ふー、と長いため息をついた音が聞こえて、ロックオンは顔を上げた。
真っ白なシーツの上で、赤茶色の目が細められている。
その目は、まっすぐにロックオンを見つめていたけれど。

「なんだよ、その目は」
「いつもの目だ」
「そうじゃねえって。ため息ついただろ、いま」
「ついていない」
「ついたって。ほら、中が緩んでんぞ」

証明するかのように、ずっぷりと差し込んでいる孔の中を掻き回すように腰を動かす。
緩んでいる、と言われても、ロックオンのそれを受け入れている刹那にとっては、中の壁に絡みつくような大きさでひったりとくっついているから、違いなど判るはずもなく、ロックオンが言うように力を込めているつもりはない。力めば力むほど、濡れない孔では動くのが困難になるのだし、アナルセックスの秘訣は、力を入れないことだと思っている。それは、初めてロックオンとセックスをした時から、何度かの経験を生かして学んだ教訓だ。
…そういえば、あれから一体、何年の年月がたっているのだろうか。
考えようと、思考をめぐらせようとしたところで、ロックオンがふいに動いたから、邪魔をされた。

「お前、別の事考えようとしてるだろ」
「……してない」
「嘘つけよ」
「してない」

してない。つもりだ。ロックオンの事を考えていたのだから。別の事、ではないだろう。…多分。
平然とした目で、刹那は見つめ、
ロックオンはそれを受け止めた。
そうして、今度はロックオンがため息をつく。ふう。

「1年ぶりに会えた相手に対して、その態度はないだろ…」
情緒が無い、とぼやくロックオンだが、刹那の考えは違う。
「1年に1度しか会いにこない男に言われたくない」
言い返すと、今度や、おや、という顔をして見せた。首を傾げる。腰の動きは一旦止めて。
まじまじと見つめてくるロックオンの顔を見つめた。初めて会った頃と、何も変わらぬままの姿のロックオンの顔を。
そんな驚いたふうな顔をしていると、本当に昔と何も変わらぬ表情に見える。…事実、きっとロックオンは変わっていないのだと思う。数年で驚くべき成長を身体ともに迎えた刹那とは大きな違いだ。
ロックオンは、そんな刹那のこころを知ってか知らずか。
「お前、言うようになったなぁ…」
しみじみと言うから、刹那は今度こそ眉を顰めた。今更何を。…そのぐらいは言うだろう。甲斐性なしの男に対しては。
目線で訴えると、ロックオンは目を細め、頬を緩め、顔全体で笑いながら言う。

「いや、去年とは違うぜ。…あぁ、違う違う。刹那、お前はすげぇなぁ」
「………」

何が凄いのか。
何が違うのか。
ロックオンの言っている事はいちいち判らない。刹那はマトモに考えるのを辞めた。
その代わり。
「…動け」
命令形で言ってみせて、腰をぐり、と自分から動かす。
セックスをしたままで、つまらない話をしていたくはない。

時計を見れば、午前1時。
この男が、この部屋にやってきて1時間が過ぎている事になる。
現在1時という事は、ロックオンが居るのは、あと、23時間。
「時間がない」
だから、さっさと。

「……刹那」
ロックオンは刹那を見つめ、やはり、目をぱちくりと瞬きを数度して見せて、また笑った。
「刹那ぁ」
手を伸ばして刹那の頬に触れて、ぺたぺたと肌を堪能し、指先を髪に差し込んで、こめかみにある刹那の性感帯を、ぞくぞくさせてから、ゆっくりと顔を近づけた。

「そうだな。ひとまずセックスしようぜ、刹那。お前の身体をたくさん堪能してから、帰るよ」

額をこつりと合わせ、吐息を吹きかけてから、ゆっくりと目を開く。
唇が近い。だからキスをした。
1年ぶりのキスは、酷く甘かった。

堪能しようぜと囁いたロックオンは、その言葉のとおり、残りの23時間、刹那の身体から離れる事は無かった。
23時59分を過ぎた頃、眠りにつこうとする刹那に、また来年来るよ、と口付けて去っていくロックオンの背中を、蕩ける瞼の裏で見送る。
1年後。
生きていたら、きっと会える。



4月7日だけに戻ってくる、刹那のこいびと。