雪が降りそうなほど、灰色の低い空。 小さな商店街の小さなケーキ屋の前。 (…ロックオン) 商店街の通路を挟んで、向こう側。 微笑みを浮かべて歩くロックオンの姿を見つけた。 隣に歩いているのは、美しい女性。 あれは、奥さんだろうか、と刹那は思った。 見たこともない女性だ。けれど、ロックオンの左手には、いつもは外されているはずの指輪があった。腕を組み、寒さの厳しい冬の街中をふたりであたたかく歩いている。 午後七時。 今から、ディナーにでも向かうのか、それとも仕事帰りか。いつもと違う服装。いつもと違う表情。 自分に向けられるものではない笑顔。 (…幸せそうだ) それはどこから見ても、幸せな男女だった。 道を歩くふたり。それを見つめる自分。 ふと、目線を自分の手に移せば、しもやけになりかけた指先がある。 クリスマスケーキが山と積まている前で、これを売り上げるにはあと何時間かかるだろうか。 (…ロックオン) 姿が見れたことは奇跡のように思えた。ほんの僅かな時間だった。 女性と歩いているのを見たのは初めてだ。 ロックオンが結婚していることは知っていたし、奥さんに対する愛情が深い事さえも知っていた。 それでも、あの男は自分を抱くのだ。 律儀に、一週間に一度は必ずといっていいほど抱きにくる。 つい数日前も、同じベッドの中で眠った。 彼からかおるほのかな香水。 それを思い出しながら、刹那は乾燥でかじかむ手を握った。 きっと、あともう数日すれば、ロックオンは会いに来る。 指輪を外して、表情も変えて。 「よお」 と片手を挙げて、会いにくる。 …その日を待っている。 |