ずくずくと挿入を繰り返すこの動きと、前立腺を掠めては引くタイミング。気持ちいいに決まっている。
決まっているのに。

「どうした?」
動きを止め、見つめてくるその目を見上げる。
濃茶色の髪が、上からふわりと降ってくるようだ。その光景さえも見慣れていたのに。

「いや…」
別になんでもない。ただイけないだけだ。気持ちよくないわけじゃない。そんなわけ。
首を横に倒して壁とシーツを見つめれば、ナカに入ったまま動きを止められ、じっと顔を見つめられているのが判った。
そうして静かについたため息に似た吐息、ふと手が伸びた。
「…っ、」
触れられた勃起したそれに指を絡ませる。ひくりと反応したのは確かで、身体の奥底の神経を浚うような一瞬の快感があったのも確かだ。
先端の敏感な部分をぐじぐじと撫で回され、短く整えられた爪先で尿道を刺激する。小さな動きで機敏に与えられる快感。
「…っぁ…、」
知り尽くされている性感帯、イき方。
気持ちいい。気持ちいい。
それなのに。

「…刹那、お前、」
「もう、いい」

問われようとした言葉を遮って、腕を伸ばした。
髪を掴んで首を引き寄せ塞ぐように唇を合わせる。そうして自分から腰を動かして誘う。…限界なのはロックオンだ。早くイけ。イってしまってこのセックスを終らせたらいい。
どうせ、もう。


***


自分の指先を勃起しきったそれに絡めながら擦れば、先ほどのセックスではどうしても出なかった精液が、根元付近に集まっているのが判った。
あぁ、もう少しでイける。
ベッドの上、背中を丸めて、先端をなぞって根元から絞り上げて、もう片方の手は、後孔に突き入れる。自分が指を回したところで大した太さにはならないがそれでも教え込まれた自分の前立腺の位置ぐらいよく判っている。

どうしてこうなってしまったのか。
こんなにも今は気持ちがいいのに。
ぬちゅぬちゅと後孔に入れた指を動かして内壁を刺激する。
なんて気持ちいい。
ロックオンストラトスとのセックスだって同じぐらい気持ちよかったはずだ。そうだ、気持ちよかった。ただイけなかっただけだ。きっともうあの男とのセックスで自分がイく事は無いんだろう。刹那は確信していた。

静かに目を閉じる。
目の裏にちらつくのは、先ほどまで抱かれていたロックオンストラトスの幻ではない。赤い髪のあの男。
セックスの本当の意味を知らなかった。
けれど、初めて教えられたあの快感を忘れない。
麻薬よりもずっとタチが悪い。簡単に手に入る快楽。あんなにも気持ちのいいものを知らなかった。
イく瞬間に見える、スパーク。意識が全て吹き飛びそうになる程の快感。あんなものを与えられる男を神だと信じた。

ずりずりと扱く速度を速めて刺激を繰り返す。
「あ、…ぁあ、あ…」
目を閉じる。身体中に力が込められて、身動きさえ出来なくなる中で、ただ手の動きだけが部屋の中の音になる。
あぁ、見える。
あの男の影が。伸ばされる手が。浅黒いものを受け入れる自分の幼い姿が。

「ロックオ、…」
名を呼べば、胸の奥がじくじくと痛む。
それでも、指を動かし果てた瞬間に見えた幻は、あの赤い男の姿だった。