「まいったな…」
こんなに満たされた穏やかな気持ちで抱き合うなんて、今まであんまりなかった所為か。それとも刹那の指に嵌った銀色に感無量にでもなったのか。どっちにしろ情けない話だが、今、欲情してしまっている事だけは確かだ。

「………?」
「…そんな顔で見るなよ…」
こんな時に、そんな表情。反則だろ。
思わず目を逸らしてしまったけれど、刹那には身体の異変は判っているだろう。
まいった。
さすがに今日はもう刹那の身体を酷使させるわけにはいかない。さっきまでひっぱたいて無理矢理犯してまで刹那の本心を聞こうとしていたんだ。これでさらにセックスしたいなんて事を言ったら、刹那の身体が潰れる。

「おれは別に構わないが」
「おっまえ…無理だろ?」
「俺はイけないだろうが、お前が挿れるぐらいなら」
「それも嫌なんだがなぁ…」
「そうか。なら」
絡ませていた指を解き、身体をもそもそと移動させる。ロックオンが何事だと様子を見ている内に、刹那は布団の中に入りこんで、ロックオンの下肢を緩め始めた。
「…ってまて!それはやめとけ!」
「何故。一番手っ取り早い」
「だから嫌なんだよ!仮にも指輪を渡した直後にこんな!」
「いつだろうが、ヤる事は同じだ」

悲しいぐらいにそっけない言い方だ。
そりゃそうだが、そうなんだが!
思わず前髪をかき上げて天を仰ぐロックオンだが、その間にも刹那は身体を移動させてロックオンの勃ち上がったものを掴み出し、容赦なく扱いてゆく。手馴れた手つきで始められた愛撫に、だだでさえ敏感になっていたロックオンの亀頭がぐんぐん反応し出した。

「…っく、そっ…」
マズイ、気持ちイイ。
刹那の髪に指を絡め、ずぶずぶと動かされる頭を支える。
たまらなく気持ちいい。どうしてくれよう。
「…刹那、ちょっ、おまえなんで、」
意味のないロックオンの問いかけが、イくのを先延ばしするものだと判っているから刹那も手を早めるだけで、返事を返さない。
「…くそ、っ」
ぐちゅぐちゅと水音が混じり、刹那の手を掴むロックオンの手が力を帯びてくる。
ねとねとと亀頭を舐め上げながら、根元を指で扱く。そろそろかと力を増そうとした時に、ふと目に入った左手のリングに手を止めた。瞬間、ロックオンの低い咆哮と共に、吐き出された精液が、ぼたぼたと垂れて刹那の指輪さえも白く汚した。

「…ぁ…」
「…っ、だから嫌だって言ったろッ…」

自分がこらえなかっただからだろうに何を言う。反論しようかと思う刹那の身体を引き寄せて、シーツの端でぐしぐしと刹那の顔を拭くロックオンの顔が妙に真剣だったから、言うのをやめた。乱暴に拭かれるのは恥ずかしさを堪えているからだ。指輪よりも先に刹那の顔を拭くロックオンの表情は、真剣さと恥じらいが混じっていて、おもしろい。
「…そんなじろじろ見るなっての」
「おもしろい」
「だから見るな!」
かあっと顔を赤くしたロックオンが、枕を刹那の顔に押し付けて渡す。
ひるんだ間に、刹那の指を取って、それも拭い取るのかと思えば、ねとりと生暖かい感触が広がるからロックオンが口に咥えているのだと知った。

自分の精液なのに。

ぺろりと舐めながら、舐め取っていくロックオンの後頭部を枕越しに見つめる。
性感帯を煽るような舐め方じゃない。
まるで手のひらにキスをする行為の延長上のようだ。

「…指輪…おまえはしないのか」
「1つしか買ってないんだよ」
「………」

方便だ。おそらくしたくないだけだろう。
指を舐め終わったロックオンが、続けて手のひらやら甲にキスを落とし出し、やがて身体に絡んで肩、うなじ、髪、とあらゆるところに唇で触れ、目があった後は唇に落ち着いた。
キスをするのが随分と好きな男だ。
刹那は受け止めながら呆然と思う。
とろりとろりと、眠りに入るための愛撫のようだ。触れる肌と肌、心地よくて気持ちいい。ゆったりと睡魔が訪れてくる。

このアイルランドに来てから、セックスというものをするようになったのだが、それからはこの男の性癖を色々と見てきた。
今日は忙しい。強姦のように無理矢理犯して口を割らせようとしてみたり、指輪を渡した後はこんなにも純で素直な男を演じてみせる。
ロックオン・ストラトスという男はとても多彩だ。
そうして好きなだけ刹那を舐め尽くして満足したロックオンは、身体を抱き寄せて眠りについた。


こたえなんて何一つ出ていない。
あの中東の男は、組織で動いていると言っていたし、あの路地での別れ際、ひとこと「気に入った」と耳元で呟いて去っていった。何を気に入ったのかは判らないが、あの男がまたコンタクトを取ってくるというなら、それを逆手にとるのもいい。
あのまま、テロ組織を放置すれば、近いうちにこの国で火の手が上がる。
(そんな事はさせない…)
阻止出来る力を持っている。自分の力はそのための力のはずだ。たとえガンダムも組織もなくとも、テロを止める事は出来る。
…あの男はきっとまた会いに来るだろう。
だからそれまでに力を蓄えて、対抗するだけの武力と知恵をつけておくべきだ。

すぅすぅと心地よく眠るロックオンを見つめている。…呑気なもんだと刹那は静かに笑った。
事情がわかったといって、何一つ好転していることなどないのに、指輪を押し付けて身を売るような事はしないでくれと言う。それは独占欲だ。そんなものでテロを防ぐ事は出来ない。
…それなのに。
現状は変わりない。変わったのは僅かな心の持ち様と、左手の指輪ひとつだけ。
たったそれだけの変化なのに、どうして今はこんなにも強い心を持っていられるんだろう。

絡んだ手、ロックオンの白い指に絡ませた、褐色の肌に映えるプラチナの指輪を見つめた。
心は強く持っている。
この国と、この男を守る。



***



「なんだろこのボタン…」
ふと、見慣れないボタンを発見したのは、ちょうど掃除中のこと。
いつもよりも早い閉店時間を迎えているが、今日は早めに店を締めさせてもらうとロックオンに伝えたのだから問題ないだろう。人が切れた頃合を見計らって、CLOSEの札を出した。あとは簡単に掃除をして、鍵をかけたら終わりだ。
午前4時。
ロックオンはあれからどうなっただろうか。刹那を見つけたと連絡はあったけれど、どう考えてもロックオンは怒っていて、おそらくそれはまた刹那が無謀な事をしたからだろうと判っている。
「…まぁ…それでもロックオンなら大丈夫なんだろうけど」
いざとなったら加勢するつもりでいるし、結構計算高いロックオンの事だから、なんだかんだといい方法を見つけて、にやりと笑うんだろうとアレルヤは思っていた。
それよりも、今日1日、ドタバタし過ぎて疲れてしまった。いい加減眠くてたまらない。あくびを噛み殺していたら、案の定、水を張ったバケツを思いっきり倒した。

「あっちゃ…ぁ…」
広がった水を雑巾で絞りながら、ふとカウンター裏の窪んだ場所にあった小さなボタンが目に入った。
こんなところにこんなものあったっけ?
見れば、ボタンは酷くくすんでいるから、おそらく以前のオーナーの時代からあったものなのだろうが。
興味をそそられて、アレルヤはそのボタンを押した。

途端、何処からか、甲高いアラームの音が聞こえて、思わず驚いて飛び跳ねる。
「な、なにっ?」
ビービー、と高い音のアラームが数度鳴り響いた後、どこかで何かが外れる音がし、その後一斉に店内の壁にかかったポスターの木枠という木枠が、パタパタと半回転した。
「なっ…!」
アレルヤは目を見開いた。
「こ、…これって…」

ポスターのあった位置全ての場所の裏側から現れたのは、大量の銃器だった。
数にすれば100丁近く。小型の拳銃からアサルトライフルまで揃えられている上に、ご丁寧に弾も予備を含めてかなりの数がある。
店中に備え付けられていた銃器に、最初はぽかんと見つめていただけのアレルヤだったが、やがて弾かれたように腹を抱えて笑い出した。
「…ロックオン…、君…、すごいよ…」
おそらく、このシークレットスペースさえも、先代のオーナーから譲り受けたのだろう。だからそれが気に入ってここのオーナーとなったのか。

つまり、ロックオンこそ、いつテロや事件が起きてもいいように、準備してたってわけ…?

平和ボケしたフリをしても、やることはやってたってわけだね、とアレルヤは笑いこけながらその場にしゃがみこんだ。
刹那を手に入れて、祖国の店を手に入れて、平和も手に入れる。


「まったく、やってくれるよロックオン…!」






to be continued...?