広くは無い、戦艦の士官室。
暗闇の中で、うっすらと浮かび上がるベッドサイド。読書用の小さなランプ1つが、この部屋にともされた唯一の光源だった。


「うえっ……」
シンの喉元から出る嗚咽。
胡坐をかいてベッドに座るキラの腹に顔を埋めるようにして熱い吐息を漏らすシン。
シンの声が漏れる度に、キラの腹には熱い息がかかるから目を細めて笑った。
「もうシン、くすぐったいよ」
「…ぇ、あ…」
意識も朦朧としているのか、嗚咽のような返事を返すシンにまた笑って、耳たぶを指先で辿った。
かわいい。
この子は本当にかわいい。
「もう。こんなにかわいいと、ひとりじめしたくなるね」
顔を引き寄せてキス。シンの熱い唇を塞ぐように。
散々身体中を触りあった後では、たいした刺激ではないが、シンの泣き声と共に感じる身体の熱は、キラの官能も直撃していた。
「うっ…」
かわいい。もっといじめたくなってしまう。
「こらキラ。それ以上シンを煽るんじゃない」
「…何言ってんの。アスランが長く入れてるからいけないんじゃない」
「お前ほどじゃないだろ…」
背後から挿入され、奥まで突いている。シンの中はとろけるように熱いが、そう簡単にいけるわけでもない。
「…シン、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。シン、こういうの好きだもの」
ふたりに同時に犯されながらも、シンはまだ馴染み切れずに抵抗も見せているから、余計に煽られているような気がする。

「…ん、ん、…ぁ!」
アスランが腰を浮かせながら、シンの中にうまっていたソレを、ずるりと引く。
楽にしたのは一瞬で、すぐに奥深くをえぐるように強い力で突き入れられる。
「あ、あ、ああああ!」
「アスラン」
「平気だといったのはお前だろ、キラ」
シンの瞳から溢れ出した生理的な涙は、ぽたぽたと頬と顎を伝い、軍服を纏ったキラの足の内股へと沁みこんでゆく。
四つんばいになったシンの背後では、逃げ腰になるシンの腰を掴みあげて固定し、アスランが腰を突き進めていた。その度に、シンから嗚咽が漏れている。
もうどれだけ、こんな時間を過ごしているのか。
「…シン」
キラが名を呼び、髪を梳いても、シンの瞳は涙を零しつつもきつく閉じられたままで、開く事は無い。時折髪を乱して、首を横に振るが、その行為で何が変わるわけでもなかった。
「なんで泣いてるの、シン。泣くことなんてないでしょう?」
シンの目の前に座り込んでいるキラは、涙に濡れた頬を取り、顔を上げさせて額にキスを落とした。額から頬へと唇を動かして、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら涙の跡を拭い取ってゆく。
アスランの強い動きとは対照的な、優しさで。

「…苦しい?シン」
「……ぇ…あ…」
引き絞られたような喉の音。声にならない音は悲鳴に似ている。
キラが何を聞いても、シンは目を開けなかった。
(…目を開けて)
キラは、待つ。あの、宝石のような赤色の瞳を。涙に濡れたその様を。…見たい。

「シン…」
頬を撫でた手を、耳の裏へと回す。うなじに触れて、髪の中に手を差し入れた。
キスは額に。頬に。…そして目に。
それでも、震えるばかりのシンは、瞳を閉じたままだ。
「ね、シン」
まぶたの上を執拗に舐める。まるで子猫を舐める親猫のように。

「---キラ」
肉と肉のぶつかり合う音の上から、アスランが咎めるように言うものの、その声さえも、律動に合わせた吐息まじりの熱い声だ。
戯れはやめろ、とアスランの声が語る。
「…でも、シンは苦しそうだよ」
「だいじょうぶだ」
「僕だけでも優しくしてあげなきゃ」
「別に、2人分挿れてるわけでもないだろう、」
言った言葉に、そうだけど、とキラは小さく答え、再度シンの顔を持ち上げて鼻と上唇にキスを落とした。
「けど、つらいよね」
まだ、セックスという行為に慣れきっていないシンの身体は、1人の男の質量を受け入れる事さえも困難で、アスランが挿入するときは、いつも涙を零して許しを乞う。

セックスというものを、嫌っているわけじゃないことは知っている。
シンとて、こうして身体をあわせることは好きなはずだ。
散々、物欲しげな目で見てきていた。だから抱いているのに、どうして涙を零すのだろう。
割り切れていないのか、それとも想像以上の痛みがあるからか。
痛くしているつもりはないのに。
これを受け入れたとて、シンの穴は切れてもいない。
試しに入口を、指で触れてみた。
キチギチと絡んでいるが、出血もしていない。
大丈夫だろう。…ならば。
グラインドするように腰を突きいれれば、シンの身体が激しく跳ねた。背中がくねる。
「…っ…や…ぁっ…!」
「アスラン、」
キラの咎めるような声。
「シンは気持ちいいだけだ」
「…そんなの、」
こんなに震えているのに?そう声で問いかけてみれば、アスランは、ふ、と笑った。
「セックス自体が嫌いなんじゃない。痛くもない。…こいつは、ただ出される感触が嫌いなんだ」
「…出される感触?」
キラの問いに、アスランが身を動かして答えた。シンの奥深くまで突き刺していた肉棒を、ずるずるとゆっくりカリ部分まで引き出す。抜けてしまうかと思うほど。
「…ぅ、あ----…!」
途端、シンの声が伸びた。キラの腰を強く掴み上げる。
あぁ、”出す”とはそういう事なのかとキラは確認した。…そういう事ならば判る。
「抜け出る瞬間が、排泄しているようで嫌なんだと」
「なるほどね」
ピストンのように腰を突き入れられるのが好きではない。
シンが好きな動き方は、こうして深くまで挿入させたら、回して中を掻き乱してやる事だ。そうするとあまりの気持ちのよさに背中がしなって声が裏返る。
数度のセックスで判った、彼の癖と快感のポイントだ。

「…だから…ほら、奥でかき回してやる。そうすれば、シン。いいだろう?」
「……ゃ、あ…あぁあ、…!」
気持ちよくなるようにと、アスランが大きく腰が回したと同時に、シンはキラに顔を擦り付けて悶えた。身体中に力が篭り、指先が震え、腹が小刻みに波打ち、背骨が浮き彫りになる。あまりに気持ちのよい快楽の波に流されまいと、シンはキラにしがみついた。軍服に皺が寄る。

「…シン、力を抜いて、ほら」
「…っ…う、…」
「抵抗しちゃダメだ。流されちゃえばいいんだよ」
優しい声音で、耳元に吹きかけるように言っても、シンには届かない。
「ほら、少しずつ呼吸して、シン」
「それが出来ないんだ。俺たちの声も聞こえているかどうか」
アスランの言う事は最もだったが、彼の強張り様を見てしまえば黙っている事も出来ない。
アスランとのセックスは何度もしているのだろうに、この初心さはなんだろう。キラの腰を掴む腕の強さ、その指の震えや、キス1つにもおびえてみせる仕草。まるで擦れてみせないシンに愛しさも積もるが、緊張したままのセックスがどれだけ辛い事か、キラもアスランも判っていた。

「…シン、ちょっと我慢ね」
四つんばいにさせたシンの髪をそっと撫で、慰め程度に髪に音を立ててキスを落とす。
シンの背後から腰を掴んで突き刺しているアスランはどうあっても動けないだろう。ならばと、キラはしがみつくシンの腕を取り外そうと力をこめた。
「……やっ、…キラさ、…!」
「ちょっと、我慢だよ」
先ほどと同じ言葉を、今度はもっと強い口調で言い切り、しがみついている割りには、力の篭っていないシンの腕を取り上げた。
「…っ…!あ!!」
「………ッ、う、」
腕をとられ、連動して動いた身体がアスランを受け入れている箇所にも響く。背中を撓らせ、その刺激に耐えるが、アスランこそシンにさらに力まれて、喉を詰まらす。
「キラ」
「うん、判ってる」
さりげなく咎めの言葉を出すも、キラはシンの腕と肩を掴んで身体を持ち上げた。
「ぁ…!!」
苦しげな悲鳴がシンの喉から搾り出され、熱い息がキラの胸に当たる。アスランに腰を固定されたまま、キラに上半身を持ち上げられ、シンの身体が宙に浮く。
「腕、こっちね、シン」
不安定な状態のシンを、腕を取って導き、自分の肩へシンの腕を回させる。キラの肌にシンは食らいつくようにすがり、両腕を回して背中に爪を立てた。剥き出しのキラの柔肌に、シンの白い爪が食い込む。
「…あんまり傷はつけないでね、シン」
シンの行動に釘を刺しつつも、さらに深く抱きしめるようにシンへと身を寄せた。

「何するんだ」
「力を抜かせるんでしょ。シンが強張っちゃってるから。今まで何してたのアスラン。こんな状態でいつもシンとしてたの?可哀相でしょ」
「……」
キラのもっともな苦言に、アスランが渋く答える。
どうにかしようとは思ったけれど、何をどうやってやればシンが楽になるかが判らない。欲望に素直に反応してしまえば、勃つものは勃つから、それを吐き出したくてセックスをする。シンが苦しげに眉を寄せても、排泄感のようで嫌だと言われても、止めてやる事が出来ない。
終わった後でシンに辛いのならば打開策を考えようかと問うても、羞恥心や後悔で包まった天邪鬼なシンには何を聞いても空回りするばかりだ。
それを繰り返してもう何度、彼を抱いているのだろう。

シンの上半身を抱きとめながら、背中をさする。
まるで幼子にするような仕草で、痛みと苦しさと自分の許容している以上の行為への戸惑いに涙するシンは、キラのそうした行動も受け入れていた。

…キラの言う事はこんなに素直に聞くのに。

シンを犯すアスランはまるで悪者扱いだ。…本来、シンのセックスパートナーは自分であるはずなのに、こんな扱いばかり受ける。
アスランからシンを誘えば、恥ずかしさなのかシンは逃げ、また、シンの誘いに気づかなかったアスランは、甲斐性なしだと笑われた。
(そんなに俺は不器用なのだろうか)
自問したこの問いは、もう何度目になるのか。
いつも答えは宙を切る。何が他の人間と違うのか判らないまま、シンと触れられる時には触れ、こうして身体をあわせる。

「…ああ、なんか…僕までたまらなくなってきちゃった…」
シンを中心に3人で身体を密着させたまま、キラが溜息まじりに呟いた。
その声に、アスランが目線を下げて、キラの股間を見る。…見事にそこは勃起していた。
「キラ、」
「うん、…挿れはしないけど、…さ」
もぞもぞと腰を動かし、軍服の前を寛げると、中からソレを取り出す。
「…挿れないから、ね、…?」
言うと、密着させたシンの股間に手を伸ばし、自分の勃起したそれを触れ合わせて、両手で2本のそれを掴んだ。
あわせてみれば、おどろくほど熱い。
「…ぁ、…すごい、シン」
「だ、だめ、だ…ッ…」
「何が駄目なの」
笑いを含んだ声でキラが耳元に囁く。
2本を両手の中に収め、手をすり合わせるように動かした。
「…いっ…!」
瞬間、シンの背が伸びた。
ぎゅっ、と一気に締め上げられて、アスランの眉間にも皺が寄る。
「…キラ!」
「僕のせい?…あ、でもごめん、とまんない、や…」
2本をすり合わせることで生まれる快感がたまらない。
シンが震えているのは判る。けれど、キラの動きは止まらなかった。
「…ちょっ、まて、キラ、俺まで…っ」
「うん、…でも、でも、…あっ、でるっ…!」
高ぶってしまえばあっという間だった。
素早い速度で扱きあげ、快楽を3段飛ばしぐらいで駆け上がる。堪えることも出来ないまま、キラは射精していた。
「はっ、あっ…」
手にぐちゃぐちゃと精液がかかる。
目を開いてみれば、それは自分だけの精液でもない。シンも達していたからだ。
「あ、…シンも気持ちよかったんだ…」
痙攣したままぴくぴくと震えるシンの顔を見つめ、その頬にキスを落とす。
「…こっちもだ…キラ」
「アスランもイッちゃったの?…わ、じゃあシン、中も外もいっぱいだね」
かける声は優しく。背中をすく手も、愛に満ちたもの。
けれど、シンに与えられたものはあまりにも強烈だった。
開いたままの口から唾液が洩れ、脱力した身体がぴくぴくと震えている。
その身体が、一瞬大きくぶるりと震えた。
「あ」
「…シン」
先ほど達したばかりのそこから、脱力した状態で、だらだらと滴り落ちるそれ。
「気持ちよかったんだね、シン」

そんなシンの痴態さえ、キラは見つめて笑った。