お見合いをすることが、俺たちがオーブに来た本当の目的だっていうのは、判っているけど、そう簡単に、それだけをこなせばいいってもんでもない。
平和のための特使なんだから、姫君だって俺だって、やることは沢山ある。
まるでプロバカンダみたいだ。いろんな施設を訪問したり、アスハと対面したり。なかなか忙しい。
俺も彼女に付いて、仕事をこなす。
けれど、ひとつ判ったことがある。俺は、彼女とアスランさんと引き合わせるために呼ばれたはずだったけれど、本当はそれだけが理由じゃないってことだ。
…気配がするのだ。
それも、かなり強い殺気が。

(初日から感じてたから判りにくかったけど…これは本物だ…)
殺気。
オーブの軍港に着いたときにも、晩餐会のときにも感じた。そして今も。

狙われているのは、俺か、姫か。
俺を殺したいって思っている人がうじゃうじゃ居るだろうって事は、もう判っていることだとして、問題なのは、姫君が狙われている場合だ。
オーブにも、プラントのことを嫌っている人は沢山いる。だから、プラントの姫なんて受け入れたくないって思ってるやつらだっている。…彼女を狙うとしたらそういう連中。

(…多分、彼女が狙われているんだろうな…)
思えば、この護衛の任務が俺に来たこと自体、おかしかった。
アスランさんの知り合いだからお見合いの引き合わせを出来るだろうって、そんな簡単なものだけで呼ばれたるのは、やっぱりおかしい。
姫を守っているのはSPだけど、さすがにMSパイロットはいない。だから多分、もし姫を殺そうとしているやつらがMSを出してきたら、俺がなんとかしないといけないってことだ。
過去には、オーブにMSを持ち込んででもラクス・クラインを殺そうとしたやつらも居るって聞いた。島国のオーブに侵入するのは、プラントに入るよりも容易いのかもしれない。
もしも、彼女がMSで襲われたら。
(対抗できるだろうか…)
和平のためにやってきた俺たちは、MSは持ってきていない。丸腰みたいなものだ。
MSパイロットである俺が、彼女のために出来るとしたらMSで戦うことなのに、それが出来ない。ここじゃ、何も。
つまり、俺がやらなきゃいけないことは、そういうこと。
(アスランさんなら…)
多分、俺の話を聞いてくれる。
さすがにMSを貸してくれるって事はないだろうけど、テロリストによって、この平和な状態がダメになるかもしれないと言えば、答えてくれるはずだ。


***


バイクを走らせて向かった先は、アスランさんの家だった。
時間は深夜。
護衛すべき姫も眠りについている。自由に動けるのは今だけだ。
突然、何も言わずにこんな時間に訪ねてもアスランさんは寝ているかもしれない。
けど、会うなら今しかない。
俺がオーブの軍にたずねるわけにはいかないし、目立つのもよくない。
狙っている連中は、どこで何を見ているか判らないから。
それに、このオーブで俺が信用できるひとは、アスランさんただひとりだった。

玄関の脇にバイクを止めて、インターフォンを鳴らし、アスランさんが出てくるのを待つ。
時間は深夜で、街の明かりだってほとんど消えている。けどアスランさんの家の明かりはついていた。寝てない。助かった。
しばらくしてドアが開き、中から、ラフなシャツ姿のアスランさんが出てきた。俺を見て驚いた顔。…そりゃあそうだろう。
「…どうしたんだ、お前」
「ちょっと…相談したいことがあって」
入れてくれます?と目で示せば、ドアは俺を迎えるように大きく開いた。
「こんな時間に来ちゃって悪いんですけど、ちょっと重要な問題があって。…アスランさんにお願いをしたいんです」
「…だろうな。…ただごとじゃない気はするよ」
部屋の真ん中まで入って、上着を脱いで椅子にかける。その間にアスランさんはコーヒーを用意する。
…込み入った話になるだろう、と判ってくれたらしい。
見れば、アスランさんも調べ物をしていたのか、ダイニングテーブルの上に、飲みかけのコーヒーと分厚い書類。…この人も大変だな。

アスランさんの部屋はシンプルだった。
多分、24時間のほとんどを軍で過ごしているからだと思う。こじんまりしたダイニング。隣のドアは多分寝室。
差し出されたコーヒーから、いい香りがした。受け取る。
「…で?なんの話なんだ」
「MSの出撃準備をしてください」
あたたかいコーヒーに口をつけながら、俺は単刀直入に切り出す。アスランさんはピクリと反応したけれど、すぐに険しい表情で話の二歩先を行く。
「…それは…彼女が狙われているということか?」
さすがに話が早い。俺は頷いた。
「おそらく。…普段ならSPが何とかしてくれると思うんですけど、もし移動中や、帰りのシャトルで狙われたらどうしようもない」
「…そうだな」
このオーブの中でMSを自由に動かせるような権限があるのは、代表のアスハだけだ。命令権はあの人にある。けれど、将校であるアスランさんにだって同じぐらいの権利はあるはずだ。アスランさんなら、アスハにも話をしやすい位置にいる。いろんな意味で適任だった。
「出来ますか」
「やるしかないだろう。お前も彼女も、落とすわけにはいかない」
すぐに返事は返ってくる。俺が望んでいた通りの答え。
ああ、良かった。
俺はようやくほっと一息つく。本当にコーヒーがあったかく感じて、自然と笑っていた。
それが聞けないと、本当に俺は困ったことになっていたから。
「…アスランさんならそう言ってくれると思ってました」
改めてコーヒーをすすりながら、俺は返す。
アスランさんも眉尻を下げながら返してくれて、ああ、懐かしい笑い方するなぁと思った。なんか、笑いたいのに笑いきれないような顔。…なんでかアスランさん、そういう顔してる印象あるよ。俺がミネルバで散々困らせたからもしれない。
このコーヒーだってそうだ。いつかあのミネルバで飲んでいたのとは、味も濃さも全然違っているけど、なんだかあの頃を思い出す。
あの待機室で飲んだコーヒー。缶の、どこにでも売っているやつ。そういえば最近飲んでなかったな。
レイが居て、ルナが居て、あんたはちょっと遠くにいて。…なんでアスランさんって会話にも混じらないんだろう、と思っていた。ちらちら見てた。多分に睨んでただろう。そのうちアンタは館長に呼ばれてブリッジに行ってしまう。あーあ、行っちゃった。ちょっとぐらい、話が出来ると思ったのに。
それを見たルナが言った。「睨んでばっかりね、ホント」
違うよ。睨んでたわけじゃない。気になってたんだ。
けど、それを言うのが面倒だから、俺はプイ、と横を向いて終わり。
ああ、懐かしいな。

「やっぱり、アスランさんと会ったからかな…」
「どうした?」
色々思い出す。
ねえ、アンタはあのとき、そんな優しい声をかけてくれなかったんですよ?いつも俺は怒られてた。
「…うん、なんか懐かしくなったんです。ミネルバに居た頃を思い出して」
久しぶりに話して、久しぶりに顔を見て。ああ、アスランさんだなぁって思った。顔つきとか、身体とか。変わってるのに、なんだかちっとも変わってなくて。
でも、こんな風に話は出来ていなかったから。

「…シン、」
ふ、と。アスランさんが名前を呼んだ。
俺は、その言い方と声に、聞き覚えがあった。
優しい声。ちょっと高い声。…それって。
気が付いたときには、アスランさんの顔は近づいてきていて、あ、と思っている間にキスをしていた。
俺はコーヒーのカップを持ったまま。アスランさんの唇が、俺に。
(……あれ?)
思う。…キス、してるけど。…ねえ?
(しても良かったんだっけ?)
俺たちって、キスしても?
…いいの?ねえ。…あ、でもなんか…キス、頭がほわんってする。
久しぶりに触れた唇同士の感触は、めちゃくちゃに甘くて、それなのに、まるで張り付くのが当たり前みたいに気持ちよくて、離れられない。
ねえ、いいの?俺たちキスしても。
唇は離れなくて、アスランさんも離さなくて、俺も、まぁいいや、って思っていた。
目を閉じてもいいのかな。
だって、目を閉じれば、何にも見えなくなる。そうなれば、アスランさんだけを感じることが出来るから。


***


久しぶりすぎたセックスは、やっぱり身体は簡単には受け入れてはくれなくて、俺はシーツをぎゅうぎゅう握り締めて歯も食いしばって、なんとか耐えた。
あれ、セックスってこんなに痛かったっけ?
あの頃と同じような状態でやってるはずなのに、何が悪いんだろう。
ミネルバに居た頃だって、ゴムもローションも無かった。それでもなんとかやってたはずなのに、今ばっかり、どうしてこんなに痛いの。
「…っ、う、…」
俺が悲鳴じみた声をあげると、アスランさんの動きが止まる。
「痛い、か?」
痛いです。めちゃめちゃ痛いです。
でも抜いて欲しくないから、言えない。…言ったらきっとこの人、辞めると思うから。
「…ぃ、じょ、ぶ、です」
はっ、はっ、と細く早い息をつく。アスランさんが覆い被さって、慰めるみたいに首筋にキスをする。ああ、口まで塞がないで。余計に苦しくなるから。
それでもアスランさんはキスを辞めなくて、俺も辞めてほしくなくて、多分それは身体が繋がってる事だってそう。…だから必死になって、二人でイった。
一度イければ、熱いばっかりの熱は下がってくれたから、息も出来るようになって、力も抜けた。
ふぅ、なんて息継ぎの後、アスランさんがゴポリと抜け出ていく。…うぁ、この精液が出る感じ、久しぶりだ。
「うー…きもちわる…」
「シャワー、浴びていけよ」
「…ああ、そうですね…」
これ、ちゃんと中から掻き出さないと絶対垂れてくる。ああ、久しぶりにセックスなんてするから、腰が痛い。
でも、出し切った感じはする。そういえば最近ひとりで抜いてもいなかったから。
ベッドに寝そべって、枕に顔をうずめながら、はぁ、って息をつく。
「まさか、こんな時にするとは思わなかったー…」
「俺もだ」
「いや、あんたがキスしてくるからだろ」
「お前が目を閉じるから」
「…えっ俺のせい!?」
違うだろ、って突っ込んでやろうとしたけど、泥沼になりそうだからやめた。
…ああもう、ふたりの所為ってことでいいじゃないか。どっちにしろ、ヤって気持ちよくなって、出せたんだから。
恥ずかしくなったから、シャワーを借りようとしたけど、上手く腰が動かなくて、もうちょっとダルダルしていることにする。
「…んー…久しぶりだから、さすがに痛い…」
「大丈夫か」
「多分。…すぐ動けって言われたら無理ですけど」
「ゆっくりしていっていいよ」
言ってくれるけど、ゆっくりもしてられない。なるべく早めにホテルに戻って、さっさと寝ないと明日の仕事に差し支える。…ああ、そういえば明日の夕方なら、なんとか時間取れるから、彼女とアスランさんを会わせてお見合いしてもらわなきゃ…って、…ああ、そうだ!
「お見合い相手なんじゃん!!」
思い出して、ガバッと起き上がろうとして、腰にツキーン。うっ…わ。
また、へにゃへにゃとシーツに戻る。…ああ、くそ…腰周辺全部の筋肉が痛い…。いや、これ腸が痛い?うう。
「お見合い?」
俺の叫びを近くで聞いていたアスランさんが、首をかしげて聞いた。
「お見合いって…まさかお前が?」
ばか。違いますよ。あんたですよ。
ああ、でもそろそろ、この人も知っておいた方がいいのかもしれない。アンタお見合いするんですよ、あの姫君と、って。
でも…いくらなんでもこのベッドの中で、ヤり終わった直後に言うのってどうかなぁ…。
「シン、おい」
なのにアスランさんは俺の肩をゆさゆさ揺する。
「シン、お見合いってなんだよ」
何だも何も。アンタなんですって。
言ってしまおうか。…もう黙ってるの面倒くさい。…いや、だから、この状況で言うのも…。あー…。
アスランさんはそんな俺の考えている事なんて想像もつかないのか、ゆさゆさ揺する。…ってか、ゆさゆさでも無くなってきた。ちょっと、あんた、本気で俺を揺さぶってません!?
「説明しろ、シン」
まるで上官みたいに言う。
「やめてくださいってば…」
アンタ俺の上官じゃないんだぞ。そんなのもう終わったことだし、今、俺、姫君の見合い相手とヤっちゃったことで罪悪感とか色々落ち込んでるのに。
「…あー…もう…明日になったら判りますよ…」
「明日?…明日、見合いするのかお前」
「んー…」
違いますけど。あんたですけど。
てか、だから、なんでそんなに必死になってるんですか、ちょっと!
俺は疲れていて、お尻も腰も痛くて、あーちくしょう、って思った。
「シン、寝るな。説明をしろ」
寝させて欲しいのに、アスランさんは何を真剣になっているのか、お見合いの話をさせようとする。
…ああああ、くそ!
もーどうにでもなれ!!
「あのね、お見合いするのは俺じゃないです!アンタですよ!!」
言ってしまった。だってイラッとしたんだ。
しかも、ギッと睨んで。
けど、アスランさんは、「はあ?」って顔。
「俺は見合いなんてしない」
あーもー。
くそ、こんなセックス後の状態で言うなんて、どうかと思うけど、もう言っちゃったからしょうがない。全部言ってやる。どうせ言わなきゃ、このひとネチネチ聞いてくるぞ。
「…するんですよ、アンタが、明日」
「…俺が?誰と」
「あの姫様と」
「…………は?」
いや、は?じゃなくて。
「あのね、今回のこの訪問はね、特使ってのもありますけど、アンタとあの姫様をくっつけて、和平の足掛りにしようって事でもあるんですよ。でもお互い初対面でしょ?だから俺がね、取り持つことになったんです。アンタと彼女を!」
「…なんだ、それ…」
アスランさんが絶句していた。そりゃあそうか。いきなりお見合いなんていわれてもな。てかなんで伝わってないんだよ。連絡ミスか?…問題すぎる。
でももう、俺が知ったこっちゃない。
「ご愁傷様です!明日は頑張ってお見合いしてくださいね!」
こんな状態で聞かされるのは、アスランさんにとって可哀想だと思うけど。でももう言っちゃったんだからしょうがない。
俺は、言い捨て御免とばかりに、また枕の中に顔をうずめた。…もう俺から話せることはない。
どうせこの後どうなるかなんて判りきってるんだ。
多分、アスランさんは「俺は知らない!聞いてないぞ!?」なんて絶句しながら慌てて、俺はそれを、はいはい、ってなだめて。お見合い頑張ってくださいね、って言って、だからそうだ、ついでにもう一言いってやろ。「もうこうやって誰ともセックスするなよ」って。
それで、多分、今夜は終わりだ。よし来い。アスランザラ。言い返してやる。
…けど。

「…どういう事だ、シン」
低い声だった。
聞いたこともないぐらいの、アスランさんの低い声。
…どういう事って。
思いもがけないことを聞かれて、俺は顔を上げる。そこにあったのは、アスランさんの怒りに満ちた顔だった。
「…なん…?」
「何、じゃない。…どういう事なんだ、シン」
俺は驚いていた。声も出ないぐらいに。…だって、なんでそんなに怒ってるの。アンタ。そんなに怒るものか?だって別に俺が見合いを計画したわけでも無いし、別に悪いことは言ってない。まぁヤり終わった後に言うっていう、デリカシーの無さは謝りますけど。
…でも、そんなアスランさんの怒り声に気圧されるわけにはいかなくて、俺は、口を開いた。
「さっき話したとおりですよ。アンタは見合いするんです」
「お前は知ってたのか」
「…そりゃあ…そのために俺、来たんだし」
「俺に、彼女を紹介するために」
「…まぁ…はい」
ピリピリした声。…こんな状態で、ひとりで寝転がってることも出来ないような気がして、俺は痛い腰を抱えながら身体を持ち上げる。動いた所為で、中からどろっと出てきた。アスランさんの精子。
アスランさんは怒っていた。
…なんで怒ってるの。俺、別に悪いことしてないはずなのに。
こんな怒られ方、ミネルバに居た頃だってあんまり無かったような気がする。だってこんな低い声。
ぐ、とシーツを握り締めた。耐え切れずに。
でもアスランさんに見られたくないから、そっと隠していた。

「見合いをすると。…それが判っていて、今、俺と寝たのか」
「…寝たって…いや、だから俺はそんなつもりはなかったんです。…アスランさんがキスしてくるから」
俺はさっきも返したような問答をした。
確かに、アンタがお見合い相手だって知ってたのに、抱かれちゃいましたけど。…だってキスされた途端、頭がとろけてぐちゃぐちゃになったんだ。何にも考えられなくなっていた。
「…アンタに流されて抱かれちゃったのは、確かに俺が悪いかもしれないですけど。でもアンタだって、こうやって誰とでも寝るからこんなことに…」
「…誰とでも?」
アスランさんの肩がピクリと動いた。
「俺は誰とでも寝るようなやつじゃない!」
怒鳴られた。
けど、俺は何言ってんだ!って思った。だってアンタ、前科あるじゃないですか。あの偽者のラクスクラインしかり、アスハとだって付き合ってたって聞きますし!?
いまさら何を言ってるんだ。
けど、俺が文句を言うより早く、アスランさんが言っちゃいけないことを言った。
「お前だから、俺は!」
「…バカ言ってないでくださいよ」
アスランさんが、さらに言葉を続けようとして、けどそんなの聞いてられないと思って、俺はアスランさんの言葉を塞ぐみたいに言った。
そう、バカなこと、アンタが言いそうだったから。

…ねえ、「お前だから」、って何。
それ以上は聞きたくない。
聞いちゃいけない。
…アンタさ、誰とでも、ってか、いろんな人に手を出してるような人だろ?
俺とやったのは、ミネルバにいたとき、少しでも良くなった俺たちの関係を維持するためのセックスで。
だから、本当は今、寝てしまったのは間違いだったんだ。
「やっぱりアンタに流されるんじゃなかった」
「…シン、」
俺は立ち上がった。足がふらふらするけどしょうがない。もうこのままここに居るわけにはいかない。服を取り上げて、手早く下着をつけた。

「明日、夕刻です。…多分、夕食時にあの姫さまと顔合わせすることになると思います」
「シン、」
「逃げたりキャンセルしたりしないでくださいね。俺の顔、つぶされたらたまらない。この縁談、ザフト…ってか、プラントからの和平交渉みたいなものですから」
「シン、まて、俺は」

アスランさんが、まだ何かを言おうとしていた。
けど、俺は聞きたくなくて、どうしても聞きたくなくて、服を引っつかんで、ろくに着込みもしないで部屋を出た。
すぐさまバイクにまたがって、エンジンをふかす。
早く戻らなきゃ。ここから離れなきゃ。
アクセルを握って、逃げるみたいにアスランさんの家から遠ざかった。だって、もうこれ以上、聞いてちゃいけない。

ブオオオオオ、とエンジン音が甲高い。深夜の街に響いてる。
早く戻ろう。戻って、ああそうだ、バスタブに浸かって、全部全部流してしまおう。
あんなセックスした後すぐに、バイクなんか乗っちゃって、おかげで、もう、俺はめちゃくちゃになってて、股間は気持ち悪いし、頭の中もぐちゃぐちゃだし、心もだ。ひどい。
スピードを出せば出すほど潮風が目に当たって痛くて、ツンツンする。涙が止まらない。
…もう、本当にバカだ、あのひと。
さっさと結婚したらいいんだ。
結婚して、子供作って、…そう、それで平和にしてくださいよ。彼女のことも、アスランさん自身も、この世界のことも。
ねえ、そうなったら、俺のこの、沸きあがってどうしようもない苦い気持ちも救われると思いませんか。