「アスランだ、シン」
と、シンに言ってみた。

シンは、「たいちょう…?」と目を丸くして言い、少し困っているようにも見えた。
いつも名前で呼んではくれない彼に、突然そんな事を言って果たして聞いてくれるものなのかと思ってもみたが、彼に名を呼ばれる事に興味がある。
いつも「アンタ」とか、「隊長」だとか。他の誰でも呼ばれるような呼び方で言われるのは嫌だったし、普段名を呼ばない所為で、セックス中さえも口を閉ざしてしまうのがもったいないと思ったからだ。
唇をかみ締めて、何かを言おうとしている彼が、また唇を噛んで口を塞ぐ。そんな姿を見るのも扇情的で良いものだったが、しかしそろそろ名を呼ばれてもいいだろう。他人では関係なのだから。

シンが名を呼ぶその瞬間を楽しみにしていた。
少し、緊張するかもしれない。
中々、名を呼べないかもしれない。
俯いて、顔を染めながら言うのだろうか。それともふっきれたように目を見つめて言ってくれるのだろうか。


「アスランだ、シン」

そう言った直後、彼は、一度は「隊長…」と呼んだものの、俺が緊張をほぐせるように、にこりと微笑むと、まだ幼いその口を開き、特に表情を変えるでもなく、緊張するでもなく、そしてまるで今までもそう呼んでいたかのようにごく平然に、
「アスラン、でいいんですか?敬語もついでに取りたいんですけどね。かったるくてしょうがない」
と告げた。

………期待していたようなシチュエーションは何1つ起きなかった。