どこに、キスして欲しい? そう聞かれて、「額」だとか「手」だとか、差しさわりの無い場所を答えられなかったのだろうと、シンは襲い来る激しい快感に足掻きながら頭の片隅で思った。 よりにもよって、こんな場所にキスをねだるだなんて。ソコに唇を寄せる事をキスとは普通言わない。これはフェラチオっていうんだ。 …こんな場所を言うつもりは無かったと言いたいのに、与えられた薬は、自白を強制させるものであるから、黙る事も嘘をつく事も出来なかった。 今でもそうだ。「もっと」だとか「銜え込んで」だとか。あまつさえ「気持ちいい」「そこはいやだ」「イく」--そんな言葉を何度も言い続けている。情けなくて涙が出ていたのは最初のうちで、時間た経つにつれ、悲愴感まで感じるようになった。あまりにも赤裸々な自分の止まらない口を、いっそかき切って黙らせてしまいたかった。こんな羞恥、今までだって1度も無い。こんなに恥を感じる事だって生まれてはじめてだ。 「そんなに泣くな」 「……っ、…う、」 ぼろぼろと零れる涙を止めるすべもなく、口を開けばロクでもない言葉ばっかりが口をつく。どうしようもない胸の中の葛藤で、溢れた思いが涙として頬を濡らす。 違う、この涙は感情が極まって出ただけだ。辛いわけでもない。ただもうこの情けなくて恥ずかしくて逃げ出したい感情を、自分の中で消化出来ないだけだ。 「泣いて、なんかッ!」 かすむ視界で、それでも無理矢理アスランを睨みつける。 「そうか。ならもう少しがんばろうな。いけるな?シン」 「…むり、もう…嫌、」 それが本音か、とアスランが笑う。とめどなく口から溢れてしまうのは本心ばかり。 「シン、そんな顔するんじゃない」 シンの顔を見上げ、ぐい、と口端を拭ったアスランの口元には、薄い白色の先走りの精液が唇にこびりついていた。 まだ、1度もイっていない。けれど、イく直前で止められてしまえば、たまらない熱が体内で燃え上がっている。 そんな顔をするなと言われても、無理だ。勝手に身体は反応するし、言いたくない言葉は口からするする出てしまうし。 「もう、いや…だッ…」 「けど、まだ勃ったままだ」 「いい、…もう…」 「本当に?どうして欲しい?」 「………っ……熱いの、無くして欲しいっ…」 もう嫌だと本当に思っているはずなのに。口から出てしまう本音の言葉は、完全な拒絶ではなく、ただ「この濁流のような快感の熱い塊を無くして」、と願うものだった。 咥えこまれるのは嫌だ。けれど、この限界まで高ぶらされたものをなんとかしたい。 「熱いのを無くすには、シン、もう少し我慢しような?」 「…い、やっ、」 「嫌じゃなんとも出来ないぞ?」 口端をあげて困ったような…いや、そう見せかけて随分と楽しそうにアスランは笑う。 確かに、この身体の中をのたうちまわるような熱い快感を外に吐き出したいとは思う。だからアスランに告げた言葉は嘘ではない。けれど、それ以上にこの痴態をいい加減辞めたいのに、本心しか語らなくなった口は、本能の望む言葉を吐き出し続ける。 ベッドに仰向けに寝転んだシンの脚をアスランが持ち上げる。嫌だと抵抗したのに、持ち上げられた膝が腹に付きそうなほど上げられて、股間どころか尻までアスランの目の前に丸出しになる。とんでもなく恥ずかしい。耐え切れず、いやいやと首を振りながら、持ち上げられた脚を閉じようとするけれど、掴み上げるアスランの手は強引で強い。 限界だ。感情のリミットを越えていく。溢れた思いが涙になってぼろぼろとこめかみに流れていく。 「シン?」 「…っ……」 再び泣き始めたシンの瞳を、アスランの指が辿る。 恥ずかしくて仕方ない。けれど熱くて熱くてたまらない。…開放して欲しい。 熱い濁流が身体の中を渦巻いて、アスランが握るシンの勃起した頂点から、泡立った精液が零れ落ちた。 ちょろちょろと精液が流れ出すのは快感を望む証だ。先ほどまでアスランの指と口が、シンの勃起した頂点を刺激し続けていた所為で、快楽は酷くなるばかり。 「…本当に嫌なのか」 シンにも聞こえない程の音量で問えば、シンはぱさぱさと首を振って涙を散らす。その姿が痛々しい。 たしかにシンが自白キャンディを舐めた事は、思いもかけぬ出来事だったが、それを利用しているという負い目も確かに感じている。 「辞めるか?」 今なら、ここで吐き出してやれば終わる。 「……や、めないでッ…、もっとっ、」 けれど、シンは続きを望む。このまま放って置かれるのはゴメンだという事だろう。嗚咽にむせる声は、羞恥に震えてやめて欲しいと望む、理性の下の本能だった。 「…嫌だけど、嫌じゃな、…アンタが、酷い事を聞くからっ、俺はっ…!黙ってヤればいいだろッ…!」 口が勝手に喋った後に、あからさまに後悔をして唇を噛み締めるシン。 「シン…」 普段ならありえないような素直な言葉が、シンの本心だと思うと、嬉しさがこみ上げてくるが、しかし本人が言いたくない言葉まで喋らせているのだという罪悪感も感じてしまうのは確かだ。 それでも彼が今、イきたいと願っているのは確かで、ならばそれを叶えてやりたい。 アスランはさらに大きく足を広げさせると、勃起したシンの幹を数度しごいて完全に勃起させた。 大きく口を開けて全長の半分程を一気に銜え込む。 「は、うっ…!」 途端、シンの背が伸び上がる。ピン、と張り詰めた背中。腹筋に力が込められ、アスランの髪の中に絡ませた指が地肌と髪を引っかいた。 そのままずぶずぶと口を動かし、全長の殆どを口の中に収める。さすがに口いっぱいになるが、舌を動かして刺激を繰り返して勃起を高ぶらせてゆく。全長が脈動しだしたのを見計らって、強く吸い上げた。ずずず、と卑猥な音と共に、シンの身体中に力が篭り、一瞬ふるりと震えた後、下腹がひくひくと振るえだした。 「う、や、…ぁ…!」 アスランの口の中に、生温かい感覚が広がりはじめる。 僅かばかりの精液が、アスランの唾液と絡まる。それも口の中に含んだまま、舌を転がした。まだ嘔吐感はない。 感じ入ってるシンが、僅かに落ち着いたのを見計らって、アスランはここぞとばかりに激しく口を動かした。深くまで咥え込み、舌を差し出して幹をなぞり上げながら、唇を窄め、上へと辿る。段差のついたカリ部分に歯をわずかに立てながら、口を離す。先端の尿道をちぅ、と吸うと、先ほど出したばかりの先走りの精液がアスランの口の中にとろりと流れ込んできた。 完全に口を離す事はせず、先端を舌でつついて刺激すると、また奥まで銜え込む。 根本を刺激しつづける右手と、その下についたものを揉みしだく左手。 「ひ、う、ひゃ、あ…あ!」 シンの声はどこまでも高い。 扱くスピードを変え、慣れてきたところで、筋が浮かび上がっている箇所にも、痛くならないよう注意を払いながら、歯を立てる。 こんなにも激しく責めたてられている。 まるで動物のように、勃起したら抜かせ続けている痴態。 嫌なのに。こんなのは嫌で仕方ないのに、アスランの唇が離れた途端、強い快感を望む身体が、続きを訴える。 「も、っと、…!銜えてッ…」 「シン」 アスランの指が、幹を上下にしごく。 「シン…ほら、泣くんじゃない」 自分の口から勝手に流れ出る言葉にまた涙するシンに、困ったように笑う。 「…楽になればいい。出来るな?」 アスランの声はどこまでも優しい。 シンが望む全てをかなえようと、また唇でくわえ込む。途端、シンの身体がびくりと白魚のように跳ねた。 「ぁ…あ、!あ…!」 ぬぷぬぷとゆっくりと咥え込まれ、根本を指できつく扱かれる。 アスランの歯がカリ部分に辺り、くびれを甘噛みしながらも、先端の小さな鈴口に唾液に濡れた舌を割り込ませようと蠢いた。 「いっ、い、あ、…あ-あ、…ああッ、あ--ァ-------!!」 もう力なぞはいらないと思っていた足が、がくがくと震え、内股でアスランの頭を掴みあげた。 内股にあたるアスランの髪と、局部に与えられる痛みのような強い快感に耐え切れず、シンは押しとどめていた快楽を開放した。 断末魔のような長い悲鳴の後に、下腹部が痙攣し、舌を宛てられた鈴口から、とろりと精液があふれ出した。アスランの口の中にびしゃぴしゃと精液が飛び散る。ねっとりしたものだ。 「…っ、は、…ぁ…」 ドクドクと音がしそうな程のシンの中心が徐々に柔らかくなってゆく。 精液を飲み込まず口の中にとどめる。青臭い匂いが口の中に広がって吐きそうにもなるが、シンをイかせるのも慣れている。何度もした行為だ。 口に咥えたまま、シンの様子を上目遣いでちらりと見ていたアスランは、落ち着いて力を抜いた頃合を見計らって、イった直後の萎えたシンのモノに精液を塗りつけるように、口を動かした。 「うっ、つ…!なに、やってッ…!」 アスランの口の中いっぱいにある、シンの精液。 それがアスランの唾液とも絡まっている。 シンが抵抗をはじめ、ようやく口を離したアスランは、シンの上に乗り上がって、まだ口に含んだままの精液を、形の良い臍の上につつつ、と落とした。 「う、っあ…」 シンのくぼんだ臍に溜まる生暖かな精液。 唾液と精液の混じったそれが、せわしない呼吸のために上下に動く腹の上でぬらぬらと光っていた。 何も考える事が出来ない、細胞が死んだ頭。今何かを聞かれても、何もしゃべる事など出来ない。呼吸をするので精一杯だ。 臍の上に水溜りのように溜まった精液と唾液が、動くシンの腹の上から少量がゆっくりと腹を伝い、零れ落ちた。 「…なまめかしいな」 「な、…んっ……」 臍のくぼみに垂らされた精液が、シンの荒い呼吸によって動く。ぬらぬらと光り、時折零れて腹を伝うのを、アスランは見つめていた。 やがて、親指を臍の精液溜りに埋め、白獨を指に絡ませて、腹の上を滑るように、腹や胸に擦り付ける。 「あ、…い、やっ…!」 「本当にか?」 「……い、やだっ…、きもちわる、い…!」 ねちょねちょと自分の皮膚に絡みつく精液が不快だったらしく、シンが身体をよじる。 臍から精液がだらだらと零れてシーツを濡らした。 「な…もう…」 一度吐き出した所為か、シンの言葉が大人しくなり、助けを求めるようにアスランに目線を合せる。 「…もう、なんだ? もう挿れて? もう辞めて?」 アスランが聞けば、シンはぐっと口を結んだ後、わなわなと希望を口にした。 「もう、焦らすなぁ…!」 その表情と言葉と、伸び上がった語尾が、アスランの官能を直撃した。…素直になったシンがなんて意地らしく可愛いものかと。 「あぁ、もう焦らすのは辞めような。挿れて欲しいんだよな」 「…っ……も、…嫌…っこんなの…」 顔を出来る限りアスランから背け、シーツを手繰り寄せて眼を閉じる。その様が尚もシンらしく、いじらしい。 自分の口から出てしまう言葉に嫌だ嫌だと言いながらも身体は純粋にアスランを求めていた。 「シン、ほら顔向けろ」 顔を背けさせるのがもったいない。今どれだけ可愛い顔をしているのだろう。 なるべく優しく呼びかけながらシンがアスランを向くように呼びかける。 優しい声を出し、頬をなでる。汗に濡れた前髪を梳き、額にはりついた髪をはらう。 「シン、顔を見せてくれないか」 強情に顔を背け続けるシンは、その言葉にぴくりと反応し、ゆっくりと顔を向けた。頬をなでていたアスランの指が、シンの唇にかかる。 「…っ、精液くさい、っ」 「指が?けどこれはお前のだろ?」 頬に滑らせた指で、唇をなぞる。まるで親指に残っている精液を唇に塗りつけようとする仕草が嫌で、シンはいやいやと首を振った。 「…っ、あ。や、だっ!」 首を振って逃れようとする動作に、アスランが小さく微笑む。 「そうだな、焦らされるのは嫌だったな。じゃあ早く慣らしてやりたいから、この指を舐めてくれ。…ほぐしてやるから」 「……っ!」 冗談じゃないと、シンが文句を言おうと口を開いたその瞬間、アスランの親指がシンの唇に入り込む。 歯で噛まれる事も覚悟していたが、シンは一瞬顔を顰め、舌で押し返そうとしたものの、適わないと判ったのか、アスランの指をぺろぺろと舐め始めた。まるで精液を舐め取るように、親指を丹念に。 「…んっ…っ…」 ちゅくちゅくと音を立てて吸い上げ、親指を濡らしてゆく。唾液が絡まって、ぬらぬらと指が光りだしたのを見計らって、さらに口の中に指を増やしていく。生暖かいシンの咥内が心地良い。 指でシンの歯をなぞったり、舌を挟んでみたりと咥内の遊戯にシンの意識が集中している間に、空いている手を、下肢へと回した。 「…ん、…んっ!!?…ん、んー!!」 アスランの乾いた指が、中へとずぶりと入った途端、咥内に入れていた指が、シンの舌をひっぱり、歯列を押さえる。 口の中に意識を取られている内に、下の孔の中に埋めた指を、強引にずぶずぶと埋める。 1本の殆どを飲み込んだのを確認した後、2本目、3本目も続けざまに挿入させた。 「ひゃ、あ…あ、…!ああ!っ…!」 咥内と、下の穴とを、アスランの指で同時に塞がれて、シンの背中が撓る。 何度やっても慣れない、この指の行為。 背筋をぞくぞくと駆け上がるこの感覚が、快感なのか悪寒なのか、シンにはまだ判らないでいた。気分的には嫌で嫌でしょうがないのだから、悪寒なのだろうが、しかしそんなシンの気持ちに反して中心は勃起してしまう。 眉をひそめながらも、顕著に身体が反応するシンに、アスランの小さな笑い声が聞こえてきた。 「気持ちいいのか?」 問われて首を振る。 「本当に?」 「……気持ち悪い…、っけど、…いい…ッ…」 「どっちなんだ」 聞くアスランの声も笑っている。 薬の所為で、本当の事しか答えられなくなったシンでも、答えに困る。気持ち悪いのに、勃起するのだ。どう答えていいのか。口が望むままに答えるしかない。 指を受け入れている孔が、アスランの指を締め付ける。前立腺を掠めると、それだけで吐精してしまいそうになった。これは気持ちいいというのか。 「もう…いや、…わけ、わかんなっ……」 素直に答えようとするシンが、途切れ途切れの息で答えた。 堪えていた涙が、またぼろぼろと頬を伝う。 その涙をアスランの舌が舐め取る。 「だからお前は、考えている事とやっている事がちくはぐだから、そうして辛い思いをするんだ」 「だっ…てッ…」 「じゃあ、答えてみろシン。お前の望む事を。その通りにしてやるから」 間近に迫ったアスランの真摯な顔で言われる。 至近距離で見つめてしまったシンは、卑怯だ、と思った。 孔の奥を指でぐちゃぐちゃとかき回されて、逃げ道も閉ざされ散々高ぶらされた後で、こんな風に。望む事など1つしか無いと判っていて言う。 「あんた、卑怯だよ…俺の薬、もう切れてるって判ってて、そんな事言う…」 諦めをこめた声で、シンはアスランを睨みつけた。 「気づいていたのか」 「当たり前でしょ…でも、俺が素直に言わなきゃ、あんた許さないんだ…」 「判ってるじゃないか」 本当は、薬んてなくても、シンの考えている事も望んでいる事も、このアスランザラには手に取るように判っているのだろう。それを知った上で、お前の口から聞きたいといわれるなんて、卑怯以外の何者でもない。 「俺は…こんなにアンタの事、わかんないのに…!」 指だけ挿入されて、ぐちゃぐちゃにかき回されて。そんなギリギリまで追い詰めておきながら、酷い事を聞く。 アスランは卑怯だ。 アスランは策士だ。 何が天然だ、ヘタレだ。誰がそんな事言ったんだ。この人が不器用だなんて信じない。 こんなにも人を追い詰めるのが趣味で、手の内で遊ばせておくようなヤツだ。 シンの考えている事を全て見透かして置きながら、どうなんだと聞いてくる。 こうして組み敷かれて身体を近づけていても、アスランの考える事などシンには判りはしない。 たとえ、身体を受け入れている最中だったとしても、その心が何処にあるのか、シンが完全に判る事は無かった。 ただ、イくその直前、我を忘れたようにシンの名をうわごとのように呼び、熱い濁流を流し込まれる時。…その瞬間だけがアスランザラが全て自分のものになったかもしれないと、浸る事が出来るのだ。それもほんの一瞬。…それでもシンはその一瞬が恋しかった。たった一瞬でもアスランを知る事が出来るのなら、それでもいいと。だからセックスしている。 「シン…」 「もう…さっさとシろよ!…俺が望んでいるのなんて、1つしかないっ…!」 小刻みに震える足で、アスランの背を蹴る。大して痛くもないキックで、これ以上の詰問は辞めてくれと訴えた。 「シン…」 ベッドの上に、2人で。 シンの呼吸音だけが、部屋に静かに聞こえる。何も喋らないアスランに、シンはつぶれそうになる心臓を必死で宥めていた。 …アスランが何を考えているのかなんて判らない。何を望んでいるのかも判らない。 …本当は、本当は、このアスランザラが、誰の事を好きなのか。…それさえ判らなくなってくる。 どうしてあのキャンディを舐めたのが自分だったのだろうと、シンは思う。 もしもアスランが舐めたとしたのならば、聞きたい事がたくさんあった。こんな感情がすぐに顔に出てしまう自分よりも、何を考えて何をしたいのか口にしないアスランの方が、ずっと有効なキャンディだ。 (けど…そのキャンディ使って本当の事、言われたら…俺、凄く嫌だ…) もしもアスランが、違う名前の人間を好きだと言ったら。本当はシンの事をただのやっかいものだとしか思って居なかったら。 こうして抱いてくれるけれど、恋人のように接してくれるけれど。けど、本当はそんなの上っ面のもので、他に良い人がいたとしたなら。…いつか無くなってしまう関係を、この馬ではっきりと言われたのならば。 そうしたら、自分が壊れてしまう。きっと壊れる。 アスランしか居ない。もう守るべきものも家族もない。だから、今はアスランしかシンに人肌のぬくもりを、優しさを分け与えられる人は居ないのに。 …たとえ、いつか離れてしまうとしても、今、彼の本当の心を知りたくはない、と。 (嘘でもいいから。…いいから、まだ俺を…) その先を望みたい。けれど言えない。 そんな事は、きっと叶わない事と判っている。 シンは眼を閉じた。 ようやく身体の奥から指を引き抜いたアスランが、シンの上に乗りあがり、あぁようやくだとシンは呼吸を整えて待ち構える。 それでも挿入されるその瞬間は、怖くてたまらなくて、力をこめてしまう。 「シンほら、呼吸を」 呼吸しているつもりだ。 けれど、実際にはまるで溺れている人間のように喘いでいるだけ。 アスランがようやく先端を、みしみしと軋む身体に埋め込む。シンがシーツを握る手は真っ白だった。…いつもそうだ。いつもこんな風に真っ白になって目を瞑って涙を堪えてアスランを受け入れる。その姿が酷く愛しく、けれど自分が残酷な事をしているんだと罪悪感でいっぱいにもなる。 (…それでもシンを抱きたいんだな…俺は…) 辛い事はさせたくはないのに。 もっと安らぎだけを与えてやりたいのに。考えている事とは裏腹に身体は貪欲に求める。 「もう、…全部っ…?」 「もう少し」 震えだしたシンの身体を慰めるように撫でてやる。けれど、挿入は辞めない。ずぶりと力を込めて最奥までもぐりこませた。 「…っ、…」 シンの中は灼熱のようだ。熱くて狭くて痛いほど。 浅く息をつくシンは、受け入れる事に相当なダメージがあるらしく、身体を震わせて嗚咽に咽ぶ。 申し訳ないとも思うが、しかしある程度慣れさえすれば、シンとて痛いだけではないらしい。中心が高ぶってくるのがその証拠だ。 挿入だけでいつかはイかせてやりたいと思うが、それは当分先の事のように思えた。 震えるシンの背中を指で、つい、となぞる。 ひくりと反応が返されて素直だなと思った。 「俺が考えている事なんて、お前には判らないだろうな…」 シンの耳元でつぶやく。 声は聞こえているだろうか。 ゆっくりとゆっくりと、中をかき回すように動かせば、シンの喉から「ひっ」と、悲鳴が洩れた。 そのたびに、背中をよしよしと撫でてあやす。 キャンディの効果が切れていると知ってしまったシンは、もう何も喋らなくなってしまった。 いつ切れたのか、アスランも正確にはわからないが、セックスの途中で切れたのは確かだ。アスランの問いに素直に答えるものの、僅かに躊躇してから喋るようになっていた。切れていると判ってからは、苛めるような事ばかり言った。…シンは怒っているだろう。 (ごめんな) 謝罪の言葉は、シンの黒髪へのキスに替えた。 「う、…あ、…だめ、む…」 「大丈夫だ」 「だいじょぶ、じゃな…うあっ」 大きく揺さぶれば、埋め込まれる熱と大きさに恐れて悲鳴を上げる。しがみつくシンの身体。 「シン、…ほら、…な?」 衝撃を与えないようにゆっくりとゆっくりと動かす。 シンの強張りが直ぐに解けるわけではないが、激しく動かされるよりもいいだろう。 抱くと、手に取るように判る。 何に怯え、何に不安を感じ、何を望んでいるのか。 キャンディなどなくても判る。ただシンが殻を被ってしまえば判らないのだ。セックスなら裸になれる。体に聞けば何処がいいのかも判る。…こんなに手に取るように判るのに。 シンはアスランの事が判らないといった。 何を考えているのか判らないと。 だから不安に怯える。恐怖する。アスランが伸ばしてくれる手がいつ無くなるのかと。それゆえに意固地な態度が治らない。 そんなもの。…シンは知らないだけだ。 アスランの本当の思いを。 「お前は知らないだろうな。…どれだけ俺がお前の事を好きかってことを」 揺さ振られ喘ぐシンに、アスランの言葉が降り注ぐ。 「っ、あ…な、にっ…?」 何を言ったんだと、焦点の収まらない目でアスランを仰ぎ見る。けれど、それ以上の追求をさせないかのようにアスランはシンの身体を揺さ振った。 「ひっ、っあ!」 爪をガリと立てて、シンの背中が仰け反る。 口が開きっ放しになっていて、声は、もう止まる事がない。 もうすぐ。 もうすぐ、シンが落ちる。 いくらシンが素直に答えるのを嫌がっていたとしても、薬でしか言わないといっても。 アスランは、シンが素直になる瞬間を知っている。身体だけではなく、言葉で態度で。全てが素直になる瞬間がある。 当の本人は、きっと覚えていないだろうし、そんな事を気にしている場合では無いだろうが。 シンの目の焦点が合わなくなり、しがみつく手から力が抜けた先。シンの意識の下の本音の世界。 アスランに抱かれ、最奥を抉られながら、シンが口走る言葉は、アスランしか知らない事。
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