情けない話だけど、そういう事をするためのホテル来たのは初めてで。 「全面鏡張りかと思ってたのに」 「……何世代前の話だ?」 アスランさんが苦笑して、バスルームのドアを開けた。 …て、なんで苦笑されるかな。なんか、アスランさんの方がずっとこなれてるみたいで、ムカッ、とする。 …いや、駄目だ。ムカついてる場合じゃない。こんなトコでまた喧嘩なんてゴメンだし。セックス出来なくてもいやだし。だって俺だってもうその気になってる。…アスランさんは余裕みたいだけどさ。…あぁやっぱり悔しい…。 「あ、風呂もフツーなんですね」 「…だからどういうのを想像してたんだ…?」 コペルニクスは本当に娯楽施設が多い。 なんていうのか、人間の欲求全部満たしてるんじゃないかと思うぐらい。 コペルニクス細大のショッピングモールを抜けて、少し歩いたところ。まぁ俗にいうラブホテル街っていうのがある。 最近はファッションホテルとかって言うんだな。そんなのどうでもいいよ、どうせだってセックスするためのホテルだろ? 正直、ものめずらしいって気持ち。こういうところに入ったのは初めてだ。俺がホテルを選んだわけじゃない。ただ、アスランさんの後をついていっただけなんだけど。 どうしてホテルに入る事になったのか、…は、まぁ…また機会があったら言うけど。ただ1つ確実なのは、アスランさんが調子に乗ると、どこまでもイっちゃう思考回路になるって事だ。俺はまんまと罠にハマった。多分、そう。 高い塀に囲まれた、城のような外観。ルームを指定して、人とすれ違う事もない狭い廊下を歩いて、部屋を開ける。 アジアンチックに纏められた室内は、天蓋がついているものの、それでもフツーにそこらへんのリゾート施設にありそうなベッドルームと、フツーにしてはちょい広めかってぐらいのバスルームがあって、テレビあって冷蔵庫あってアメニティは異様に充実してて。 あの、ディオキアで議長に泊まらせてもらった超高級ホテル。あれに似てる。格は全然違うけど、あのホテルの部屋をコンパクトに纏めて、調度品とかを高級家具じゃなくて、量産家具でそれっぽく纏めたらこんな感じになるんじゃないか? ラブホテルなんて、俺入った事無いし。…だってそりゃそうだろ?無いだろ、普通。 軍学校在学する前は、まだオーブのジュニアハイスクール行ってたし、軍学校入ったら入ったで、絶対パイロットになってやるとか赤服とってやるとかそんなのばっかりでこーゆーところは、ヴィーノ達が見せてくれたエロ雑誌でなんとなく見たことあるぐらい。…実際にホテルに入るチャンスも、そういう女の人の出会いも無かった。なのに、今俺はここにいて、しかも相手はあのアスランザラで。…てか、男で。…またありえないような事になってるよなぁなんて、今更ながら思う。 それにしてもデカイベッド。すげぇ間接照明。オレンジ色と青色の照明なんてすげぇな。 ラブホテルっていうから、もっと円形のベッドとか、変なものが置いてあるバスルームとか鏡張りとか色々想像してたんだけど、どうにもフツーのホテルに近くて気が抜けた。周りを見渡しても、いかがわしいものはなく、あ、テーブルの上においてあるパンフレットはTOYって書いてあるから、多分大人のおもちゃってやつか?ここで買えるって事なのか。へぇー。 すっかり気が抜けていた俺に、背後からアスランさんの腕が首筋に絡みついてきた。その動作があまりにも自然な感じだったら、俺は普通に抱きしめられた。 アスランさんの青い髪が俺の首筋にさらさら当たる。 「くすぐったいです」 言うと、アスランさんが小さく笑ったのが聞こえる。 俺の首筋をまるでマフラーみたいに包むアスランさんの腕。後頭部にアスランさんの唇と顎が触れ、髪と髪が絡み合った。つまりは密着してる。…いつもなら、ちょっと恥ずかしいというか、これからの行為にどきどきするんだけど、なんでだろ。妙に落ち着いてる。俺。 なんでだろうな。 不思議に思って、キスの合間にアスランさんに聞いた。そしたら頬に、ちぅっ、て吸うようなキスしながら、即答。 「…いつも俺の部屋だからだろ。いつスクランブル掛けられるか判らないしな。緊張してたんだよ、お前は」 あ、なるほど。 その答えに納得して、じゃあ本当はセックスってこんなに穏やかになれるもんだったんだって思いながら、瞳を閉じた。 「まぁ…慣れってのもあると思うけどな」 「……慣れ?」 あぁ、アスランさんとこういう事、何度もしてるから? ミネルバではさ、アンタの部屋でしかスるトコ無いし。人に見つかったら嫌だから、いつも急いで俺は部屋に戻る。アスランさんの部屋で一晩過ごしたのなんて数えるぐらいしかない。けど今日はまだゆっくり出来るもんな。明日の朝までにミネルバに戻ればいい。まだ、この人と一緒に居られる。…居られますよね? 首筋に落とされたキスが心地よくて目を閉じて受け止め、俺はアスランさんの服をまさぐった。脱がしたくて、ベルトに手をかけたつもりなのに、いつもの要領で外れないから、あれっ?って何度も繰り返す。 「軍服じゃないぞ、シン」 言われて、そうじゃん、って。……俺そんなに軍人生活に慣れてたんですかね…。 軍服のベルトよりも細いベルトをカチャカチャ言わせて外し、上着を引き上げて、でも密着してる所為で脱がせられなくて。それが判ったアスランさんが俺をベッドに押し倒す。ぼふっ、てすげぇ柔らかい感触。うわ、すげ。 口づけが離れたから、その口で色々文句とか言いたかったのに、アスランさんがあまりに幸せそうな顔で俺を見下ろしているから、なんか何も言えなくなった。だってさ。…なんだよ、その顔。その表情。 「…アスランさんてセックス好きですよね」 「なんだいきなり。…そうか?」 「そうですよ。すげー鼻の下伸びた顔してるし」 「え?」 驚いたのか、一瞬で赤くなったアスランさんがほっぺたを触る。けれど、すぐに「まぁ…好きといえば好きかもしれないが」と、肯定し、 「お前を抱けるからだよ」 と、クサイ台詞を言って、また幸せそうに笑った。 聞いてる俺はこそばゆくって、思わず顔を背けて、柔らかいシーツの中に顔を埋めた。 シーツが慣れない匂いで、俺はなんだかいたたまれない気持ちになった。
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