いつもの通路、 いつもの時間。 まっすぐに歩く、戦艦の中。 セックスをするならば、翌日がオフの時だけだと約束をした。 だから、今夜ならば、刹那は部屋へと入れてくれるはずだ。 翌日は、刹那はオフで、自分とて遅番だった。 絶好のシチュエーション。 そして今、刹那の部屋の前に居る。 士官用の小部屋はひとりきりの部屋。 なのに、モノは少なくて、ベッドと執務机があるきり。 いっそ生活感がないほどに何もにおいの感じない部屋だった。 手を伸ばして、慣れた暗証番号を打つ。 すぐにドアは開くはずだった。 ERROR。 おかしいな。 もう一度、打つ。 ERROR。 ERROR ERROR ERROR ERROR 何度やっても同じだ。 なぜ、と一瞬考え、あぁ部屋の捜索に入られたのかとすぐに検討がついた。 裏切り者、刹那Fセイエイ。 最新型のMSを奪取して、夜の闇へと消えていった。 広い海原、雷が鳴りひびくその中を飛んで、飛んで、追いつかれて堕とされた。 助かるわけがない。 海は酷く荒れていて、船さえ出ない。 捜索隊が調べても遺体は上がらなかったらしいと人づてで聞いた。 堕とした。 自分が得意としていた銃で、MSで、その機体の中心を撃ち抜いた。 海に堕ちた機体は、大きな爆発と共に消えた。 遺言は無かった。 何も言わなかった。 ただ、黙って逃げるから、後ろから撃ち抜くしかなかった。 「…それ以外に、俺が何が出来たってんだ…」 何も出来ないだろ。逃げるんだから。裏切るんだから。それ以上何をしろって?投降だって呼びかけた。でも無視しかされなくて、聞いたのは名前を呼ぶ声だけ。それだけが最後の言葉。 短すぎる。あまりにも。 開かないドアの前、ただ立ち尽くす。 通路は誰も通らない。もうこの部屋にも誰も通らない。 額をドアへと押し付けても、部屋の中からは何も聞こえてこない。 ずるずると座り込む。立ち上がる気も起きなかった。 「…俺が、殺したんだもんなァ…」 刹那を、撃ち抜いて。 苦しかっただろうか。 辛かったのだろうか。 「お前、俺の事好きだったのかよ?」 セックスはさせてくれたけれど、その身体を投げ出してくれたけれど。 愛してるなんて、好きだなんて、一言だって言ってもらったことはない。 少しでも好きだったのなら、なぁ、この苦しさが判るだろうか。 「…好きなやつに堕とされるってどんな気分だよ、刹那」 呟いた言葉が、冷たいドアに吸い込まれていく。 「俺はさ、お前の事、好きだったぜ。何度も言ったように、本当に好きだったんだ。…だからさ」 いま、俺の辛さが、判るだろうか。 身体がバラバラに引きちぎられそうな、 頭の中がぐちゃぐちゃにすり潰されそうな、 もう少しも身体も動かなくなるような。 …なぁ、このこころが、判るだろうか? |