ブレイブXIII 黒幕にお仕置きする勇気



「・・・さん。エヴァンジェリンさん!!」

誰かが呼ぶ声を聞きエヴァは目を覚ました。そこには、心配そうに見つめるネギと明日菜の姿があった。

「・・・ぼーや。そうか・・・・私は負けたのだったな」
「ギリギリでした。僕もあの時・・・あの姿になれなかったら。エヴァンジェリンさんに負けただけじゃなく、明日菜さんまで失っていました」
「・・・そうだ!ぼーや、何故あの姿になれたんだ。それにその杖の中にある剣はなんだんだ?」

そう言って、エヴァはネギの持っている杖を指差した。

「僕にもよく分からないんです。ただ、記憶の中で父さんがこの剣を使っていたのが見えたんです」
「ナギが!!バカな、アイツがそのような姿を見せた事なんて今までなかったぞ!!」
「それに関しては、僕が説明するよ」

突然の第三者の声に皆が身構えるその視線には、和樹と茶々丸が立っていた。

「あ・・・・和樹さん」
「お前・・・何故ここに?それに茶々丸も」
「それはね、茶々丸さんを先輩が助けてくれたからよ」

事情が読めないネギとエヴァに、明日菜が簡潔に説明した。

「そうだったのか。私の従者を助けてくれて感謝する」
「たいした事してないよ」

そう言い苦笑する和樹。すると、そわそわしながらネギが尋ねた。

「あ、あの。なんでこの剣のことを知っているんです?それに父さんの事も」
「僕が知っているというより、“コイツ”が知っているかもしれないってとこかな」

そう言い、和樹は手のひらにギアを置いた。すると、骸骨の形をした銀色の指輪へと姿を変えた。

「・・・・んあ〜〜〜〜。ひっさしぶりに呼ばれたな。お、和樹じゃねえか。今日は何用だ?魔族でも出やがったか?」

なんと、その指輪は喋りだしたのである。それを見たネギ・明日菜・エヴァ・カモは固まってしまった。和樹が指でネギのほうを指すと、指輪がネギのほうを見た。すると・・・。


「お、ナギ・・・・・じゃねえよな?あ、もしかしてお前ネギか?」
「え!?僕の事知っているんですか!?」
「当たり前だ。俺はお前の親父であるナギ・スプリングフィールドの相棒だぜ」
「え・・・えええええええええええええええええええええええええええええ!?」


突然の事に驚きの声を上げるネギ。すると、それを聞きエヴァが尋ねる。

「お、おい貴様!!ナギの相棒とはどういう事だ!?」
「ん・・・・・おお!お前ってもしかして闇の福音か?ナギが心配してたぜ。呪いどうすっかな〜ってよ」
「な・・・・・ってそれは後でじっくり聞いてやる。貴様相棒と言ったが・・・何故お前が相棒になる必要がある?」

それを聞くと、指輪はしかめっ面をする。

「お前じゃねえ、俺の名はザルバ。ナギこと黄金騎士“牙狼”に情報と戦術でサポートする、いわゆる使い魔の一種だ」
「黄金・・・・騎士だと」
「そうだ。ちなみに俺は和樹の父である宗司が持つスキル“英雄”でナギにプレゼントの形で呼び出されたギアの亜種。特定の召喚しか不可能っていうギアとして俺はナギのもとにきた」
「ちょ、ちょっと待て!!そやつの父親も同じような力を持っていたのか!?」

エヴァの問いに、今度は和樹が答える。

「僕には聞かされなかったんだけど、父さんもどうやら何かしらの呪いを受けたことで、スキル“英雄”に目覚めちゃったらしいんだ。そして、消息が消える直前のナギさんに、父さんがザルバを送ったって・・・ザルバ本人から聞いたよ」
「ま、そういう事だ」
「勝手に終わらすな!!第一黄金騎士と言ったが、あれもまた幻想世界の異物か?」
「ま〜な。ただし、送ったからと言って黄金騎士には簡単にはなれねえぜ。まず俺のもとで鎧召喚前の状態での剣術を会得し、鎧の召喚を確実なまでに行えるようにしなければならねえんだ。召喚が確実にできねえと、戦いでは勝てないからな」
「なるほど・・・なら何故ぼーやは召喚できたのだ?」
「な、何!?ナギのせがれは一発で召喚出来たのかよ?まずこのちっこい身体じゃ鎧の重さに耐えられないってんだ」
「あ、あのね・・・」

その時の様子を、明日菜が細かく説明する。

「う〜ん・・・・おいネギ」
「なんですか?」
「召喚前に身体がその嬢ちゃん並にでかくなったって聞くが、何か詠唱したか?」
「えっと・・・・・確か“魔戒騎士”って言ったのを覚えてます」
「・・・なるほど。そういう事か」
「え、どういう事よ?」
「魔戒騎士っていうキーワードはな。自身への魔力供給に加え、魔力による身体増長も可能なんだ。それにより、ネギの身体はでかくなったんだろう。ナギも同じようにしてたからな」
「そうだったんですか」
「ま、ただし長時間は保たねえから気をつけな。・・・・出来れば俺が教えたいんだが、さすがに和樹の魔力を使わせるわけには・・・・っておい和樹!?」

ザルバがそう言いながら和樹を見ると、和樹はなんと魔法を発動させ、ザルバを作成したのだ。そのため、和樹の手のひらにいたザルバは、元のギアへと戻ってしまった。

「ば、バカ野郎!!和樹、お前また魔法使ったな!!どうするんだ!!お前は後“5回”魔法を使ったら灰になるんだぞ!!」

それを聞いた瞬間、皆が騒ぎ出した。

「ちょ・・・・どういう事なの先輩!?」
「なんで灰になるんですか?!」
「お前、何を隠している!?」
「先輩・・・真実を教えてください・・・」

四人からガーっと攻められ観念したのか、自身が魔法を八回使えば消滅するという事を話した。すると、ネギは泣きそうな顔で言った。

「な、何で・・・・僕のために・・・・命を削ってまで指輪を作ったんですか。いくらなんでも和樹さんは命の使い方を間違ってますよ!!」
「そうかもね・・・・・でも、僕は魔法を使った事には必ず意味があるって信じているんだ」
「意味がある・・・・ですか?」
「うん。人が行う事象には・・・・・必ず意味がある。だから、僕は迷わず君にザルバを送った。それが、必ず意味がある事だって思うから」

そう言うと、和樹はネギにザルバを渡した。ネギは一瞬躊躇したが、和樹の思いを受け取り、それを中指につけた。

「これからよろしく、ザルバさん」
「おう、よろしくな。ネギ」

二人が意気投合したのを見ると、和樹はすっと立ち上がった。そして、なにやら黒いオーラを出し始める。

「ど・・・どうした和樹(汗)」
「いや・・・・・どうやら茶々丸さんを傷つけようとしたのは・・・・・3−Bの仲丸だったようなんだよ」

それを聞いた瞬間、エヴァまでもが黒いオーラを発動してしまったのである。

「ほぅ・・・・・ならば共同戦線といくか・・・・」
「だね。アイツにはきつめのお仕置きでもしておかないとね。あ、その前に・・・」

和樹はそう言うと、突如右手に魔力を込め始めた。そしてそれを・・・・エヴァへと当てたのである。すると、まるでエヴァを拘束していた鎖のようなものが、一瞬にして弾けとんだのである。

「なっ!?・・・・まさかお前」
「うん。エヴァちゃんにかかっていた呪いを強制的に解除したよ」

それを聞き愕然とする皆。それを聞き、エヴァが驚きながらも和樹に尋ねる。

「お前・・・・いいのか、私の呪いを解いて?」
「いいの。別にエヴァちゃんは呪い解けたからって、悪事働く気ないでしょ?」
「まぁ・・・・な。それに私は、お前に興味が湧いた。その強さ・・・・見極めさせてもらうぞ」
「はは・・・・お好きに(汗)。では闇の福音ちゃん」
「その言い方は止めろ(汗)」
「そう?ならエヴァちゃん。黒幕を潰しにいこうかな?」
「そうだな。殺りにいくか」

そう言うと、二人は月光に輝く橋を爆走し始めた。それを見ながら呆然とするネギと明日菜。茶々丸だけは、自分のために怒る二人に、非常に感動していた。

「やれやれ・・・・後四回か。どうなる事やら・・・」


「う!!何だ今の悪寒は!!」
「それどころじゃないぞ仲丸!!ウィルスの怪獣は変な超人に消されてしまった上に、データの改ざんまで修正されてしまってる!!」
「なんだと!!」
「どうするのよ仲丸!!まだバレてないだけマシだけど、結局は大損じゃない!!」
「ええい黙れ松田!!お前もこの話に乗っただろうが!!」
「成功するって言ったのはアンタでしょ!!」

仲丸・浮氣・松田の三人は、計画が失敗したことにより責任の擦り付け合いをしていた。すると、突如三人がいる部屋を叩く音がした。渋々松田が、そのドアを開けた。

「一体誰・・・・・・鬼ーーーーーーーーー!!」
「誰が鬼か!!」

次の瞬間、松田の体は綺麗に氷付けになってしまった。それを見た二人がゾクっと震え上がる。するとドアが開き、そこから黒オーラ全開のエヴァンジェリンが姿を見せた。

「貴様・・・・・・・私の従者を破壊しようとするとは・・・・・死にたいらしいな。若造?」

エヴァの目は据わっており、普通の人間なら見た瞬間逃げるだろう。しかし、多少和樹で慣れがあるのか、浮氣はなんとか答える。

「わ・・・・若造だと!!アンタのほうが“ロ”だろうか!!」
「いっぺん死ね!!」

それを聞いた瞬間、エヴァは右手に魔力を全開にして拳を叩き込んだ。それにより、浮氣の体はゴムボールのように弾け飛び、部屋中にぶつかりながら止まった。生きてはいるが、ビクビクと痙攣していた。それを見た仲丸は勝てないと察した。

「こ、こうなったらにげ」
「逃げる気かい・・・・仲丸!!」

突然の言葉に完全に震え上がる仲丸。ギリギリと油の切れたゼンマイの音を立てながら後ろを振り向くと、装甲を纏った響く鬼より強い雰囲気の和樹の姿があった。

「し・・・・式森(汗)」
「覚悟は・・・・・いいね?」
「ま・・・・まだ心の準備が・・・」
「決まってるね。じゃぁ逝こうか?」
「どこへーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

仲丸は断末魔の叫びを上げると同時に、意識を失った。


「ん・・・・んん。は!?・・・・・・ここは、俺の部屋か・・・・・」

仲丸は目を覚ますと、自分の部屋であるのを確認した。そして完全に確認すると、安堵の笑みを浮かべた。

「ふ〜やばかったぜ。式森の奴、絶対に仕返ししてやるぜ・・・・おっと」

仲丸はそう言うと、自分のノートパソコンを開いた。そして、自身が持っている株の状態をチェックし始める。

「ふん・・・・ここの株は後一時間したら売りだな・・・よし」

そう言うと、仲丸は悪夢で疲れたのか少し仮眠を取り始めた。そして一時間が過ぎ、仲丸は起き上がる。

「さて、そろそろだな・・・・・って・・・・・・何ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

仲丸はパソコンを見て愕然とした。そこには、“何故”か株の状態が一時間経ったはずなのに“一日”経っていたのである。それにより、株価はひどいまでに変動していた。

「な、何故一日経っているんだ・・・・・そ、そうだ。これは内部の時間がズレているんだな。いや〜心配したぜ〜」

そう言ってうお〜っと天を仰いだ仲丸。そして再び画面に目をやった瞬間、悪夢は増殖した・・・。

「な・・・・・・・・何故だ!?何故既に一ヶ月も時間が過ぎてるんだ!!」

そう。画面の株価を見ると、時間が一ヶ月も流れており、株価は大暴落していたのである。

「な・・・・なんとか・・・・あんとかせねばーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

仲丸はそう言うと、物凄いスピードでマウスを動かし株価の変動を読もうとしたが、一時間が経つと、一ヶ月。更に一ヶ月と時間が増え、日が昇った頃には・・・・パソコン内で24年の月日が経っていたのである。

「何・・何・・・・だ・・・・・・これ・・・・・ハ・・・・ワケ・・・・ワカラナイ・・・・ゼ」

最後の辺りはカタコトになった果てに、仲丸は地面に倒れこんだ。その時、ガチャリと部屋が開き、エヴァと和樹が入ってきた。

「和樹よ・・・・・お前も随分と酷な事をするな」
「これくらいの地獄を見ないと、懲りないだろうしね。ま、これで懲りたとも言えないけど」

そう。和樹はなんとハカセに頼んで、“一日で24年を体感する”という装置を開発してもらったのだ。仲丸が常に株を気にするのを逆手にとった。和樹の必殺である。

「しかも、これで仲丸は○○億ぐらいの痛手を追ったはずだよ。ま、仲丸の事だし、一ヶ月もすれば元には戻せるかもね」
「そうか・・・・まぁ、あの下衆にはいい薬にはなるだろう」

そう言って高笑いするエヴァ。それを見ながら和樹は苦笑していた・・・その時、突如和樹は窓の外へと駆け寄った。そして、窓の外から何かを見ていた。疑問に思ったエヴァは和樹に駆け寄る。

「どうした?」
「いや・・・・・・何か嫌な視線を感じたんだ」
「3−Bの奴等か?」
「いや・・・・・・僕が根本的に・・・・嫌う何かって・・・・・感じだよ」

そう言いながら、和樹は僅かながら身体を震わせていた。それは恐怖ではなく、何かへの嫌悪感のようにも見えたのだった・・・・。


「へぇ・・・・俺の気配が読めるとはね。感心だな〜」

そう言いながら、麻帆良の時計塔に一人のフードを被った少年が立っていた。フードにより顔は見えなかったが、その言葉は幼いように聞こえ、身長は割りと小さいほうだった。
風がはためく中見えるその口は、ニタリと気持ちの悪い笑い方だった。

「さってと・・・そろそろ決着をつける時が近づいてきているかもね・・・・和樹」

そう言った瞬間、フードがバサっと一瞬だけ大きく揺らいだ。その時見えたのは・・・・真紅に輝く両眼だった。そして次の瞬間、その少年は姿を消したのだった・・・・・・・。


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