのであった。





「あの〜〜………のどかさん」

「ハイ、何ですか? ネギせんせー」

「えっと………その………あの………」

何やら顔を赤くして、口籠るネギ。

「??」

その様子に怪訝な表情を浮かべるのどか。

「その〜〜〜〜………落ち着いたら、僕の故郷のウェールズに来てくれませんか?」

「えっ?」

「お姉ちゃんに………のどかさんを紹介したいんです」

「え、ええっ!? そ、それって!!」

親類に紹介=結婚の挨拶、という方式が、のどかの頭ので組み上がっていた。

「あ、えっと………多分、のどかさんが考えている意味もあります。ど、どうですか? 来ていただけますか?」

「は………ハイ、是非行かせて貰います!」

「のどかさん………」

「ネギせんせー………」

そのまま見つめ合う2人。

と、そこへ………

「オイオイオイ!! ネギ〜〜!! そういうことは、まず父親である俺にするべきだろ〜が〜」

酒瓶を片手に、顔を赤くしたナギが割り込んできた。

「うにゃ〜〜〜………ナギ〜〜〜………大好き〜〜〜」

………背中に泥酔したエヴァを貼り付けて。

「キャアッ!!」

「うわっ!! 父さん!! 酔ってるでしょ!!」

「おうよ〜〜!! コイツとアルとヘルマンのオッサンで飲み比べしててな〜〜!! 結果は俺の勝利よ〜〜!! ガ〜〜ッハッハッハ!!」

豪快に笑うナギ。

その向こうでは、酔いつぶれたヘルマンとアルが横たわっている………

「まったく、もう………ハアァ〜〜」

そんな父の姿に、思わずタメ息を零すネギ。

「ガ〜〜ッハッハッハ!! なあ〜〜、ところでよ、ネギ」

「何? 父さん」

「オメェ、母ちゃん欲しいか?」

「「えっ!?」」

ナギの爆弾発言に、固まるネギとのどかだった。





騒ぐ一同から、やや離れて壁の花となっている2人がいた。

「………盛り上がってるな」

「そうだね………」

ジンとサクラだった。

「第二地球征服が失敗した以上、ヴァリムの国力はもう殆ど残ってないだろう」

「惑星Jでの長い戦争も終りそうだね」

「ああ………なあ、サクラ」

「何? ジン」

「もし、戦争が終わったら………俺は、退役して届け物屋をやろうと思うんだが………お前も一緒にやらないか?」

「えっ!?」

サクラの目が、驚きで見開かれる。

しかし、次の瞬間には笑顔を浮かべて、ジンに抱きついていた。

「ジン! 大好き!!」

「俺もだ、サクラ」

そのまま、2人は熱く抱擁し合うのだった。





「はい………分かりました………では、明日にでも………はい………では、失礼します」

別の方向で、何やらコソコソとしていた機龍は、そう言って通信機を切った。

………こんな時でも、礼装用の軍服を着ている機龍は、ある意味、模範的な軍人だ。

「機龍………」

と、そんな機龍に声を掛ける真名。

「ん? どうした? 真名」

「少し………抜け出さないか? 2人っきりで話したいんだ」

「………了解」

そう言い合って、2人はこっそりと会場を抜け出した。











麻帆良湖畔………

月と星の明かりで照らされた湖畔は、幻想的な雰囲気を出していた。

「綺麗だな………」

「ああ………これもお前が守ったんだ」

「………そうだな」

そんな湖畔の一角に、機龍と真名は佇んでいた。

「………真名。実は………」

「本国から帰還命令がきたんだろ………」

「!!………知っていたのか」

「ああ………」

真名の言う通り………先程、機龍が受けていた通信は、アルサレア本国より帰還命令を伝えるものだった。

「………明日中には、この地を立つ予定だ」

「そうか………」

顔を俯かせる真名。

分かっていた事だった………

機龍達はこの星の人間ではない………

ヴァリム討伐という任務を受けて、惑星Jから派遣された軍人だ………

その任務が終わった今、帰還命令が下されるのは当然の事だった………

「狛牙やゼオ、それにハクヤはどうするんだ?」

「下手に本国に連れて帰れば軍法会議で刑は免れない………皮肉なものだが、3人供天涯孤独らしいからな………ここへ残していこうと思う」

「そうか………」

「真名、思えば君には一番世話になったな。ありがとう」

「機龍………」

段々と、真名の目に涙が浮かんでくる。

激しい戦いの末に、愛を掴んだ2人だったが………その前に立ち塞がったのは、現実と言う名の別れだった。

「どうしても………帰るのか?」

「惑星Jでは、まだヴァリムの侵略が続いている。だが、今回の第二地球征服が失敗した以上、ヴァリムの国力は大きく衰える………惑星Jの長き渡る戦争が終わるかもしれないんだ」

惑星Jの長き渡る戦争が終わる………

それは、機龍が………いや、多くの惑星Jの住人が望んで止まない事だった。

「そうか………そうだったな………」

必死に泣きそうになるのを堪える真名。

本当は帰らないでほしい………

ずっとここに居てほしい………

そんな本当の気持ちを、自分勝手な願いだと押し殺し、真名は最愛の人との別れに耐えていた。

「でもな、真名………」

だが………ここで機龍から思いがけない言葉が出た。



「何時か俺は………この星へ………この地へ帰ってこようと思う」



「………えっ?」

思いがけない機龍の言葉に、驚く真名。

「俺にとってこの星、この地は、既に第2の故郷であり………最愛の人が住む星だ。だから俺は、必ず帰ってくる!」

「き、機龍………」

遂に抑えきれず、真名は涙を流し始める………

しかし、それは………その涙は、先ほどまで耐えていた悲しい涙ではなかった。

「そしてもし、帰ってこれたら………真名。また俺と一緒に居てくれるか?」

「!! ああ!」

そう言って、機龍の胸に飛び込む真名。

機龍はそれを優しく迎え入れる。

「真名………愛している」

「私も………愛している」

2人はそう言って互いに抱きしめ合い………

やがて、見詰め合った後に、唇を重ねた………

月と星の明かりが、2人を優しく包み込んでいた………










そして、次の日………

第二地球を………麻帆良を救った勇者達は、鋼の箱舟に乗り、静かに去って行った………

掛け替えのない仲間達の胸に………再開の約束を残して………










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