アスランさんと待ち合わせをした。 繁華街、その一角で。 「えっと、シティビルの横の通りなんですけど。わかります?」 「判るさ。俺だってあの街には暫く住んでいたし」 「あぁ、そうですか。そう言ってみればそうでしたね。えっとそこのオレンジ色の看板のカラオケ屋の隣の飲み屋の…」 「まて!まて、シン。そこまでは判らない。カラオケって…」 オーブの、オノゴロの。 そこは、俺もアスランさんも知っている場所。…というか、お互い住んでいたところ。だから待ち合わせも簡単に出来るかと思ったら、店の名前まではアスランさんはわからないらしい。カラオケも行った事ないようで、他にも服屋の名前とか言っても、そんな名前の店だっけ、といわれるばっかりで知らないようだ。ビルの名前とか、街の通りの名前とか判るのに、そういうのは判らないアスランさんが、アスランさんらしくて、ちょっと笑えた。 で。待ち合わせ。 俺は、時間よりちょっと早めに来ていた。(いや、…別に待ちきれなかったわけじゃなくて、アスランさんと待ち合わせする前に他にも用事があったから!だから、その用事が早く終ったからであって、うきうきしてたわけじゃないからな!) 待ち合わせたビルの前で、壁に背をつけて、アスランさんを待っていた。 あと5分。まぁ、あの人時間に正確そうだから、遅れずに来るんだろう。俺は暇で。電話いじったり、携帯ゲームする程の待ち時間でもないから、ぼけっと道行く人を見ながら待つ。 繁華街に待ち合わせただけあって、色んな店もあれば、いろんな人も通る。 あぁ、この辺もだいぶ変わった。あの店知らないな。アレ何屋だろ?…服だよなぁ。あぁいう服はキラさんが好きそう。あの人あんな綺麗でやわい顔してるのに、バチバチな服着るし。あ、ほら。今その店から出てきた人もそんな感じ。…でもあの人はキラさんみたいなタイプじゃないなぁ、がっつりした身体してるし。うわ腕太。あの人軍人だったりするんじゃないか?…って俺もこんなナリだけど軍人だし。MSパイロットだし。…体力は一応人並みにはあるつもりだけど、あんな太い腕は無い。地上戦を沢山やれば俺にももっと筋肉がついたかもしれない。腕なんかももっと太くなって地上戦は何Gも掛かるから首なんかものすげぇ太くなったりして。 丸太のような腕の男の人を眺めながら、俺は勝手に色んな想像をする。店の袋を手に抱え、外で待っていたらしい女性に声をかける。…美人だ。足が細い。携帯をいじっていた女の人は腕を組んで去っていった。恋人同士なのかな。2人仲良く連れ添って歩いていく姿を見ながら、繁華街を歩く人を見つめる。俺とアスランさんも恋人同士だけど、腕なんか組まない。ただ並んで歩くだけ。あぁいうふうにしたいとも思わないけど。…だって俺とアスランさんが腕組んで歩いてたら気持ち悪いだろうし。…いやでもセックスなんてそれ以上の問題だから他人が見たら気持ち悪いのか?…ヤってる最中のアスランさんは、めちゃくちゃカッコイイんだけどなぁ。…って、おい!俺!こんな人通り激しいところで何を考えてるんだ!?恥ずかしい。 息を吐き出して、落ち着けーと自分に言いながら、また俺の前をすれ違ってゆく人たちを眺めた。みんなカッコイイもんだよな。ちゃんと自分に似合う服を選んで、自分がよく見えるような歩き方と髪形で。…俺って、なんかすげぇ子供っぽい? 堅苦しい服は嫌いで、だから出来るだけ大きめの服を買う。ジーンズだけは丁度良いサイズを選ぶけれど、上着だとか全部1サイズ上のもの。締め付けられるのは嫌いだし、きっと俺、背が伸びると思うから。…多分。 アスランさんはもうすぐくる。 きっと、あの路地から出てくる。あの路地は、駅までの近道だから。 そこから流れてくる人を、見つめた。アスランさんはまだ居ない。 アスランさんてさ。人より全然カッコイイから、見ればすぐわかる。濃青の髪。長い足。歩き方なんて、あれ、絶対育ちのよさっていうか。俺がまね出来るモンじゃない。背筋は伸びてるし、顔つきも違うし。軍人だからじゃないような気がする。あの人、ボンボンだし。 かっこいいだろうな。あの道からさ、俺の待ち人がくるんだ。きっとみんな振り返る。無表情で歩いているアスランさんは一見怒っているように見えるんだ。けどそれは怒ってるんじゃないって知ってる。声を掛けようとして掛けられなかった女の子達が遠巻きにアスランさんを見ててさ?…でも俺を見つけて、ちょっと顔をほころばせちゃったりして。周りの女たちは、きゃーって思うんだ。でも残念。アスランさんが呼ぶのは俺の名前。「シン、」ってきっと呼んでくれる。見つけたら駆け寄ってくれるかも。遅れてもいないのに「待たせたか?」って言うんだ。俺はきっと「待ちましたよ!」とかちょっと不貞腐れてみたりして。でもきっとごめんっていう。お詫びにご飯おごるよとか。言ってくれる。…どうだうらやましいだろう。 アスランさんは、かっこいいんだ。みんな認めるぐらいかっこいいんだ。しかも英雄なんだぞ。伝説なんだぞ。トップエリートなんだぞ。フェイスなんだぞ。でも、俺の恋人なんだぞ。 幸せな気持ち。 アスランさんは、もうすぐやってくる。 俺を見つけにやってくる。
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