まるで泣いているような喘ぎ声だった。 「…息を吸えっ…刹那…」 指先が震えていたから、手を取った。 ぎゅ、と握っても、所在なさげにさ迷おうとするから、シーツに押さえつけて封じる。 落ち着かせるつもりで、肌をぴたりと密着させ、胸と胸が触れ合わせた。温度を感じる方が、安堵すると思っていた。 けれど、2つの鼓動は早鐘を打っていて、静まる様子も無い。 刹那の、泣いてるような声も、止まらなかった。 「…刹那、…おい、頼むよ…」 泣くな。 聞いているだけで、せつなくなってくる。悪い事をしてるような気分にもなる。無理矢理犯しているわけでは決してないのに。 ただ、4年。 …4年の間、会えなかっただけなのに。 「…息吸えるだろ、刹那…、なぁ…」 気道を確保してやろうと喉を上に向かせ、口を大きく開ける。それでも、酸素を上手く吸えていないのか、ひゅっ、ひゅっ、と鳴る音と共に、「う わぁ、あ、」と聞いているだけで切ない声が止め処なく響いた。 どうしようもない。 どれだけ落ち着かせようとしても、ゆっくり行為を進めても、刹那の身体は一向に慣れないし、馴染みもしない。 参った。 …まさか、刹那が、4年の間に、こんな風に変わっているとは思いもしなかった。 あの、フォーリンエンジェルスと名づけられたラグランジュワンでの戦い。 あの日、刹那と別れてから、4年。 今、二十歳を越した刹那と、こうして再び会えることになったのは奇跡だ。 刹那。 身長が随分伸びた。 体つきも変わった。 屈まずともキスが出来るようになり、両肩を抱いてみて、以前と肩幅が変わっていると思った。ガタイが良くなったわけでもないが、スレンダーに 育った刹那は、以前の面影を遺しつつ、綺麗に成長していた。 4年も放っておいて、今更、また昔のような関係に戻りたいなんて、酷い言い分だ。 無理だろうと、思っていた。 あれから4年だ。その間の刹那の行動を知らない。 あれからどのぐらい、刹那の考え方が変わり、気持ちが変わったのかどうかも判らない。だからこそ、今の刹那がもし、他の誰かを愛しているの なら、他の女性や同性を愛することが出来ていたのなら、身を引く覚悟は出来ていた。 戦うことしか出来なかった刹那が、誰かを愛することが出来るようになっていたのなら、それは嬉しいことだ。…受け入れられるはずだ。 けれど、刹那の姿を見、胸に高ぶった気持ちは、そんな覚悟とは裏腹に素直な反応を示した。 (…我慢なんて出来るわけ、ねぇ…っての…) 抱き締めてキスをしたその時、刹那の身体が、少しだけ震えていた。それだけで、刹那がどれだけこの抱擁を望んでいたのかを知ってしまった から、耐えられなかった。 むしゃぶりつくようなキス。息も奪うような。それでも刹那は答えた。 「…なんだよ、刹那、おまえ…くそっ…」 強く抱きしめても、穏やかに受け入れ、性急にベッドに押し付けても、手を伸ばして引き寄せられた。 その動きはまるで娼婦のようでもあり、手馴れたようにも見えた。 けれど、抱いてみればどうだ。 泣き声、震え、仰け反る喉。 あの頃とは違う刹那が居る。 「…なぁ、頼むから刹那、ゆっくりだ、ゆっくり息を吸え。…出来るな?」 濡れた目がうっすらと開き、赤茶色が薄暗闇の中で動く。 腰を動かすと、目尻に溜まった涙が散った。 「…ひっ…は、…ぁ、ああっ、あ、あああっ…」 「刹那…」 泣き声が、悲鳴だ。 だから、動きを止めてやって、刹那が息を整えるのを待つ。 その間も、喉から搾り出されるような、悲痛な声を聞く。 4年で刹那は変わったと思っていた。 事実、刹那の身体は成長を遂げ、喋り方も考え方も、あの頃よりもずっと大人びたそれになっていたけれど、抱いてみて思ったのは、もしか したらこの身体は、4年の間、誰にも抱かれていなかったのかと思った。 刹那のセックスは、あまりにもたどたどしい。 触れるだけで、敏感に身体を揺らし、引き寄せる手の動きも躊躇いがち。…そしてこの悲鳴のような声。 それは、4年もの長い間、経験をつんでこなかったための、怯えではないか。 疑問が浮かんだ。 少年から青年になる多感な時期に、誰も恋人を作らなかったのだろうか。なぜ。 誰とも触れ合わず、孤独ばかりを感じていたのだろうか。なぜ。 ロックオンストラトスと恋人関係にあったのは確かだ。…けれど、すでに「死んだはずの」ロックオンに操を立てる必要がどこにあるのか。 刹那はあの時まだ16だった。 「…刹那…」 名を呼ぶ。震えた睫が持ち上がる。目が合う。 「…ロックオン、ストラトス」 唇が動いた。声にもならないような、か細い声。 胸が、締め付けられる思いだ。 「…ああ、刹那。俺だよ…」 手を取り上げ、頬に触れさせる。 体温が伝わればいい。 頬からも、胸からも、交わったところからも。 どこもかしこも、埋め尽くされて、そうして確かに戻ってきたのだと知ればいい。 |