「キ、キスしたいんで、もうちょっとかがんでください」
言われて、噴きだすのを堪えた。
シンにしては良く言ったと思う。

「どうぞ?」
俺は笑顔をつけて少し屈み、けれど屈み過ぎてシンより低い高さになった。
「…い、嫌味?」
「お前が屈めと言ったんだぞ」
言われて、自分から言った事だと判っているシンが、眉をひそめる。むうっと不機嫌な顔を作り、俺を睨む。…おい。こら。

少しの間。5秒ほどだろうか。シンは俺を見下ろし、俺はシンを見上げた。
目線が絡むが、そこに色気はない。…そういう行為をしようとしているのに、だ。
「……」
口をきゅ、と僅かに結んだ直後、シンの右手が動いた。ゲンコツのような形を作り、親指と人差し指で作った皿を俺の顎の下へ回し、くいっと上げた。
えっ、と驚いたのは俺で、直後シンの唇が強引に押し付けられるように俺の口を塞ぐ。ガチッ、と歯の当たる音も気にせずに。

「んっ、…!」
先に喘いだのはシンで、ぶつけられた唇はそのままの形で止まっている。舌を差し入れる事も角度を変える事もない。
シン。お前、俺とのキスで学んだ事は何も無いのか。
俺がどれだけお前にキスを………あぁ、まぁいい。下手に熟練されても困る。

あまりにシンが必死だから、つい手を出しそびれ、しかしこのままでは呼吸困難になりそうなシンが哀れで、唇を動かした。途端、ひくりと跳ねた身体が、反射的に身を引く。
それを許さずに追いかけて、腰を抱き、後頭部を抱え込んだ。
くちゅ、と唾液が絡まった音の度にシンの身体が小さく跳ねる。…お前は初心者か。何度もしているはずの行為で、いまさらなぜこんなに怯えるのだろうと思えば、そういえばシンからのキスはこれがはじめてだったからだと思いついた。
くちゅ、ぬちゅ、と唾液の音と共に、あわせた身体の布擦れの音。シンの眼はぎゅっと閉じられたまま、あの緋色は姿を現さない。
長いキスに、シンが暴れだす。
「ふ、…ぁ!」
限界だと唇を離したシンにほんの1,2秒の呼吸をさせてやって、また唇を合わせる。今度はシンのように強引なキスではなく、呼吸の隙間も残したキス、を。

徐々に、いつものキスに慣れてきたシンが、呼吸のタイミングを掴み、こちらの赤服を握り締め始めたのを見計らって、唇をゆっくりと離した。
唾液がシンの咥内に残り、俺の中にもシンが残る。

「…っ…は、…」
ぐい、と唇をすぐに拭く。…そうやってすぐに唇を拭くのは色気が無いと何度も言ったのに。

「どうした?キスしたいんじゃなかったのか」
「……アンタが手出しするからですよ」
「そうか。じゃあこれから練習だな」

言ってやれば、かぁと顔を赤らめたシンが、俺の腕から逃げ出そうとするから、引き寄せた。
こら、お前は本当に諦めが悪いな。