困った事になった。

目の前で揺れる薄茶色の髪を見つめながら、刹那は思う。
尻の孔にはロックオンがずっぷりと埋まっていて、ぐちぐちと音を立てながら律動を繰り返している。

それは何気ない、いつもの通りのセックスで、いつものやり方だったけれど、…おかしい。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
刹那は目を閉じた。
それによって、感覚が鋭くなって、このセックスでの快感を得られるかとも思ったのだが、駄目だ。
ため息をつきたい気持ちを必死で抑えた。

(…あまり…気持ちよくない…)

どうしてだろう。
ロックオンとのセックスは何度も繰りかえしているはずだ。
それこそ、飽きるほど何度も何度も。

もしかして、本当に飽きているのか?
だからこそ気持ちよくないのか?

…いや、そんなはずはない。
飽きてるなんて、そんなことは。
そもそも、今夜とて同じベッドに入るまでは、股間は高ぶっていたし、いつものように勃起もした。
それなのに、いざ挿入されて性感帯をじわじわと刺激しているはずが、感度がどうにも鈍い。
いつもならば、1度目はそうもたずに直ぐ出してしまうのに。

(…もしや、自分の身体に問題でも起きているのか…)

ふと考える。
…そういえば、前よりも淡白になった気がする。
射精したい欲情はあるけれど、しかし一度出せば満足してしまって、それ以上を望んでいない。
セックスを、したくないわけではないのに。

「どうした、刹那。気分が乗らないか」

腰をまわし、円を描くようにしながら、ロックオンが真上から覗きこんでいた。微笑まれて、思わず目をそらした。

「…いや…」
「いや、って事はねぇだろ。嫌ならやめるか?満足か?」

言われて、満足しているのか、と自分の身体に聞く。…満足…しているというのか。これは。
けれど、今、結合を解いても問題は特にないような気がした。

「………」
「黙るってことは、満足してねぇんだよ」
「…そうなのか」
「そうだろ。もういりません、ってんなら辞めるが」
「………」

いらない…わけではない。おそらく。

「…欲しい…はずだ」
「はず、ってねぇ…」

呆れが混じった表情で、ロックオンが上体を起こす。繋がったままだ。
持ち上げていた刹那の足を下ろして、後ろ髪を、ぱりぱりと掻く。

「やめるか?」
「…いや…」
「続けるか」
「ああ」
「…なんか乗らねぇなぁ」

試しとばかりに、中途半端に勃起した刹那の中心を、ずりずりと扱いてみせる。
びくっ、と身体が震えるが、それはそれ以上の深い反応を示さなかった。
どうにも微妙な気持ちになる。
欲しいはず。
…はず。

「飽きてんのか、お前は」
「………」

言われて、刹那は小さく首を傾げた。まばたき。ロックオンの顔を見る。…飽きてるというのか、これは。

「図星だな」

即答された。いや、まだ何も答えていないのに。
ロックオンの動きは完全に止まっていて、刺激を与えることもない。こんな状態でなんでこんな話しを平然としているのか。

「…何故か…身体が落ち着いている…」
「それを冷めている、って言うんだよ」

やれやれと溜息。

「お前さんは冷めてるかもしれないが、俺はまだ一度もイってないんでね。1度目だけは付き合ってもらうぜ」
「…そのつもりだ」

もう一度足を抱え上げられて、身体が密着する。
ロックオンの眉間に寄った皺は、ハの字型だ。
どうにも居た堪れない気分になった。

「…なんで、…かねぇ…?」
「…判らない、な、」

ゆさゆさと揺さぶられながら、そんな冷めた会話。

「なんか、こころあたり、ないのか、おまえっ、…ぁっ…まずっ…」
「イくのか」
「…あー…もうちょい…。…で、こころあたりは…っ?」

こころあたり。
聞かれても、何がどう心あたりなのか。
ゆさゆさ揺さぶられると、頭も動く。
ものを深く考える事が出来ない。
そもそも、朝起きた時にはある程度スッキリしていた。
だからこそ、今、セックスを特に必要としていないだと思うが。

「…やりたくてたまらねぇって気持ちが、…ないんだな…?」
「あぁ、それは無い」
「はっきりいいやがった…ちくしょう、いじめてぇ…」

ゆるゆると陰茎を扱く。
けれど、満足しきったように、刹那の中心は高ぶる事がない。

「お前の、まるで出した後みてぇじゃねえか…」

ぼそりと言われて、気付く。
そういえば。

「朝…」

出していたような気がする。パンツが濡れていた。
けれど、それを告げるのは辞めた。
まるで、子供のオネショを報告しているようだ。情けない。

「…朝、なんだよ、おい」
「…なんでもない」
「おまっ、刹那、…ちょ……くそ、絶対やりたいって言わせてやる…っ、う!…っ〜〜ッ…締めるな、わざとだろ!」
「…はやくイけ…」
「刹那、おまえ……」

苛立ったらしいロックオンが、足を高く抱え上げた。
いちばん深く挿入できる角度にし、強引に奥を突きこんでくる。
快感を貪るロックオンの身体を受け止めながら、早く終らないかと刹那は小さく息を吐いた。