コンテナに戻ると、刹那は待機室の長椅子に座っていた。
ノーマルスーツのままで、背中を丸めてぐったりと。

(…刹那…?)
声をかけるタイミングを失った。
思わず、気配も殺して、じっと刹那を魅入った。
気付いていないのか。
刹那は、ただじっと、床を見つめていた。…いや、何も見てはいないのか、目に映るもの以外を見ているのか。
ロックオンが近づいたことさえも判らぬほど、疲れきっているのか。

(あんな戦いをされちゃ、こっちの身が持たない…)
刹那の位置を把握し、戦況も見極めて、フォローするのが自分の役目だと判っている。
…けれど。


床を見つめていた刹那の手が、もそりと動いた。
それは、とてつもなくゆっくりとした動作だった。
持ち上げた手のひらをじっと見つめる。
黄色人種らしい血色のいい肌。
両手をじっと見つめる、まばたきすらせぬ刹那の目。

あぁ、…。
本当に、このこどもは。


「何やってんだ、お前は」
「……ロックオン」

声をかけた途端、気を張って、目に力を込めて睨んでくる。
けれどそれも判って、ロックオンは刹那の真正面まで歩くと、腰を下ろして、うつむいた刹那の視界に自分の姿と顔を認識させる。
「…なんだ」
「なんだ、じゃねぇよ。ほら、手」
引っ込めたはずの手を引っ張り出して、手に触れる。
抵抗されても無理矢理に、ぐい、と引っ張ってみて、判る。
あぁ、やっぱりだ。

「…何をする」
「手ぇ触ってるだけだろ」
「離せ」
「離してやらない」
「ロックオン」
「お前の面倒を見るのは俺」
「必要ない」
「ばあか、自分の今の状況がわかってないぐらいなんだから必要なんだよ」

手を握る。
刹那は身じろぐのをやめた。
諦めたのだろうが、触れられるのを嫌がるような関係ではないからだ。
もう、今は。

「手の震えは止まったか」
「震えてなどいない」
「あぁ、そうかい。なら、そんなに時間はかからないかな」
「もう離せ」
「ダメだ。あと10分してもあったかくならなかったら、セックスするからな」
「必要ない」
「必要なんだって。冷たいだろ、まだ」
「シャワーを浴びる」
「そんなモンじゃあったまんねぇんだよ人間の身体ってのは」

屁理屈だ。
今更セックスを嫌がるなんて。

「お前にとっちゃ、俺は面倒なやつかもしれないが、まあ…付き合ってくれよ」
「…………」

刹那が細く息を吐く。
身体の力が徐々に抜けていくのが判った。

「…いつまで…握っている…」
「そうだなあ」
刹那の手の甲を、指先でなぞる。
皮膚。
温度。
ああ、そうか。
「…俺の手が、あったかくなるまで」

低い温度が、少しずつ高くなっていくのを確かめながら、ロックオンは静かに目を閉じた。