くさい。

ベッドの中、横たわって少し。
最初は、気の所為かとおもったそのにおいは、時折、鼻にツン、とつく。

なんなんだ、このにおいは。

腹が立って、立ち上がった。
においは本当にわずかで、けれど鼻にくるようなにおいだから、気になって仕方ない。
部屋を、動物のようにうろうろと徘徊して、ダストボックスの前で立ち止まった。

…ここから、か?

ボックスの蓋を、かば、と開けて、無造作に手を突っ込む。
ティッシュをかきわけてみて、においが強くなったから、ここに間違いないと確信する。
手に何かが当たり、それを引き上げた。
…と、その時、見事としか言いようのないタイミングで、ドアが開いた。
そこに居たのはアレルヤ・ハブティズム。

アレルヤは微笑む。おそらく無意識に。
何かを話そうとし、けれど目線を少し下げて、手に持っている「ソレ」を認識した途端、アレルヤはハレルヤに切り替わった。素早い。あまりにも。

「ンなもん持って何やってんだ、おめーはよ」
「…におった」
「そりゃそうだ。生ゴミみてぇなもんだろ」

指に持っていたソレは、赤色のゴム。
使用済のそれは、ぐしゃっと丸められたまま、ゴミ箱に突っ込まれていた所為で、においがしたらしい。

「随分なこった」

鼻で笑うハレルヤが、置きにきたらしい端末を、ベッドにぽい、と投げた。バウンドして落ち着く。

「…用件はこれか」
「ああそうだよ、おい、アレルヤがうっせぇから、そーゆーモンは見えないトコでやれ」
「…お前がノックもせず入ってきた…」
「ノックしなかったのはアレルヤだろーが。それにしてもゴムなんてつけてやるとはね」
「………」

どういう意味なのか。
追求するつもりもない。けれど、ハレルヤは楽しげに、ひとりで喋りだす。

「あいつはゴムなんてつけずに中で出すような男だと思ったけどなァ?思ったより大事にされてんだなアンタ」
「………」

ハレルヤは口は悪いが、悪気はない。言っている事は全て本性なのだ。ひねくれている分も含め。
だからこそ、悪口なのか、褒めているのか判らないような事を言って、鼻で笑う。

何かを、言い返して欲しいのか。

ハレルヤは、壁に寄りかかりながら、じっと目線を向ける。
何を返せばいいのか判らず、手に持ったままのモノも、どうするべきか悩んだ。(においがしなければいいのでもう一度ティッシュにくるめばいいんだと考え付いたのはもう少し後のことだ)
結局、ハレルヤは、つまらなそうに目を細めて、ふん、と鼻を鳴らし、出て行ってしまった。
ドアが閉まってすぐ、アレルヤの声がした。悲鳴のような声だった。


ゴム。
…そのままにするとにおうのか。

それは、刹那が今日学んだことだ。
射精するために、手で擦っているだけなら、手を洗えばいいし、シーツだって替えが聞く。
だからこそ、ゴムなど使う必要はあるのかと思うのだが、ロックオンはゴムを使ったほうがいいと言う。

『俺が居るときはいいけどな、1人でヤるならゴム使え。…な?』

置いていかれたゴムは1ダース。
ロックオンの不在は1週間。

…どういうペースで自慰をしろという事なのか判らない。
それでも、使った幾つかのゴムは、見事に精液だらけになった。そうか、どうりでにおうはずだ。
2人でやってる時はゴムを使わないのだから、そのほうがにおいが残る事は無いような気がする。

ねっちょりと濡れたゴムを、ダストボックスの中から1つずつ取り出しながら、さてどうするものかと赤いゴムを見つめた。