シンのことが大事で、穢したくなくて、…っていうアスランの気持ちは、もう嫌ってぐらい伝わってくる。
アスランがどれだけシンを気にかけているのか。いつだって目で追っているし、彼の事を考えてる。…アスランと話しているとね、自然とシンの話題になるんだ。優しそうな目でシンの事を話すアスラン。それはまるで初恋みたいで、子供のようなピュアな感情だと思った。それでももう彼らは18だとか17だとかの歳だから、恋愛の行く先である行為だってもちろん見据えているわけで。「したい」って気持ちだってあるし、お互いそれを望んでいるんだろうっていうのも判る。
でも、なんだかんだと理由をつけて、シンとの行為は躊躇ってしまうくせに、
「僕とはこういう事をするんだよねぇ…君は」
「なんだ?」
「なんでもないよ。ちょっと現状確認してただけ」

シーツが直に肌に当たる感触は気持ちいいものだ。何にも身につけていないから、なんだか自然体でいられる。
気だるい身体をうつぶせにして、顎を枕に乗せて余韻に浸る、この瞬間は凄く好き。シーツから足を出してぱたぱたさせるのは癖だ。その度にアスランの手が僕の足を止める。貧乏ゆすりみたいだから止めろって。だから足の動きを封じられた僕は、同じベッドの中に居るアスランに身を寄せて、ごろごろしながら時間を埋める。アスランのにおいは慣れてるから、余計に落ち着くし眠くもなってくるし。僕はそれでいいんだけど。
アスランの顔は晴れない。…彼の問題は何1つ解決してないから。
ちらりとアスランを見上げれば、彼は上半身を起こして何かを考えているのか僕の方も見ずに思案中。…何を考えているのか、想像つくけどね。
(…そんな思いつめる事じゃないのに…)
心の中で呟いて、僕はまた枕に顔全体を埋める。アスランの枕。アスランの部屋。アスランのにおい。…僕達みたいに、こういう感覚でセックスをするってシンには判るかな。愛情だけじゃない。寂しいからっていうわけでもない。ドライでもない。快楽だけを追うわけでもない。…そんなセックス。シンはいつ判るんだろう。
だからこそ思う。
シンとのセックスに踏み込めないアスランは意気地なしと言っていい。相手の気持ちも判っていて、自分の気持ちも理解していて。その上で躊躇うっていうのは、ようするに1歩踏み出せないってただそれだけの勇気の問題だ。
だから、さっきみたいに、シンが初めてのセックスという行為に怯えてぐるぐるしてしまうのは、シンのせいじゃない。仕方ない事だと思う。90%はアスランが悪い。
だから、
「アスランが踏み込んじゃえばいいのに」
「…何……、----怯えているのにか?」
突然の僕の一言にアスランが不思議そうな顔をしたのはつかの間で、すぐにシンの事だと判ると、今度は困ったような顔して言う。
怯えているのに、ね。…それはしょうがないと思うんだけどなぁ…。

「初めてなんてみんなそうでしょ?」
「…お前の”初めて”は違ってたじゃないか」
「僕は、だって。君との前に経験済みだったから。男性とも女性とも。君だってそうでしょ」
「……俺は男としたのはお前が初めてだぞ」
「まぁ…ね」
言い合いは不毛だ。そんなの言ってたって何の解決にもならない。
アスランが何故こんなにもシンに手を伸ばすのを躊躇うかなんて判りきってる。それは僕とのセックスとは違い、シンとは「恋愛感情」でもって行為に至ろうとしているからだ。…多分。
そんな事をアスランに言うと、また彼は表情を曇らせた。

「……お前は、俺に恋愛感情は持ってなかったのか」
「君は持ってたの?」
アスランは、ひくっと眉を動かした。肯定なのか否定なのか良くわからない。…まぁ、そうだろうね。僕も君とは何故セックスしたのか。恋愛感情があったのかと言われると困る。
「どちらかといえば、アスランとは友情が行き過ぎちゃって、ってところかな」
「なんだそれは」
「だって。子供の頃に別れてから、アスランに会いたくて会いたくて、でも会えなくて。で、会えたと思ったら敵同士で。殺したくないのにってずっと考えてて。あんな戦争して、気持ちもぐちゃぐちゃになって、君との友情も変に捻じ曲がっちゃって。だからその反動?友情が行き過ぎたっていうのかな」
「よく判らないな」
「つまりは、溢れた想いが心だけじゃ収まらなくて、身体に繋がっちゃった、って感じ?」
「……まぁ…気持ち的にはそんな感じかな、俺も」
「でしょ。だからね、僕とする時の気持ちと、シンを抱くときの気持ちと一緒にしない方がいいよ」

僕が言い切ると、アスランはじっと僕の顔を見た後に、ため息を1つ。藍色の前髪をかきあげて、また思案してしまう顔は、ホントに彼の良く見る表情だ。すぐに悩む。理性的に考えようとしてしまう。アスランのいいところであり、悪いところだ。

「…シンはなんて?」
「え?」
枕の角を押し出したりひっこめたりして遊んでいた僕は、アスランの言葉を音としてしか聞いていなかった。
「だから。さっきお前の部屋に居たんだろ?一緒に。…シンはなんていっていた?」
「なんだ、知ってたの」
僕はどう答えようか迷った。でもとりあえず。
「…シンの気持ちだけ知ろうなんて、ちょっとアスランずるいかな」
「ずるい?」
「うん。ずるいよ」
「…お前は俺の気持ちもシンの気持ちも判っているじゃないか。そういう意味ならお前が一番卑怯だろ」
「卑怯じゃないよ、僕は第三者だもの。君達をどうしようってわけじゃない」
「キラ、」
「アスランこそね、もっとシンを見てあげて?」
「見てるさ」
「見て、もっと。----シン、今頃僕の部屋で震えてる」
僕の言葉に、アスランは怒りかけていた口を閉ざした。
「…シンが、何だって?」
「悩んでるんだよ。彼なりに。可愛いねシンは」
「……あのなぁ、!」
「アスランを好きになっちゃった所為で、あんなに悩んで。しかも悩んだって解決しないのにね。アスランが踏み込まない限りは」
「キラ!」

アスランの口調が怒りモードになってしまったから、僕はこれ以上叱られるのを免れる為に、ベッドから抜け出した。士官用の部屋にはシャワーがついている。アスランは中に出すのが好きだから、僕はそろそろ始末しないと明日立てなくなってしまう。…何で中に出すのかな。気持ちいいからなのか征服欲なのか。僕もシンも男で本当に良かったと思う。
「…キラ!」
咎めるような言葉を振り切って、僕はシャワールームに入った。鍵をかけてしまえば、もう彼がここに入ってくる事はない。これで少し時間をおけば、アスランはアスランなりにシンの事を考えるんだろう。
勢いよくシャワーを浴びながら、僕はアスランとシンのこれからの事をほんの少しだけ考え、想像し、たどり着いた彼らの未来予想図に、笑った。

楽しい事になりそうだと思ったんだ。本当に、彼らが幸せになれるのならばね。