ロックオンストラトスに、「好きだ」と言われた。
何がなにやらさっぱり判らなかった。


どうして「好き」なんて言葉を言う?考える。
俺のどこが「好き」だというんだろう。良くわからない。
友人、愛人、恋人、色々な意味の「好き」があるのは知っている。だからロックオンが言う「好き」が何処に当てはまるのか考える。
なんだ?
友人か?
…戦友か?
それは「好き」だという感情なのか?判らない。

好きなんだよ、とあっけなく伝えられた言葉は一言だった。
ロックオンの感情が判らない。告げた後も、いつものようにはにかんで笑っているだけで、俺は顔色一つ変える事も出来ず、いや、どういう顔をしたらいいのか良く判らない。ロックオンは何も言わない。俺も言わない。
どうしたらいいんだ?
…そもそも、「好き」に対する答えを望まれているのか?

部屋の中には2人しか居なくて、つまり誰のフォローは入らない。いつもならロックオンがこういう行き詰った会話にはなんらかのアクションを起こしてまとめてくれるのだが、あいにくと今こんな現状を生み出したのはロックオン自身だった。つまり何も起こらない。困った。これはどうしたらいいんだろう。
何かを言えばいいのか。
そうすれば、この現状は打開できるのか。
では何を言おう?
なにを伝えらればいいのだろうか。
考える。頭の中で羅列した。


何を言ってるんだ。
気の迷いか?
疲れているのか?
俺はおんなじゃない。
冗談か?
何があった?
本気か?
ありがとう。
俺もだ
本当は俺はお前が嫌いだ。

さて、どれを言えばいいのか。
考えて、どれも自分の感情に当てはまっていると気付く。そうだ、ロックオンストラトス。こいつの事は嫌いじゃない。
けれど時折憎らしくなるほどに嫌いになる事もあり、しかしありがたいと思う事も、あぁ好きなんだなと思う時もある。
こんなぐちゃぐちゃの気持ちの場合、なんと言ったらいいのか。

時間は刻々と過ぎてゆく。
鳴らないはずの秒針がコチコチと音を立てているような気がした。
時間。…そうだ、時間だ。
こんな事に、こんな時間を消費していていいのか?よくないだろう。こんな暇があるなら体力トレーニングを、次のミッションの準備を、もしくは精神のリラックスを。
ではこの時間は無駄なのか。
目の前にロックオンが居て、よくも穴が開くほどと思える程に、こちらを見ている。
…その目は何が言いたいのか。判らない。見られるほどに何を考えているのか判らない。まばたきをしても、一瞬先にあるロックオンの顔は同じだ。

そんな青い眼でまっすぐに見てくる。
目線も逸らさず、青が見ている。…その目を通してみたら、世界の全てが青く映りそうだ。透明感のある青がみている。
…何をしたらいいのか。
こぶしにじっとりと嫌な汗が伝った。…冗談じゃない。

打開したい。この現状を。

何故、たった一言にこんなに考えこまなければいけない。
こんな事に脳を使うならミッションの概要を頭に入れた方がいい。ならばこの場から立ち去るか。何も言わずに立ち去れば無かった事になるのか。
ロックオンが好きだといってきた、それは夢として考えておけばいい。あれはまぼろし、冗談だったと。
振り返ってドアを開けて出て行けばいい。出て行って、そうしてこの青い眼から離れてしまえば。
…しかし、そういった場合、好きだと言ったロックオンはどう思うのだろう。
あの、「好き」という気持ちは本当なのか。嘘なのか。冗談なのかもしれない。いや、もうなんでもいい。とりあえず、この現状をなんとかしたい。
何故ここにアレルヤはいないのか。ティエリアでもスメラギ李ノリエガでもいい。クリスティナシエラでもいいから何かを言ってくれたら時間は動くんだ。

背中にまで汗が伝う。
その汗の滴り方が、人の指先の動きに似ていて、ひくりと身体が動いた。
「好き」だというのは、俺をオンナのように見ているから好きだというのか。
もしかしたら、ただセックスの相手を望んでいるだけなのか。
閉鎖された組織、外出もままならない。男が処理をするには自分で抜くか相手を見つけるかだ。
男の相手をしたことが無いわけではない。
多少なりとも強引に相手をさせられたこともあるし、自分から相手を探したこともある。
ロックオンのような男が相手ならマシだ。どこかの得体の知れない男の相手をするよりはずっといい。
身体ひとつでカタがつくならいいのではないか。
いまこの気持ち悪いほどの静寂の中で、黙りこくったまま時間を浪費するよりも、さっさとセックスをしてしまった方がよっぽど楽のような気がする。
そうだ、相手はロックオンだ。
自分が穴の中に入るのか、入れられるのかは判らないけれど。

ここには2人しかいない。そういうことなのか。
ロックオンの目はまっすぐで、逸らされず、どうしたらいいのか判らないが、だんだん慣れてきたのも事実だった。
この目に見られるのも悪くはない。

ふと、そう思えた。
そうだ、この程度の事なら何でもない。何でもないはずだ。おそらく。
めぐりめぐった頭の中で答えが導き出されたとき、驚く程からだから力が抜けた。

ロックオンの目を、見据えた。

「わかった、セックスしてもいい」