ねとりと、足の間を精液が伝って落ちた。 何度もロックオンの体液を受け止めた身体はとっくに許容範囲を超えていて、これ以上のものを受け入れる事は出来ない。 「贖罪のつもりか?」 終わったあと、鼻を鳴らすようにして笑うロックオンの表情は微笑みだ。 告げられて、目線を向ける。首を動かす事も億劫でギシギシと身体が軋むのを感じていた。 贖罪のつもりか、と。 問われたのならば、Noと答えよう。 「違う」 「違わないだろ。あぁ、それとも何か。これが最後のセックスだからか」 喉を鳴らして笑うロックオンの言葉を受け止める。 最後のセックスだから。 あぁ、お前がそれを望むなら。 「…そうしたいなら、そうすればいい」 刹那の言葉に、笑っていたロックオンの表情が一気に凍り付いた。鋭い目線を向けて刹那を見下ろす。 逃がすつもりがないと言うように、刹那の顔の両脇に手を付いて逃げ道を断った。 「…俺に殺される覚悟が出来たのか」 そんなもの。とっくの昔から出来ている。 だって、知っていた。 知っていて騙していた。 だから。 「あんたが、CBに戻ってきたのなら、俺はお払い箱だ。…いらないなら消せばいい」 お前をCBに戻す事が役割だった。それが出来た今なら殺されても構わない。記憶が完全に戻ったのは、今のロックオンを見ていれば明らかだ。 今のロックオンは、あの日の続きから始まっている。 「刹那」 ロックオンの手が動く。 ゆっくりと首にかかったのを確認して、目を閉じた。 「…お前はただの殺人者だ」 呟くように告げられたロックオンの声が降り注ぐ。 殺人者。 あぁそうだ。 その通りだ。 それ以上に何がある。そうだよ。俺はあんたの全てを奪って、あんたを手に入れたんだ。 首にかかる力が強くなっていくのを、呼吸の出来ぬ苦しみとせき止められた血液がドクドクと脈打つ感覚で理解する。 殺してくれる。 この男が、俺を。 「…刹那、お前が俺の親を殺した。妹も。そうして俺は一人になった」 そうだよ。だからお前が殺せ、ロックオンストラトス。 親と家族の仇を討て。そうして全てを思い出して、CBでお前の任を全うすればいい。 「…お前は卑怯なやつだよ、刹那」 そうやって贖罪のフリをして殺されることを望んでいる。卑怯だ。それは何よりも卑怯。 じりじりと首に力をこめている間も刹那からの抵抗はない。 なすがままに身体の力を抜き、少しずつ途絶えていく呼吸を感じて目を閉じる。 赤茶色の、くすんだ目。 あぁ、この目を知っている。血に濡れた刹那の姿を見ている。そうだ、 何故…知ってしまったんだ、と。 呟く刹那の声がロックオンの脳髄に響く。思い出すのはあの日のこと。 何もない平凡な家だった。田舎に立つ一軒家、週一度の楽しみだと車で2時間もかかる街へ買出しいく。 父親は優しくて、母親は厳しくも愛に溢れていた。妹は元気すぎて時折手に負えなかったけれど、幸せな家だったとロックオンは記憶している。 「…思い出したよ」 なんで忘れていたんだ、あの日のことを。 あたたかい家庭だった。 なのに、何故お前が殺さなければいけなかったんだ。 くすんだ匂い、僅かな物音。 捨てた家族に会う事は禁止されていると判っていた。判っていて、訪れた家で見てしまった惨状。 リビングに電気がついているのに人の気配が無い。くすんだにおいがする。人ではない気配も。 ドアを開けた。 そこに広がったのは赤い海に沈む、3人の遺体だった。 目の前には血に塗れた両親の死体がある。ふと見れば妹の背中が見えた。赤く染まったそこに仰向けになった妹の顔は裂け、だらりと垂れた腕は赤い海に沈む妹の指先。 あぁ、そうだ、あの日お前はあの赤い海に一人立っていたじゃないか。 黒いスーツのままで。鮮血を浴びても色さえ変わらない黒色のスーツと髪のまま、振り返った顔と手に真っ赤な血がべっとりついていた。 「お前は俺の記憶を2度消したな?」 最初は、両親と妹を殺したこの記憶。 刹那が殺した。なんの理由があるのかは知らないが、蘇ったこの記憶は幻ではない。ロックオンから家族を奪った上で記憶を消し、ただ家族を失ったという事実だけを知らされてCBへの所属を決めた。 復讐が出来ると思った。力をつければ、それがどんな組織であるとわかっていても。 「そして、2度目は、両親を殺したのがお前だと知ってしまった俺に対して。…違うか?」 じりじりと首の圧迫を増しながら告げる。刹那はうっすらと目を開いたが、何も言わずにただロックオンの瞳を見ていた。事実を告げる気はないようだった。 どちらにしろ、ロックオンの掴んだ事実が真実だ。 「何故殺したとは聞かない。お前はCBに所属していながらも、人を殺したんだ。異星人じゃない、俺の家族を」 「…あぁ」 気管をふさがれながら、途切れ途切れの声で頷く。 人殺しだと告げる言葉に間違いはないと。 「なら、何故、俺の記憶を戻した?何の情報が欲しかったんだ」 「……それは俺を殺した後でティエリアに聞け」 「アイツも噛んでるのか…いや、当然だな」 自嘲気味に笑って、ロックオンは刹那の首筋を掴んだ指に力を篭めた。 肉の感触を確かめながら、じわじわと血管と気管を圧迫していく。 そうして刹那の喉から血の巡る音も、呼吸も聞こえなくなった後で、ロックオンはゆっくりと指を離した。 |