深く繋いだ身体は、あの頃から12年も月日が経っているとは思えないほど同じだった。

幾つになった?そう問いかけた言葉には答えが帰ってきた。28。
28か。今の俺より3つも歳が上だ。身長だってかなり伸びてる。見下ろす目線が違う。
身体の外見は変わりすぎるほどに変化していたから、抱くのに戸惑った。腰にまわす腕だったり、しなやかにのびた足、内股を擦ってみて判る肉の具合。16と28だ、そりゃあ違うだろう。

国連軍との戦いの直前に、28の刹那はやってきた。最初は誰だと戸惑い、刹那なのかと判って驚く。あいつは今地球だろう?しかもこの男は28だと言った。顔つきはそのままなのに綺麗に伸びた四肢。
ありえない。
これは神様ってやつからの贈り物だろうか。
考えて笑った。神だとさ。この俺が神なんて言葉を口出すとは。
刹那が未来から舞い降りてきた。触れてみて判る、これは本物だと。
触れて、温度を感じて、キスをして体内の温度も知る。刹那だ。これは刹那。

吐き出した欲望を受け止める時の声の出し方と、意地でも背中に手を回してこない、その神経の図太さなんかちっとも変わっていなくて笑った。


「…まだ、居られるのか?」
ナカに埋めたまま、荒い呼吸で問う。刹那はこくりと頷いた。まだコイツの声をロクに聞いていない。喘ぎ声と、自分の歳をつげたぐらい。無口だ。相変わらず。
いいさ。それが28になったお前の性格ってことだろ?まったく、かわってねぇよ。お前は。顔つきだってあの頃のままだ。目の色だって、痛いぐらいにまっすぐ見てくるその目つきも。

ぐずぐずと腰を入れたりまわしたりしながら、余韻を楽しむ。
萎えたわけじゃないが、完全復活したわけでもない。
いつジンクスの部隊が再攻撃を開始するかも判らない。セックスなんてしてる暇はないんだが。
消沈しているティエリアと、深く俯いているアレルヤ。絶望的な状況から戦術を組み立てようとしているミス・スメラギ。
リヒティとクリスは「もう守秘義務なんて」とお互いの過去を話し合ったらしい。
誰だって大きな絶望感と、悲しい微笑みばっかりだ。
これが、自分の命さえ、運命を決める戦いになるのだと判っている。
その戦いの先、ずっと先から来た刹那。28歳。…ってことは、2319年から来たってことか。
一寸先がどうなるか判らない今、それは、…あぁ、随分遠い未来だ。

「…お前が居る世界はどんな世界なんだろうなぁ」
成長した腰や胸を指で辿りながら聞く。
答えなんて帰ってこないと判っている。
髪に触れた。同じような髪型。今は誰が切っているんだろう。知りたいわけじゃないが。
刹那は何も答えない。…答えられるわけないよな。未来の事も、これから俺達がどうなるのかも、何もかも。
けれど確かに刹那は生き延びて、12年後の世界を見ている。生きている。
それが何よりの安堵だった。お前が生きているなら、いいよ。

「…ロックオン、おれは」
刹那が口を開いた。ようやく。
その声が、今の16の刹那よりも随分と違うトーンの声だった。静かに告げられた声を耳の奥で聞きながらも、続きを喋ろうとする唇を、唇で塞いだ。
「……ん、…!」
動揺したんだろう。ひくりと震える身体を抱き締めた。
ほら、お前は28で、俺は24で。でも俺の方がまだ身体はデカイ。だから抱き締めてやるよ。お前は大きくなったって俺からみたらガキだ。
舌を差し入れて深く唇を絡める。吐息が肌にあたる。生暖かい刹那の体温。
挿れっぱなしのナカだって熱い。
唇をゆっくり離した。顔は直ぐ傍。未来の刹那。

「…何も言わなくていい。言えないだろ?今日俺達がどうなるのかなんて」
「……っ…」
寄せられた眉。唇を噛む。
いいんだよ。言わなくたって。自分の未来なんて見えてる。

ありもしない神様ってのが、俺の見られない未来を見せてくれた。
だから、あぁ。
俺はこれで、戦いにゆける。

きっと、俺は死ぬのだろう。

その覚悟はある。
GNアーマーで特攻をかけることが出来るのはデュナメスだけだ。敵の母艦を沈めることが出来れば、もしかしたらやつらは撤退するかもしれない。…けれど、ジンクスを完全に破壊したところで、擬似太陽炉の設計図は国連軍に渡っている。
未来はどうなるのか。
過去ばっかり見ている俺が、何を言えた義理じゃない。でも望む未来はある。
そして、その未来はとっくに託してある。今、地球へと降り立った16歳の小さな少年に。
伝えることは無い。
残してやれることももう無い。
ただ、今地球に下りてしまった刹那が戻ってくるまで耐えられるかどうか。その自信はない。

「刹那、…刹那」
抱き締めた、大きく成長したはずの身体が、随分と小さく感じるのは何故だろう。16の刹那よりも小さく感じるこの奇妙な違和感。
…おまえ、やっぱり変わってないんだよ。28になろうが、きっと40や50になろうが、なぁ、刹那。お前はお前だ。

「ロックオン」
「ん?」
胸に抱き締めた刹那がゆっくりと息を吐き出した。吐息のあたたかさが皮膚に伝わる。

「ロックオン、俺はたたかってる」
「刹那、」
「たたかってるんだ」

告げる言葉は、抱き締めた胸の中で、心臓に吹き込まれるように響いた。
目も合わせていない。表情も見られない。それでも。

おまえは、たたかっている。
そうだ、俺が「たたかえ」と言ったから。
拳銃を向けられたお前が返したゆるぎない言葉。生きている限りたたかうと。

「刹那」
いいよ。それだけで充分だ。
お前はあの言葉と理由と信念だけを武器に戦ってるんだろ?本当は少しも強くないくせに。

なあ、俺はきっと逃げてしまう。咎も受けずに散ってゆく。
「…刹那、」
お前は、そうして誰にも何も真実を告げないまま、咎を受け止めて苦しむんだ。

「いいんだ刹那。…もういい」

今の俺に何が出来る?
お前に何をいってやれる?
抱き締めてやることしか出来ない。きつくきつく、この小さな身体を抱きとめることしか。
残り少ない俺のいのちで、お前の苦しみなんて全てを受け止められない。
だから、お前の咎も俺が持っていってやるから。な?刹那。もういいぜ。
お前はちょっと強がりすぎだ。強情でむちゃくちゃで。28んなっても変わってねぇ。
それじゃあ壊れちまうだろ。

「ありがとう、刹那」

ここに来てくれて。

神が落としていった落し物、希望を受け取らせてもらった。
もう十分だった。

「ロックオン、」
最後にはかなく呼んだ名前。
ふわりと発光した刹那、徐々に身体輪郭がぼやけていく。まるで夢のように溶けていく。
最後に見つめた目は、悲しげな強さを孕んだ目だったから、笑って送り出してやった。

俺の望んだ世界を、頼むぜ、刹那。