あれ?おかしいな。 4年ぶりに会ったその時、最初に思ったのは、そんなこと。 でも、すれ違ってるだけなのかな?って思う事にした。 気付けば収監所でほんの5秒程度の再会があっただけだったし。4年も会ってなかったっていうのに、5秒だけっていうのはどうなんだろう。しかも刹那は僕に銃を向けていた。それが手錠足枷を打ち抜くためのものだって判っていても、あんまりじゃないか…?刹那。 ねぇ、僕達は4年前、それでも同僚以上の、恋人同士っぽいことをしていたよね? なのにどうして今、目も合わせてもらえないんだろう。 「あっ!」 プトレマイオスで、ガンダム格納庫に刹那の姿を見つけて僕は駆け出した。早くしないと逃げちゃうっていうのは、ここ数日刹那を追いかけた結果の学習能力だ。 刹那は僕から逃げてる。あからさまに逃げてる。 だから捕まえなくちゃいけない。ねぇ、話ぐらいさせてくれたっていいよね?刹那。 僕達4年ぶりに会ったっていうのに、会話らしい会話もしてないんだよ? 「刹那!」 あと少しで手が届く、ってところまで来て、僕は耐え切れずに刹那の名を呼んだ。ぎょっとした刹那はそのまま00ガンダムの中に吸い込まれるように入っていって、僕の手は閉まったコックピットハッチの上。ちょっ…。 「刹那!どうして逃げるの!」 閉まってしまったハッチに告げても、うんともすんとも言わない。でも刹那の姿は見ているから、ここに居るのは確かだ。コックピットから逃げる方法なんて無いんだし。 僕は、何か君に対して悪い事をしているのかな。していないよね。だって4年会ってなくて話もしてなくて、だから話がしたい、…っていうか、せめて僕を助けてくれたお礼を言うとか、そのぐらい許されるでしょう? ふと見れば、イアン・ヴァスティがしょうがないなって顔してこっちを見ていた。00の整備中だったみたいだけれど、僕と刹那の関係を少なからず知っている彼は、ばりばりと頭を掻いて、ケルディムの様子を見てくる、とハンガーを出て行った。ありがとうございます。すみません。 だから僕は、ハッチの上に座り込んだ。刹那、00の中からなら、見えてるでしょう? 「刹那、どうして僕は避けられているのかな」 告げても返事は帰ってこない。 …なんで避けられてるのか判らないってせつないなぁ…。 でも僕は一方的に喋るしかなかった。刹那が何も答えてくれないから。 「ええと…話をさせてくれなさそうだから、僕が一方的に話すけど…ごめん。刹那、助けてくれてありがとう。お陰で太陽、久しぶりに見たよ」 収監所から出て驚いたのは、あれから4年も経っているということだった。 あの収監場所では日の光はおろか、音さえも遮られていて、1日の感覚はない。ハレルヤも居なくなってしまったあたまの中で、ただひたすら考えごとばかりをして過ごしていた。 4年の間、頭を過ぎるのは、幼い頃から見知ったマリー・パーファシーと、ソレスタルビーイングで共に戦ったみんなのこと。 元気だろうか。生きているだろうか。僕だけが生き残ったなんて事、思いたくもないけれど。 ロックオンはすでに亡くなって、ティエリアと刹那も決意を持って出撃している。 あの日、僕はキュリオスの爆発に巻き込まれながらも、遠く光る、GN粒子同士の激突を見た。そうだあれはマリーを見つけ、絶望に打ちひしがれている時。 遠くで赤と青のGN粒子が舞っていた。あれはおそらくエクシアのもの。 (…生きていてくれて嬉しい…) ただひたすら、そう思った。 4年後、刹那は僕に太陽を与えてくれて、日の光のなかから現れた。 「ありがとう、刹那。生きていてくれて嬉しかった」 行方不明だった僕に言えたことじゃないけど。でも刹那だって4年間行方不明だったって聞いた。君は旅をしていたって聞いたけど、どこに居たの?何をしていたの?ちゃんと食べていた?どんなものを見た?僕のこと、ちょっとでも思い出してくれた? 聞きたいけど言えない。だって刹那は僕から逃げている。 …だから僕は一つの仮説を思いつき、それは僕にとってとても嫌なものだったから、否定したくてたまらなかったけれど、刹那の言動を見る限り、その可能性は高くて。 言いたくなかった言葉を、伝えなきゃいけなかった。覚悟はしていたから。 「4年前、僕は刹那と付き合っていたけど。…ごめん、もしかしたら君はもう新しい恋人が居るのかな。…僕が邪魔だったなら、助けさせて悪かったよ。ごめんね刹那」 それは確信だった。 4年も放っておいてしまった恋人はとても綺麗に成長していて驚いた。 こんなに綺麗なら、おんなのひとだって放っておかないだろう。 その上、今、僕は刹那にあからさまに避けられている。 そんなの、元恋人に対してすることじゃない。子供じみてる。でも刹那は恋愛っていうものをほどんど知らなくて、(それは僕にもいえたことだけど)だからどうしたらいいのか判らないのかもしれない。 生き残ろうね、そう言ってエクシアで出撃する彼を見送った。それが最後だったから。 刹那が恋人を持っているなら、僕はもう用は無い。 たぶん、そういうこと、なんだろう。 こぶしを握りしめた。あぁ、4年ぶりに会えて、胸をときめかせたのに、早々にサヨナラなんて。悲しすぎる。顔だってまだちゃんと見ていないのに。 せめて、顔、みたいなぁ。 これから、嫌だって僕と顔を合わせてミッションするだろうけど、サヨナラを告げるのにも、硬いEカーボン越しなんて、辛すぎる。 でも、刹那が出てきてくれないんじゃ、どうしようもない。 「ごめん」 僕はそれだけしか伝える事が出来ずに、00の傍から離れた。 *** 「判ってるんだろう、刹那」 ピ、ピ、と小気味いい電子音は、整備士イアンが持つ、小型の端末から聞こえている。 00の下半身にはハロが取り付いていて、細かな調整を行っているから、それを作動させているんだろう。刹那はコックピットハッチを開けたまま、ただモニタに映る00の計測値を見ていた。正常数値だ。特に何かをしなければならないものでもない。 イアンはため息を吐き出す。刹那が何も言わないからだ。 「お前があんなに拒否してどうする。……せっかく会えたっていうのに」 「……」 アレルヤが生きていると知った時の刹那の顔をイアンは見ている。唇が震えていた。4年ぶりに会っても、表情を変えるという事をまだ出来かねていた青年が、見て判る程に驚き、しかし喜ぶ事が出来ずに、静かに目を伏せた。 助けたい、と明確な意思で、強固な収監所に突入したというのに。 「何が不満なんだ」 「…何も」 「嘘をつけ」 問いかけても、答えはそっけない。イアンは仕方ないなと刹那の姿を見つめた。 「…アレルヤが言ってた女の事が気になるんだろう」 「………」 的を得ていたはずだ。刹那は顔色1つ、動作も何も変えなかったけれど。 「昔からの知り合いだと言っていたじゃないか」 「なら、あいつが好きにすればいいだけだ」 「刹那、」 何を強情を張っているのか。 「…女に取られるのが怖いのか」 「違う」 「じゃあなんだ」 「あいつの好きにさせたいだけだ」 淡々と答えられる言葉に、真意が見えた。 …アレルヤの好きにさせる。 好きに、選べといいたいのか。 アレルヤが誰をどう選んでもいいように。 「…馬鹿な事を考えとるな、刹那」 イアンの言葉に、刹那はそれ以上、もう何も答えなかった。 |