地下に広がるだだっ広いホールの最奥。
低い天井に這うように流れる重低音の音楽をかき分けるように、その少年は現れた。
無粋なまでに突然目の前に現れ、偉そうに立っているスーツ姿の少年に、好意を抱くはずもない。鼻で笑った。

「見て解らないか。楽しんでる真っ最中だ」
女の尻をまさぐっていた手を動かして、目の前の少年に愛撫を見せ付けるように、女の胸へと滑らせた。大きく開いた胸元から見える豊満な乳房。それを鷲掴んで揉んだ。目線は少年から外さないままに。
まだ、15やそこらに見える少年だ。こんな地下街に、しかも上質なスーツを着て一人で来るなんて、なんの悪ふざけだ。
見せ付けるように女の胸を見せても動揺一つ見せない。少年の目線が女に向けられることもなかった。
上質な黒いスーツは皺一つない。シングルのボタンはきっちりと留められ、スーツと同色の黒いネクタイも歪みなく締められている。糊の張った白いシャツは新品である事が知れた。
スーツと同じ黒い髪。その黒に映える赤茶色の目。

なんだ、こいつ。
自分の方が圧倒的に歳上だというのに、見下されている気分だ。
腹が立つ。イラつく。
なんなんだ、こいつは。

「…ニール・ディランディ」
少年が名を呼んだ。思いもかけず低い声だった。下手をすれば声変わりさえしていないと思わせるほどの少年の容姿だというのに。
「お前がニール・ディランディだな」
「あぁそうだ。お前に呼ばれる筋合いはないがな」
胸の谷間を見せ付けるようにしてやったのに、まったく意味をなさないから、手を引き抜いて細腰に手を回して引き寄せた。女の肌は柔らかくていい。
抱き寄せて堪能したのに気が晴れず、酒瓶に手を伸ばした。強いアイリッシュの酒だ。
ごくりと一口飲み干せば、胸の中に熱いアルコールの塊が落ちてゆく。ストレートで飲むには余りにも強い酒。

「なんなんだ、このお子様は」
誰か知っているかと周りの取り巻きに目線を這わせてみるが、皆、肩をすくめるか目線をそらすかだ。相手にするほどでもないのか、適当に笑うばかり。
さてこの胸クソ悪い少年をどうしてやろうかと舌打ちし、目線をそらした。
と、少年の足が一歩を踏み出す。ゆらりと伸ばされたのは、腕だった。細く小さな手が目の前に伸ばされている。見つめた。

「俺と共にこい」
少年は突然告げた。
「はぁ?」
おいおい。なんの冗談だ。
二口目を飲み干そうとしていた酒瓶から口を外す。
笑ったが、赤茶色の目は真剣だった。

「お前は、ここに居ていい人間じゃない。…俺の元に戻れ、ロックオン・ストラトス」

黒いスーツの少年、刹那Fセイエイが告げた名には、聞き覚えはなかった。