随分と久しぶりで会った男は、機嫌が良かった。アリーアルサーシェス。
どうしてこんなにと思う程、笑ってみせたり、酒を飲み干したり。
俺の居ない間に何が起きたんだと、目線で部下に訴えてみたところで答えはない。口止めでもされているのか。いや、この男がそんな回りくどいことをするはずがない。喋ったらサーシェスの機嫌を損ねると、そう判っているから答えない。ただそれだけだ。

…ならば、サーシェスにとって、余程楽しい事があったのだろうと刹那は自分に告がれた酒を飲み干し息を吐いた。


上機嫌な男にベッドに誘われたのは当たり前の事で、上に乗るように言われる事さえ、想像していた通りで驚きもない。
腰を好き勝手に振っても、締め上げたり緩めてみたりと自分の好きにしても、サーシェスは楽しげに受け止めてみせる。…一体何があった?
刹那を見上げ、口角を釣り上げて笑う男が、喉を鳴らした。

「お前に見せたいものがある」
「…何」
「今言ったら面白くねぇだろ」
「……、なん、…」
「もっとお前がオカシクなってからだ」

言葉の直後、体勢を入替えたのはサーシェスの思惑通りだった。
四つん這いになって腰を高く上げ、上から突き落とされるような角度の挿入が始まった。最奥まで突かれた瞬間、雷に打たれたような衝撃が脳髄指先爪先まで走った。
深すぎる。

「う、ぁっ、あ、!」
「おら、どうした?」
「…っ、う、…!」
力を抜けば腰が落ちる。そのたびに、サーシェスの手が容赦なく刹那の背中やら腿を叩いた。しっかりしてみせろよと、まるで競走馬を叩きつけるムチのようだ。
「…ひっ」
踏ん張って、腰を上げ続けるセックスが、どれだけ辛いものか。しかも相手はサーシェスだ。簡単に終わるはずがないと判っているからそれは尚、拷問のように思えた。
1度目が終わるまでに、随分の時間がかかった事さえ、サーシェスの望んだとおりなのだろう。


ぜえぜえと吐く息は時折止まりそうになる。呼吸をし続けろと頭が無意識に司令を出す。呼吸を止めたら意識が落ちる。
ただひたすらに、ナカに吐き出された精液を受け止めて、身体の収縮によって尻を窄めれば、まだナカで脈づくサーシェスのものを実感する。
「身体を起こせ」
言われても。
シーツを握りしめた手は硬直したままで開く事さえままならない。少しずつ息を吐き出して、身体を馴染ませなければ固まったままの身体が自由に動くには時間がかかる。意識を失わない事がやっとだ。
それを見越していたらしいサーシェスは、刹那の身体を力づくで抱え上げ、中に入れたままで身体を起こさせた。
サーシェスの胸に、背中から倒れこむ。
「っあ…!」
「足を開け」
わなわなと震える足に、サーシェスの足が絡まり、強引に両足を開かせれば、股間は覆い隠すものもなく、ただ広げられるだけとなる。
めいいっぱいの開脚に刹那がひくりと震えた。

「恥ずかしいのか、今更」
「…っち、が、」
「違わなねぇだろ」
さらに足を広げさせるべく足首を左右に広げる。無理広げられた股関節がミシリと音を立てるほどの強引さ。
曝け出された下半身。中心で勃起しかけた刹那の高ぶりも、その奥でみっちりと埋ったサーシェスのものも、全て正面から晒される。
「ほぉら、観客が居る」
「…っえ…っ?」
耳元で囁かれて、呼吸が収まりきらない胸を上下させた状態で、正面を見据えれば、確かに同じ部屋の中、暗がりの壁に、一人の男が尻をついてこちらを見ていた。
縛られた両手両足、口に銜えられた猿轡。
しかし、それ以上にその男の容姿に、刹那は愕然とする。

「…ックオン…!」
なぜ。なぜこんなところに。いや、それ以上にどうして。
「似てるだろ?」
サーシェスは刹那の耳を舌先で舐めながら笑う。
「よーく似てるだろ?スパイだそうだ。お前が居ない内に潜り込んでやがってな。…可哀想に、顔が似てなきゃ俺の目に留まることもなかった」
顔が似てなきゃ楽に死ねたものを。
舐める耳朶、声が吹き込まれる。刹那の目は正面を見据えたまま動かない。

似ている。
違うけれど似ている。
目の色、あの男はもっと緑色が強くて、森の奥の湖水のようだった。手足、あんなに細くなかった。銃を撃つ筋肉を供えたしなやかな両腕、足だってあんなじゃない。おびえない、あの男はもっと、口端で笑って、そんな恐怖に歪んだ表情など!

「あ、…あ…、」
「懐かしいだろ?愛しいか?思い出すな、あの日のことを」
「っやめろっ…!」
叫んだ声が、部屋に木霊する。
やめろ、やめてくれ、そんな顔を見たくない。みたくない、ずっと忘れていたのに!

首を振り、目をぎゅっと閉じる。
やめてくれ、あの男を出すな、思考が乱れる!
とうの昔に諦めた感情が蘇って止まらない。
もう手に入れないと、もう死んでしまったと、もう思い出さないと心に強く決めたからこそここに居られる事が出来るのに!
何故、似た男を見ただけでこんなに、こんなに!

「やめてくれッ…!」
「…偉そうに何を言ってやがるんだお前は」
「っ…!」
「お前はいま、ここでセックスをしてるんだ。俺が」
「…アリー…ッ!」

叫んだ途端、後ろからサーシェスが深く抉るように抽送を開始する。
足を広げたまま、奥深くの結合まではっきりと見えるように。
目をあければ、目の前に青緑の目。姿も何もかも、良く似ていた。髪の色、背の高さ、腕も、目も。

「い、やだぁ…っ…!」

叫んだ悲痛な声が高い天井に響く。
よく似た男はその声にさえ怯えた。尻を引き摺って逃げようとするその動きを、ベッドサイドの拳銃を取り上げたサーシェスが容赦なく弾を放つ。1発は腕に辺り、もう1発は頬を掠めた。わざとだ。
猿轡から洩れる悲鳴、歪む声。
聞きたくない。聞きたくない!

ロックオンは死んでしまった。ラグランジュワンの戦闘で、この男に挑み、相打ちとなって宇宙の闇に消えた。
知っている。それは事実だ。曲げようのない、決定的な死。

「俺はアイツに良く似た男を殺したことがある」
「…や、め…」
「しかも今、アイツの兄弟があのソレスタルなんたらに居るそうじゃねぇか。お前も知ってるだろう?」
「………サーシェッ…!」

何故知っている、
振り返った途端、熱い唇が降って来た。
口を塞がれるように押し付けられた唇はもはやキスとも言えない。ねとりと舌と唾液が絡みあっただけだ。

下肢を貫かれ、目線に侵され、口さえ塞がれた。
そうして、心の奥までかき乱して濁して汚す。

守れる術がない。戦える強さも。
そうして、絶望を感じて伏せられた刹那の瞳を、サーシェスは目を細めて笑った。