本当は、本当はさ?
何年かぶりにアスランさんに会って、そうしたら俺の心は大丈夫かな、って思ってた。心配してた。
だってさ、一応それなりに身体の関係もあったんだ。もうそんなの、とっくの昔の話だけど、それでもヤることはやってて、一線は越えてしまったんだから、なんかギクシャクしちゃうのかもしれないって。
上手く話せるかな。ちゃんと普通の知り合いのフリとか出来るのかな。
まぁ、アスランさんはああ見えてやることやってる人だっていうのはミネルバに居たときに良く知っちゃってたから、上手くやるんだろうとは思ったけど、問題は俺だ。
つい、顔に出ちゃうかも。
つい、あの頃のこと、思い出しちゃってヘンな感じになるかも。
心配してみた。けど、…普通だ。
うん。なんか普通。ってか、あの頃より話が出来てる。これって俺も大人になったって事かな。それとも平和になったからかな。そうだとしたら年月と平和の力ってすごい。

何年か振りに会って、不意に見たアスランは、やっぱりアスランさんのまんまだった。
お見合いのことは、アスランさんは知らされていないようだったけど、なんかそれもそれでアスランさんっぽいなぁって思った。
ふふ、見合いしてるって気づいた時、あんたはどういう反応するんでしょうね?
俺、ちょっと楽しみになってきました。
あのお姫さまは、結構やる人ですよ。
少なくとも、俺はもう好感度抜群です。やっぱ、自分のことに興味を持ってくれてるひとが居るって嬉しいですね。
俺、オーブに来たら周りは敵だらけだから。
きっと、俺に家族を殺された人だって居るだろうし、俺があのデスティニーに乗ってたってことを知ってる人たちもいるだろう。
だけど、あのお姫様のおかげで、ちょっとだけ、ちょっとだけ、息が出来る。
アスランさんの笑顔もプラスされてね、ああ、良かった、って思ってる。
俺、この護衛でオーブに来てよかった。
…来てよかった、けど。
なんで俺も晩餐会、出ることになったんだろ…。


広いダンスホールみたいな場所で、高い天井、豪華なシャンデリアと装飾品。
着飾ったお姫様みたいなのが何十人も。それでもって、おなかの出ているお金持ちそうなおっさんとおばさんと、あとは軍人がちらほら。そんな晩餐会の真ん中で、俺が守るべき姫君は、華やかに微笑んでた。
周りには沢山のお偉いひとたち。やってきてはちょっとだけ会話をし、手のひらなんかにキスまで落とされちゃったりして、それでも笑顔だし、いろんな人と会話をしてる。
さすがだなぁと思う。女の子って…いうか、あの姫君は凄い。
晩餐会なんてものにほとんど出たことのない俺は、ただぼうっと壁の花、というか、花にもなってないか。俺はただの軍人だから。軍服だし。
こういうとき、赤服って目立つんだ。さっきから、女の人たちに、ちらちら見られてるのが判る。
「…注目されてるぞ、お前」
「アスランさんじゃないんですかぁ」
「オーブの軍人なんて皆見慣れてるさ。お前が赤服だからだろ」
「…はぁ…」
晩餐会だっていうのに、俺はまたアスランさんと一緒にいる。なんでだろ。…よく判らない。
ただ、どうしたって俺たちは軍人で、だから輪の中心に入ることはない。…入りたくないし。
でも、違う軍服着てるのに、楽しく会話するでもなく、お互い壁に背中を向けて、一応手にはドリンク持ってるけど、顔も合わせずにそんな会話ばっかりしているから、周りのひとたちからは変な目線ばっかり向けられてる。
その目線のほとんどは、若い女性で、ドレスとか着てて、つまり、これって。
「アスランさん狙いの目線だと思うんですけどね」
「俺…じゃないだろ」
「アンタ、オーブの偉い人なんだろ。皆狙ってるんじゃないの」
軍人だけど、物腰柔らかいし、顔だっていい。スキルもある。そりゃ女の人たちは狙うだろ。だってあのアスラン・ザラだぞ。そりゃあ出来るものなら彼氏にだって知り合いにだってなりたいだろう。ミーハーじゃなくたって思うだろう。当たり前だ。
…なのにどうして俺と一緒にいるんだろ。このひと。
「もしかして、こーゆーパーティみたいなの、嫌いなんですか」
「……好き…ではないな…」
「でしょうね…」
口に手を当てて、周囲からの目線に、さりげなくそっぽを向く。そうやって女の人からの目線から逃げてる。避けられてるって判ると、女の人が散ってく。ほら、やっぱりアンタが目当てなんじゃないか。
「元ザフトのおうじさまで現役将校さんって、やっぱスゲーんでありますねえー」
「…おまえ…」
呆れたみたいにアスランさんが言う。
だって、そうでしょうに。俺、間違ったこと言ってないですからね。
「今日の主役は、あの姫君とお前だぞ」
「…俺はただの護衛ですって」
こんなの、誰も目当てにしないですよ。それより、いつ、俺をうらんでる人からお酒かけられるんだろう…ってそんな事考えてます。いつ起きたっておかしくない。ナイフもって殺されたってね。
これじゃ、どっちが護衛か判ったもんじゃない。…まあ、俺は軍人だから、ひとりでなんとかするけど。
(…あれ?)
そこでふと思った。
どうしてアスランさんがここに居るのか。
晩餐会に出席しているのか。
…もしかして、気にしてるのかな。俺に何かがあるんじゃないかって。
(…あー…そういうところだけ、すげーカン鋭い人だもんなぁ…)
想像できて俺はちょっと笑った。
この人はやっぱり相変わらずだ。そう思えたら、今、肩を張っているのかバカらしくなって、すとん、と力を抜いた。

「こうやって話すの、久しぶりですね」
「…ああ、そうだな」
「なつかしいですよ。なんか、あの頃みたいだ」
この力が抜ける感じ。ここはベッドの中じゃないけど。
アスランさんも同じこと思ったのか、ふっ、と笑っていた。
「あの時は、こーやって話を出来るのって、戦艦のベッドの中だけでしたけど、今は晩餐会ですもんね。すげー出世だー」
「出世か?」
「出世ですよ。昔はあんな場所でしか喋ってなかったもんなぁ。…なんか、不毛でしたね」
言うと、首をかしげているから、俺はまた笑った。
「不毛でしょ。性欲処理のついでじゃないと、話も出来なかったですもんね」
俺は笑った。
けど、アスランさんはそれ以上突っ込んでこなかった。ただ、ぼそっと口先を動かしているのは判ったけど、何て言ったか判らない。…なに言おうとしてたんです?
そこで会話は途切れた。
さっきまで、話が出来ていたはずなのに、そこでぷっつりと。
あれ?やっぱさすがにあの頃の話をするのはまずかったのかもしれない。そりゃ大声ではいえないようなことだし。失敗しちゃったかな。
思っていたら、ダンスホールの中央に居た、例の姫君が、俺に目線をよこしているのが判った。
…俺?アスランさんじゃなくて?
「…あー、呼ばれたみたいなんで」
「ああ」
仕方なく足を踏み出して、彼女の元へいく。
多分あれだ、俺も一応、姫君の護衛だし、赤服でもあるから、挨拶はしておかなくちゃいけないって事なんだろう。面倒だな。なんで俺まで対外的なことやらなきゃいけないんだろう。
…ああ、本当、さっさとアスランさんとくっついてくださいよ。結婚しちゃえば俺はこんなことしなくて済む。
予想通り、彼女は俺をオーブの偉いさんに紹介をした。
俺は、デスティニーに乗ってたし、オーブを攻撃したこともあるから、あんまり公に挨拶したくは無かったけれど仕方ない。そういうのも含めて俺はオーブに来たんだろう。「平和のために」それが合言葉みたいに、俺は挨拶をする。

「ひっぱり出してごめんなさいね、シン」
ヒソッと言われて、俺は「別にいいですけど」って返す。
「…別にいい、って顔してないわ」
そりゃあ、こういうのはあんまり好きじゃない。何より俺は、
「軍人だから。それに俺、あんまりオーブには好かれてないと思うんで」
「…あ、そっか。そうよね。オーブとは…」
姫さまが、しゅん、となったから、慌てて「大丈夫です」って言う。…俺が気を使わせてどうするんだ。
「こういうのも仕事だって思ってますから大丈夫です」
言うと、姫君は「ありがとう」と返す。
平和になれば、軍人だって言ったって、こういう仕事だって増えるんだ。だから嫌がっててもしょうがない。判ってる。
戦って人が死ぬよりずっといい。

途中、ちらりと見たアスランさんは、やっぱりというか、当然というか、着飾った女の人たちに囲まれていた。
ほらね。だからアンタ、早くお見合いしちゃった方がいいですってば。