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青井さんと僕

 昼休みの教室は、がやがやと賑やかだ。
 皆、思い思いに席を移動したりくっつけたりしながら、仲の良い友人同士でつるみ、昼休みを満喫している。
 そんな中、僕は一人机に座って、その時を待っていた。
 ごく自然に、青井さんが席を立つ。弁当袋2つと水筒を抱え、自然な足取りで当たり前のように彼女が教室から出て行く。
 僕は視界の端でそれを確認すると、ちょっとだけ間を空けてから席を立った。
 教室から出る時にちらっと振りかえり、教室内の様子を見たけど、昼休みに教室を出ていく僕たちのことを気にしているクラスメイトは、いつものように誰もいなかった。

 僕も青井さんも、クラスに何人かはいる、目立たない生徒の一人だ。
 クラスの連絡網とかでもナチュラルに忘れられそうな、そんな生徒。
 目立たない生徒は目立たない生徒同士で友人を作ることもあるだろうが、僕と青井さんにはそういう友人はいなかった。
 意図的にハブられていたり苛められていたりするわけではなく、目立たなすぎるがゆえに誰にも興味を持たれない、そんな存在の生徒だ。
 たぶん、同窓会とかやることになっても、自分のもとには招待のハガキが届くことはないだろう。そういう自信がある。
 とても自慢になるようなことではないが、僕は、いや、僕と青井さんはそういう目立たない側の人間なのだ。
 だから、僕と青井さんが付き合っているということを、誰も知らない。

「青井さん、おまたせ」
 渡り廊下を通り、特別教室がある棟の階段を上った先。
 いつもの場所に、青井さんがちょこんと腰をおろしていた。
「…………」
 僕の言葉に、彼女は無言で首をかすかに振る。ショートカットのわりには長い前髪が、彼女の首の動きに合わせて揺れ、伏し目がちな瞳が覗く。

「お腹空いたね」
 言いながら、彼女の隣に腰を下ろす。
 こうやって青井さんのすぐ隣に座ったり並んだりする時、僕はいつも彼女の小柄さを再認識する。
 中学生よりも小さいのではないかと思われるその身長は、伏し目がちな瞳と物静かな雰囲気によって、実数値以上に小さく、小柄な印象を受ける。
「…………」
 腰を下ろした僕に、青井さんが無言のまま弁当袋を差し出してきた。
「いつもありがとう」
 お礼を言って受け取った僕に、彼女は、
「…………」
 やっぱり無言で首を振る。
「いただきます」
「…………」
 僕の言葉に合わせて、口の中でつぶやくように、彼女の唇がわずかに「いただきます」の形に動いた。

 そのまま僕たちはお揃いのお弁当を食べ、青井さんが水筒に入れて持ってきてくれた冷たい麦茶を飲み、人気のない階段で二人きりで昼休みを過ごす。
 それが、だいたいいつもの僕たちの昼休み風景だ。

「ごちそうさま。いつもありがとう」
「…………」
 空になった弁当箱を渡すと、また無言で彼女が首を振る。
 実を言うと、僕は今日、青井さんの肉声を一言も聞いていない。
 青井さんが一言も発しないのは、別に怒っているわけでも機嫌が悪いわけでもなく、ただ単に、極端に無口で極端に無表情だからだ。
 彼女と付き合い始めたばかりのころは面喰うこともあったが、今では彼女の表情から彼女が何を言いたいのか、だいたい推測できるくらいには慣れたつもりだ。

「昨日言ってたカボチャコロッケ、早速作ってきてくれたんだね」
「…………」
 また無言だけど、今度は首を縦に振る青井さん。
 そのまま、こちらの様子を窺うように見上げてくる彼女を見て、僕は付け足した。
「美味しかったよ。すごく」
「…………」
 またまた無言だが、彼女が嬉しそうにはにかむ様子が見て取れた。
 といっても、表情の変化は極々わずかだ。
 長い前髪に半ば隠れた伏し目がちの瞳を、ほんの少しだけ細め、いつもは真一文字に結ばれた口元もほんの少しだけ綻ばせる。
 その程度の表情の変化だが、僕には青井さんが本当に嬉しがっていることが分かった。
 彼女はすごく無口だけど、無感動なわけではなくて、むしろ内面は外見とは裏腹にとても感情豊かだということを、僕はこれまでの付き合いで理解していた。

 そんな青井さんの性格を裏付けるかのような出来事が、次の瞬間起こった。

「ぅ!?」
 唐突に、キスをされた。頬ではなく、口にだ。
 ちゅっ、と、軽く触れる程度のキスだが、いきなりだったのでびっくりして、上体が逃げるようにのけぞってしまった。
「…………」
 それが、彼女には不満だったらしい。
 ほんの少しだけ寄せた眉と、ほんの少しだけ尖らせた唇が、「どうして逃げるの?」と言っているのが分かった。
「いや、だって……。びっくりするでしょ。普通に」
 そう言うと、「やり直し」とでも言うように、僕の首にしっかりと腕を絡め、さっきよりも幾分深いキスを彼女がくれた。

 * * * * *

 結局、今日、最初に彼女の声を聞けたのは、学校の帰りに寄った彼女の部屋でだった。
「……電気」
 消え入りそうにか細い声。だけど、とても澄んだ綺麗な声。たまにしか聞けない分、僕は余計に彼女の声が好きだった。
「うん。消すね」
 後ろから彼女を抱きすくめ、つむじに鼻を埋めて彼女の匂いを堪能しながら、僕は照明のリモコンに手を伸ばした。リモコンを2回押し、小さい電球だけの明かりにする。

 今日は珍しく、僕の方から彼女を誘った。
 エッチは昨日したばかりだけど、プールの授業が終わった後の、しっとりと濡れた彼女の髪の毛を見ていたら、我慢が出来なくなった。

 青井さんは、中学生よりも小さい背と、それに合わせたかのように小ぶりな胸のサイズにコンプレックスを感じているらしく、明るいところで裸になるのを嫌がる。
 今日のお昼の時みたいに学校内で平気でキスしてくるくせに、こういうところを恥ずかしがるのはよく分からないが、それが乙女心というやつなのだろうか。

 少し塩素の匂いがする髪の毛を嗅ぎながら、抱きすくめた腕を動かし、学校指定のニットべストの上から青井さんの胸に手を這わせる。
「…………ん……」
 青井さんの薄い胸の膨らみを撫でるように揉むと、彼女の口から吐息のような喘ぎが漏れた。

 腕の中にすっぽりと収まっている彼女を、後ろから攻める。
 右手で胸を揉み、左手はお腹から腰のラインを滑らせ、スカートへ。
 クラスの他の女子たちよりも丈の長い、膝が半分隠れているスカート。左手でその裾を手繰り寄せ、中に侵入する。
「んっ……!」
 ほっそりとした太ももを撫でると、彼女の肩がぴくんと跳ねた。
 閉じた脚をこじ開けるように、太ももの間に手を差し入れ、やわらかな内ももを撫でまわす。その間も右手は動かし続け、うっすらと膨らんだ胸の感触を楽しむ。
「……ふ、あっ……。ん、んっ……」
 吐息のようにか細く喘ぎながら、彼女が小さな身体を小刻みに震わせる。
 その可愛らしい反応に、僕の興奮も高まる。すでに下半身はいきり立っており、制服のズボンを盛り上げている。
「青井さん、可愛い……」
 たまらずつぶやき、より激しく彼女を攻める。
 左手は執拗に内ももを揉みしだいて柔肌の感触を楽しみつつも、時折、上の方に遠征して脚の付け根を指でなぞる。ニットべストの上から撫でていた右手は、いつしかベストの中にもぐりこみ、シャツの薄い布越しにブラごと胸をふにふにと刺激していた。
「んッ、あっ、や、ふあ、あ、やッ! あぁ…ッ!」
 激しい攻めに、彼女の身体がビクビクと跳ねる。
 小さな身体はいつしか縮こまるように“く”の字に折れ、僕が完全に後ろから覆いかぶさるような体勢になっていた。彼女の腰の後ろに、ガチガチに勃起した股間が当たる。
 もっと感じさせたい。もっと可愛く乱れる彼女が見たい。
 本能のままに、彼女のシャツの裾をスカートから引き抜き、胸に直に触ろうとした時、
「──やっ、イヤ、待って……!」
 彼女の切羽詰まった声で、暴走寸前だった僕の頭に理性が復活した。
 同時に、頭から冷や水を被ったかのような感覚に襲われた。
 ……しまった。夢中になるあまり、乱暴にしすぎてしまったかもしれない。
 彼女に嫌な思いをさせてしまったのだろうかと、僕は頭が真っ白になった。
 後ろから抱きすくめたまま、凍りついたかのように固まっている僕に、彼女が肩越しに振りかえる。
 真っ赤な顔に潤んだ瞳で僕を見つめ、荒い息をつきながら言った。
「……痴漢プレイ……?」
「え? いや……」
 そういうプレイのつもりではなかったが、言われてみれば、まるで満員電車の痴漢のように彼女を攻めていた自分に気がついた。
「ゴ、ゴメン。……嫌だった?」
 慌てて謝ると、彼女はふるふると首を振った。
 彼女の様子からは、嫌がっているようなそぶりは見受けられない。どうやら杞憂だったようだ。
 では、さっきの青井さんの反応は何だったのだろうか?
 その答えは、すぐに分かった。
 彼女が肩越しに僕を見つめている。
 眉を切なげに寄せ、半開きにした唇から荒い息が漏れ、顔を耳まで真っ赤に染め、潤んだ瞳で僕を見つめる彼女。
 彼女のこの表情を、僕は知っている。
 途端に、僕の脳味噌が再び情欲に支配され始め、股間も急速に復活し始めた。
 乾いた喉を潤すように唾を飲み込み、彼女に問いかけた。
「もう、入れてほしい?」
「…………」
 彼女は無言でうなずいた。
 でもそれは、無口だからではなく、声に出すのももどかしいほどに興奮し、欲情しているからこその無言だと、僕には分かった。


「あッ、んッ、んッ! やッ、ン」
 ギシギシとベッドが軋み、荒い息とともに気持ちよさげな甘い声が耳朶を打つ。
 二人とも全裸となり、正常位で繋がって、僕たちは夢中になって快楽を貪りあった。
 彼女の細い腰の中に、ガチガチになった肉棒を抽送させるたびに、彼女が甘い声を上げ、僕の腰が快感に震える。

 クラスの皆は、僕と青井さんがこんなに深い関係だとは夢にも思っていないだろう。
 無口で無表情で全く目立たない彼女が、実は内面はこんなにも感情豊かで、エッチの時にはこんなに可愛い反応をするなんてことも、想像すらできないだろう。
 そう考えると、僕はより一層興奮した。すでにこれ以上ないくらい硬化している肉棒に更に血液が集中していく感覚を覚える。

「んっ! あッ、あッ、あンッ!」
 彼女の喘ぎがどんどん甲高くなっていく。それにつられるように、僕の腰の動きも激しくなっていった。
「あッ! あッ! ああ……ッ! 気持ちぃ……!」
 いつもの無口ぶりからは想像もつかない、甘い嬌声。
 いつもの無表情さからは想像もつかない、気持ち良さそうにとろんと蕩けた表情。
 彼女の可愛すぎる反応に、僕は頭がどうにかなってしまいそうだった。
 僕はもう、彼女と一緒に気持ち良くなることしか考えられず、より激しく動かすために、彼女の腰を上から押さえつけるように両手で掴み、がむしゃらに腰を振りだした。
「あッ!! あああーッ!!!」
 途端に、ひと際大きな嬌声を上げて、彼女がのけ反った。
 軽く達してしまったのか、膣内がきゅうきゅうと締まり、肉棒を締め付ける。
「……ッ!! んぅ! んッ! んんんーーッ!」
 彼女ははっとしたように、慌てた様子で手の甲で口を塞いだ。自分でも思いがけずに大きな声が出てしまったようだ。
「んッ! んぅ……! んッ! んんッ!」
 恥ずかしさのせいか、真っ赤な顔を背け、手の甲で口元を押さえ、喘ぎを押し殺そうとしている彼女。
 でもそれは逆効果だと思う。そんな可愛い反応をされたら、さらに攻めたくなるのが男の心情だろう。
「ああああ可愛いよ! 青井さんっ! 青井さんっ!」
 思わず口走り、彼女に覆いかぶさった。
「んんんーーーッ! んぅッ! んぁッ! あッ! 駄目ッ! あッ、ああーーッ!」
 小さな彼女をすっぽりと包み込むように覆いかぶさり、ベッドの反動を利用してほとんど上から下へ腰を打ちつける。
「駄目ッ! 駄目ッ! あッ! ああーーッ! ああーーッ!」
 ぱちゅぱちゅと、結合部分から愛液とお互いの汗が飛沫となって飛び散り、シーツに染みを作っていく。
 口を押さえる余裕すらなくすほどの激しい交わりに、たまらず、と言った感じで、彼女が僕の首に手をまわし、抱きしめてくる。
「やッ! やあああ! だめ、もっ、もうっ、わたし、わたしっ、あッ、やあッ!」
 ハートマークが付いているような甘い嬌声を上げ、もうどうしようも無いような感じで、僕を抱きしめる彼女の腕に力がこもる。
「あーッ! あーッ! 気持ちぃッ、あッ! イ、イク、イクッ!」
 いつも無表情な彼女が、蕩けたような表情で、迫りくる絶頂に身を悶えさせている。
「あああ気持ちいい……ッ! もっ、だめ! イッちゃう! イッちゃう! 一緒に、お願い一緒にッ!」
 完全に快楽に支配されているような、とろとろに蕩けた表情で、彼女が懇願する。
 言われるまでもなく、僕ももう、限界だった。
 絶頂の快感を少しでも高めるために、歯を食いしばって射精に耐えながら、今まで以上に激しく腰を打ち付ける。
「ああーッ! ああーッ! 好きッ! 好きッ! 好きッ! 好きいッ! ああああイッちゃうぅ!」
「僕も好きだッ!」
「あああーーーーーッ! イクッ! イクぅ! イ……ッ! あああああーーーーーーーーッ!!」
 とびきり甘い嬌声を上げ、彼女が絶頂に達した。
 同時に、
「う、ッぐ!!」
 全身の気持ちよさが、急速に股間に集中していく感覚を覚え、彼女のナカでガチガチになった肉棒が跳ねる。
 ビクンビクンと跳ねまわる肉棒に刺激されたのか、彼女が立て続けに嬌声を上げた。
「ああああーーーーーーッ!! ああああーーーーーーッ!! ああああーーーーーーッ!!」
 身体の中を、まるで快楽の塊が兆弾しているかのような感じ方で、彼女が絶頂に悶える。
「あ……ッ! ああ……! は、あっ、ああああ……ッ!!」
 華奢な身体をビクビクと可愛らしく震わせながら、強すぎる快感に耐えるかのように、細い手足を僕に絡ませ、きつく抱きしめてくる。
 僕も、激しい射精感に肉棒がまるで溶けてしまったかのような快感の余韻を味わいながら、彼女を抱き返す。
「は、あぁ……、すき。すきぃ……」
 絶頂の余韻に震えたまま、幸せそうにつぶやく彼女が、愛しくて愛しくてたまらない。
 繰り返し「好き、好き」とつぶやく彼女に、僕は口づけで答えた。

 * * * * *

 シャワーから上がると、大判のバスタオルに包まった状態でベッドに腰をかけた青井さんが、ごみ箱に捨てたはずの使用済みのコンドームを弄んでいるところだった。
 中身が漏れないように縛ったコンドームをつまみ、精液が溜まっているところを指でいじっている。
 嬉しそうにプニプニと弄びながら、ちらりとこちらを見た彼女の顔が、「すごい、いっぱい」と言っているのが分かった。
 言わないでよ。僕だってよくもまあこんなに出たなって思ってるんだから……。
 なんだか恥ずかしくて、気付かなかった振りをした。
 だが青井さんは、そんな僕に構わず嬉しそうにゴムを弄び続け、ポツリと一言。
「……昨日」
 昨日したばかりなのに、と言いたいらしい。
 だから、もう言わないで……。
 半透明のゴムの中に溜まっている精液は、自分がどれくらい気持ち良くなったのかを如実に語っているように見えて、その物体から恥ずかしくて顔をそむけたくなるのは僕だけだろうか。
 恥ずかしさを誤魔化すようにバスタオルで乱暴に身体を拭っていると、いつの間にか、彼女の手には使用済みのゴムが3つ、ぶら下がっていた。
 それらは間違いなく、今日使った3枚のゴムだ。
「ちょ……! 全部拾ってきたの!?」
 恥ずかしいから速攻で捨てたのに!
「……同じ」
 使用済みの3つのゴムを見比べながら、彼女が漏らした。
 3回連続でしたのに、量が変わってないね、と言いたいらしい。
「もう捨ててよ! ほら!」
 たくさん出たことだけでも恥ずかしいのに、それが3回とも量が変わらないときた。
 僕はほとんど半泣きで、いまだ楽しげに弄んでいる彼女からゴムを取り上げ、ゴミ箱へ直行させた。

終わり






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