思えば長い時間がかかった。 この刹那Fセイエイという男にソレスタルビーイングに誘われ、半信半疑でエイリアンの存在を信じた。 パートナーとなってからは、近接戦闘を仕掛ける無謀さに目を離せなくなり、私生活のデタラメさにも手を焼いた。 惹かれはじめて、愛しているのだと気付くには、酷く時間がかかった。 その間に何があった? 死にそうになった刹那を助けたこともあった。 喧嘩をして、3日も口を聞かないこともあった。 そして、この男が、両親の仇だと知った。 首を絞めて殺したのは、つい先程のことだ。 ……それなのに、今、再び目の前に立つ、刹那Fセイエイが居る。 ロックオンは拳を握り締めた。 真実を言ったところで、刹那は何も言わない。 ただ、目を見つめてくるばかりだ。あの、まっすぐな赤茶色の目で。 *** 「結局、おまえは何がしたかったんだ」 四つんばいになった刹那を、後ろから獣のようにぶち込む。 ロックオンは汗もかかずに冷ややかな声で聞いた。 刹那の肩には力が入っていて、指はシーツをかき乱している。 苦しいのだろうという事は、刹那の背中や震える髪を見ていても明らかだ。 やめてやる気なんて起きない。ギチギチの穴を容赦なくかき回す。 キツければキツいほど、挿入している側にとっては、気持ちがいい。 「…何故おれの親を殺した…」 憎しみを込めて吐き出された言葉は、刹那に届かなかった。 答えは帰ってこない。 四つんばいになった背中が、ロックオンの目に入るだけだ。 まだ、成長しきっていない、小さな背中が。 …こんな、少年が、両親の仇だと? あれから何年経っていると思っているんだ。 刹那の外見はどうみても、15,16程度だ。 刹那がエイリアンだと知ったのもつい先程だった。命が分割できるのだと。 不老不死の身体でも持っているというのだろうか?…現に、1度殺しても、まだ刹那は生きている。 つい、数時間前、この首を力の限りで締め上げて殺した。 確かに死んだのだ。心臓は音を止め、再び鳴る事はなかった。 憎かった。 ただひたすらに、憎かった。 この男が、刹那が、家族を殺した。 悲惨な殺され方だった。遺体は拾うのも苦労するほどぐちゃぐちゃで、ほんの少しの良心のかけらも見出せないような惨殺だった。 あの時を思い出せば、ロックオンの頭の中に真っ赤な感情が湧き上がってきて、たまらずに奥歯を噛み締めた。 「くそっ……」 憎しみがわきあがってくる。とめどなく、身体の深い深い部分から。 「ええ、おい?お前は何がしたかったって言うんだよ?」 なんで、殺した。 なんで、俺の記憶さえ消した? 「答えろって」 返答を促すように、ゴン、と強く音がするほど、最奥を叩くように腰を突き刺した。 ひぐ、と動物の鳴き声のような悲鳴が上がって、刹那の身体がヒクつく。 それでも、口は言葉を発しない。 まるで、言葉を忘れたかのように。 こんな、強姦まがいのセックスをしていても、喘ぎ声も悲鳴も上がらない。やめろ、とも、いい、とも言われず、ただロックオンを「うけとめて」いるだけだ。 「俺はお前に愛されていたんじゃなかったのか?」 こうしてセックスさせるほどに。 何年も、CBでエージェントとして、パートナーを組めるほどに。 そして、俺に絞め殺される覚悟があるぐらいに。 「……なんとか言えよ、刹那、おい」 「…っぁ…」 上半身を倒して、刹那の背中にぴたりと胸をつけた。 耳に唇を押し当てて、名前を呼んだ。 「刹那、」 と。 途端、何を感じ取ったのか、激しく身体をヒクつかせて射精するから、ロックオンは締め付けに耐えた。とんでもない引き絞りが、ロックオンさえ射精させようとする。 それでも、我慢するのは容易だった。 シーツには、刹那が吐き出した精液がぽたぽたと落ち、染みを作って、白い布の上を流れた。 「…うっ…っ…」 吐き出したことで、力が抜けて、自分の下半身を支えきれなくなったのか、ぐずぐずとその場に落ちそうになるから、強引に引き上げて、腰を支えなおす。 まだ、終らせてやる気は無い。 「…お前が両親の仇だって判ってても、俺は勃起するんだぜ?」 なんて茶番だ。 この身体は、刹那を求めている。 けれど、それは過去の経験があるからだ。求めたくなくとも身体は刹那を欲してしまう。 愛しさがあるわけじゃない。 今、ロックオンを渦巻くのは憎しみばかりで、この身体を愛していた事は「過去」の事になってしまっているのに。…身体はなんて浅ましい。 「ほら、まだ満足してねぇよ、俺は」 「…ロックオン、」 「あぁ、だからヤらせろ。…それから言えよ、お前が何を望んでいるのか」 言え。 全てを話せ。 何もかもを知った上で、お前を殺すなり、捨てるなり、してやろう。 「…ロッ…う、…ぁ…っ…!」 刹那の腰を抱えて、身体を持ち上げる。 ロックオンは、シーツに尻をつき、自分の膝の上に、刹那の身体を乗せた。繋がったままで。 無理矢理だ。 姿勢の変更に、刹那の背筋がびくんと跳ねた。 顎が仰け反って、ロックオンの首筋にぱさぱさと髪が当たる。 目の前で、露になった首筋に歯を立てた。 「…っ…ぁ、あ…あ、…」 「お前のここを、いま、噛み千切ってやったっていい」 そうしても、お前は死なない。 刹那のいのちが、残り2つなのだと、ティエリアとアレルヤから聞いている。 …あぁ、そういえばあいつらも判っていたじゃないか。 重要な事は何ひとつ言わないで、ロックオンをCBに勧誘し、留め置いている。 しかもパートナーは、親の仇だ。 「…趣味悪すぎなんじゃねぇのか…!」 この組織は。 異星人の監視と駆除だなんてとんでもない事を仕事にしているだけの事はある。なんて常識外れなんだ。人の気持ちをなんだと思っているのだろう。 CBの連中は皆そうだ。 特に、この刹那Fセイエイは。 「…いっ…ぁ、…あ、あ…」 ずぶずぶと揺さぶるたびに、刹那の陰茎と穴から、精液や体液がだらだらと零れ落ちて、ロックオンの内股を濡らしていた。 刹那のこめかみや額に汗が浮かんでいる。 苦しげに唇を噛んでいるわりには、刹那の中心は、もう勃起を始めているから、なんて淫乱なやつだと笑った。 「なぁ、刹那。お前はセックスが好きなのか?それとも俺が好きなのか?」 どっちだよ? ちょっと前までは、あんなに信頼もしていたし、愛も感じていたのに。 …もう今では、刹那をまっすぐに見る事は出来ない。その赤茶色の目をずっと見ていると、狂ってしまいそうだ。 愛しさが、全て憎しみに変わってしまいそうで。 「…お前は、一体なんなんだ」 ロックオンの低い声は、刹那の喘ぎ声にかすれて消えた。 *** 「コーヒー、出すね?」 刹那とロックオンが、退室してしまえば、部屋にいるのは、ティエリアとアレルヤだけだ。 モニタに表示され、点滅を繰り返す世界地図を見つめたままのティエリアの表情は変わらない。 返事が返ってこないのはいつものこと、と、アレルヤはさっそくコーヒーの仕度に取り掛かっていた。 豆を挽きはじめると、途端に香ばしいにおいが部屋に広がったけれど、ティエリアは何を考えているのか、ぴくりとも動かない。 「ティエリア、君は彼らに、何の説明をしないんだね」 「なんのことだ?」 「刹那のことを、…ロックオンにさ」 ふ、とアレルヤに目線を移したティエリアが、ため息を共に、今度はデスク上の書類に手をかける。 ぱらぱらと用紙を捲りながら、アレルヤが言う言葉を聞く。 「言ってあげればいいのに。本当のことを」 「何を今更。どうせ説明したところで、ロックオンストラトスの心は変わらないだろう」 「でも、ロックオンは、刹那をあんなに憎んでる」 「言葉で説明したところで、何が伝わるというんだ」 「……それは」 ぱさり、と書類をおろして、椅子を回す。アレルヤと向かい合った。 紫の目は、アレルヤを正面から見つめていた。 「言葉だけで、説明だけで、人間は分かり合うことが出来るのか」 「……ティエリア」 「めんどうくさい生き物だ、人間というものは」 「でも…話さなきゃ、何も変わらないよ。人って嘘もごまかしも出来るから…」 出来上がったコーヒーを机の上に置く。 ゆらゆらと湯気が立ち上っていた。 「めんどうくさい生き物なんだよ、人間って」 だって喋らなきゃ、分かり合えない。 目と目を見つめているだけで分かり合うことなんて不可能だ。 意思の疎通なんて出来ない。 言葉にしなきゃ、判らない事はたくさんある。 「刹那は不器用だから」 話をするのが酷く下手で、伝える事も上手く出来ない。 それでも、刹那がどれだけロックオンを信頼していたか、そんなの傍から見ていても判ったじゃないか。 刹那は嘘をつかない。 刹那は誤魔化すこともしない。 ただ、彼は何も話さないのだ。 「確かに刹那は、ロックオンの両親が殺された時、あの場所に居たけれど。…でも、彼には彼の言い分がある。…それも言わないで、まるで罪全部受け止めるような事をするのは、あまりにも」 「だったら尚更、それは刹那Fセイエイから、直接ロックオンストラトスに伝えられなければならない。俺が言うことではない」 「…そうだけど…」 けれど、刹那は、自分から話したりしないだろう。 彼は、もう、あの罪を、「受け止めて」しまっているのだから。 「……僕は…ロックオンがもう一度、微笑んでくれたらいいと思っているだけだ…」 アレルヤが、小さく呟いて目を伏せる。 それをティエリアは、ため息を吐く事で、流して終らせていた。 |