尻の肉どころか、内股までぶるぶる震えるぐらいの筋肉の引き締まり。
体内を、問答無用にずくずく上がっていく鳥肌にも似た感覚は、吐精までの快感のバロメーターで、それが頂点近くなると、呼吸さえ出来ているのか判らない程に、快感に神経が持って行かれてる時もある。
そんな時は大抵、俺が容赦なく腰を振っている時だから、刹那の体はまるでロデオでもしてんのかと思うぐらいにゆらゆら揺れてる。黒髪がぱさぱさ舞って、さすがに刹那も目ぇ閉じてシーツ握りしめて唇噛んで。…って馬鹿!お前、そうじゃないって教えただろ!?唇は噛むな!また血が出る!
思っても、もうそれを口に出す余裕もなくなってる。何故かって、俺が揺れているのと同じように刹那だって自分で動いているからだ。快楽に歯止めが利かないぐらいにお互いに腰を振ってる。
イきたい気持ちはどっちも同じ。だから刹那も、より自分が気持ちよく思えるように、快楽のド真ん中に来るように体を揺すってる。
これは淫乱とか慣れとかじゃない。ただ単に気持ちよくなりたいためだけの行為だ。人間誰だってたまらない快感が目の前にあったら手を伸ばすだろう?
刹那が揺れる。
けれどそれが邪魔で肩を押さえ込んだ。最後は自分がいいようにイきたい。
刹那の動きを封じるようにしてやれば、刹那は鳴いた。動かしたいのに、体が動かない。だからもどかしくて。
それを見て、知るかよ、と思う。気持ちよくなりたいだけだ。刹那の事を考えてやれるような余裕はない。
そうしてようやく刹那の手がシーツから離れて俺の肘に縋り付く。爪の先でひっかくように皮膚を攻撃してくる。
少しだけ痛い。けれどそれ以上に快感がたまらない。
あぁ、上がってくる。

もうだめだって時は、頭の中真っ白だが、そんな状態の時でも、唯一譲れないのは、刹那の顔を見るってこと。
イく時はとてつもなくたまらない顔をするから、それを見てやるのが楽しみだ。
…楽しみなんだが、上にも述べた理由で、本当に切羽詰ってる時は目を開けてなんていられない。だからせめてと、刹那の顔を引っつかんで、ずくずく揺れる唇の位置を予測で当てて、その唇に食らいついてやるんだ。ほら、上も下も俺で一杯になってぐちゃぐちゃになってる。
もっとも、腰を動かしながらのキスなんて、鼻は当たって唾液と絡んで滑るし、歯も舌もガチガチ当たったり噛んだりで、とてもじゃないが人に見せられるようなもんじゃない。
でもまぁ、セックスなんて当事者がよければいいんだ、人に見られることを考えてヤるだけ馬鹿だ。

精液を吐き出すのはいつでもナカ。刹那がいいと言ったからだ。我慢なんて出来やしないから、遠慮なく吐き出す。
ただひたすら「気持ちいい」って思いの中で吐き出すのは、いつだって最高の瞬間だった。
刹那とキスをしながらだったり、首筋に顔を埋めながらだったり。
イく時は刹那の顔が傍にあるから、その息遣いもリアルに聞こえる。今日は同時にはイケなかった。俺が先。
だから刹那は引き絞られたまま、ひくひくしてる。先にイって悪かったとは思うけれど、楽しみはこの先で、全てを刹那の中に注ぎ込むために、刹那をシーツに押し付けたまま、腰だけをハンマーみたいに叩きつけるみたいにして動かす。
刹那がこれが好きだ。たまらないらしい。
だから、大きくひくりと震えて、刹那も精液を吐き出した。肩にしがみ付いたまま、熱い吐息を吐き出して、細く長い声を吐き出す。
あああ、って続く声が耳元に吹き込まれるように続いて、腹のあたりには勢いよく散った精液がびしゃびしゃ掛かる。
それを受け止めるのはどうしてか、嫌な気分じゃない。
刹那も感じていると判るからだ。
一度吐き出せば、充分な俺たちのセックスはそうして終わる。特別、変な性癖があるわけじゃないし、絶倫なわけでもない。最近は身体を激しく動かす事もないから鈍ったんだと良く判る。まぁ、相手は居るし充分だ。今日明日で別れる予定もない。


刹那という男を抱くようになって、実はまだ2,3ヶ月程度しか経ってない。
そう言うと、ティエリアやアレルヤあたりは嘘だとあからさまに驚いてみせる。
なかなか信じてもらえないが事実だ。
ソレスタルビーイングに居た頃は、まだ抱いていなかった…どころかこんな感情さえ持っていなかった。こうなったのは地上に降りてから。
噂好きのリヒティやクリスあたりには、刹那と出会った頃から、「食っちゃったでしょ?」なんて茶々を入れられてきたもんだが、俺が刹那を抱き始めたのは、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとしての役割を終えた、あのラグランジュワンでの戦いの後だった。
重傷だった俺を捕まえたのは刹那で、ひっそりと傷を癒した俺たちが、身を隠すようにして降り立ったのは、地球だった。ダブリン。俺の故郷。
アイルランドに行きたいと、俺がリクエストしたわけじゃない。別に、戻りたいと言ったわけでもない。ただ、刹那が買って来た軌道エレベータのチケットはAEUのもので、乗れといわれた飛行機がダブリン行きのものだった。
アイルランドに着く頃には傷はすっかり癒えていて、古びたアパートメントの狭い部屋を借りているうちに、何時の間にか、こうなった。
刹那は17になっていて、俺は25で。
盛りのついた獣みたいに、毎日ベッドの中でぐちゃぐちゃになった。一度ヤってしまえば、もう歯止めは効かない。
刹那も俺を求めたし、俺だってコイツの体を貪って悪い気はしなかった。

恋愛感情は後からついてきた。抱いている時は性欲を発散させるのに必死なだけ。
ソレスタルビーイングに入った頃、なんでこんなちっこいヤツが、と思った。
共にミッションを組むことが多くなるわ、と聞かされた時は、マジかよ、と思った。嫌だったわけじゃないが、子供のお守りじゃないかと。
ガンダムマイスターとして、戦地にゆくようになってからは、意外とカワイイやつなのかも、と思い、それから、トリニティから刹那の正体を聞かされて、コイツの口からも、戦う意味を聞いた。怒りも憎しみもあったが、それは刹那個人に向く、明確なものじゃなかった。
…元々、ずっと腹の底、俺の核の部分が持っていた憎しみが増しただけだ。
かたき討ち、というべきなのか。
どうしても譲れなかった戦いに挑んで、自分の中でどうしようもなく煮えたぎる憎しみの核をどうにかしたくて挑んだ戦いで、死にゆくはずだった俺を刹那は救った。
意識を失った俺が、再び目を開けた時に見たのは、初めて見る刹那の涙。
おいおいおい、嘘だろ?
それが一番最初に刹那を愛しく思った瞬間。
あとはもうなし崩しだった。
身体の真ん中を蝕む憎しみの核が弾けた今、残っている感情が、刹那に対するこんな思いだったと知った。抱くたびに愛しい思いが募る。
なんで俺がこんなやつを。
自分に笑えてきた。
馬鹿じゃないのか。

なんだ、俺はこんなにお前を。

抱き締めた刹那の体は小さかった。…まだ、その頃は…っていっても3ヶ月前は。とても小さかった。



「…と、思ってたのになぁ…」
「…?」
ぎゅっと胸の中に、刹那の体を押し込んでみて、あぁ、やっぱり変わっちまったなぁと笑った。
なんの事だと刹那が見上げてくる目線を受け止めて肩を竦めた。いや、だってなぁ。
「なんでお前、いきなり成長期に入るんだか…」
あんなチビだった刹那は一体何処に行ったんだ。この数ヶ月で体はすくすく伸びた。
まさに、アイルランドに来てからは火がついたようにすくすくと。なんでだ。アイルランドの気候がお前にあっていたのか。それともセックスしたからか?今更、思春期が来ただなんて思いたくもない。…あぁならばせめて、反抗期には入りませんように!

「…身長伸びた、よなぁ…」
髪に触れてみて、髪も伸びたなと思った。
「……かもしれない」
「かも、じゃねぇよ。こっちに来てから買ったジーンズ、もうサイズ合わねぇだろ」
「ウエストは締まる」
「そりゃお前が太ってないだけだ」
3ヶ月やそこらで10センチ近く身長が伸びるなんて異常だろ。…いや異常でもないか。てか、刹那が俺より高くなったら本気でどうすっか。
25で俺の身長は伸びるか?いや、190以上になると服が面倒だ。こないだ揃えた仕事着も買い直さなくちゃならない。
「服、もうすぐ着れなくなるかもな」
このまま言ったら、刹那の服は。
全部買いなおす必要が出てくるのか?あぁ、だったらちゃんと大人用のサイズで買っておくべきだった!
「それなら大丈夫だ」
「ああ?」
俺の腹の上で、刹那は、にっ、と笑った。見た事もない笑い方だった。何時の間にそんな笑い方を覚えたのか。どうやら本当に思春期のようだ。恐怖だ。
むくりと起き上がった刹那が、ベッドの下に落ちているシャツを拾い上げた。俺のシャツ。

「俺もお前の服を着れば、きっと丁度いい」

するりとシャツに腕を通した刹那は、そう言って振り返った。
シャツは大きめではあるが、不恰好ではない。確かに着れる。
「…おっまえ…」
…刹那をこれほど憎たらしく思った事はなかった。


「だーめだ。お前はまだ自分の着てろ!」
冗談じゃない。袖を通しただけのシャツを無理矢理脱がせて、隙もあったもんじゃねぇなと自分で着込む。時計を見れば、そろそろ家で出なくてはいけない時間だ。今日は特別に用事がある。
「…もう出るのか」
言われて、なんだ寂しがっているのかと振り返った。ベッドから見つめる目が見上げている。そうしていればかわいいもんだ。
「行く。お前も支度しろよ。今日は連れて行く場所がある」
「…?」

なんなのか判らないと首を捻りながらも、判ったと頷いて、ベッドを降り、シャワールームに向かう刹那の全裸の背中を見つめれば、確かに数ヶ月前とはシルエットの違う、大人びた身体があった。

「歳くった気分だな」
言葉に出して笑って、寝室のドアを開ければ、リビングの向こうにこじんまりとした玄関のドアが見えた。その脇のバケツに入った花を見つめて、ようやくか、と笑った。

「…刹那を連れて行くよ、とおさん、かあさん」