「経済的じゃないよなぁ…」
ホテルの照明に照らされながら、シンがぽつりと言った。
「何がだ?」
アスランもシンの言葉を聞きつつ、ベッドサイドに用意しておいたミネラルウォーターに手を伸ばす。
ベッド上での程よい運動の後。多少の疲労はあるものの、ザフトレッドフェイス所属のトップガンでありまだ18歳という若さのシンは、多少の痛みと倦怠感しか無い。今から戦闘模擬訓練を受けろと言われたらきっと出来る。ベッドの上でもう1Rやろうと言われても出来ない事もない。出来るのならばしたくないが。アスランがねちっこいからだ。疲労度合いは別として、散々焦らされるのは一晩で1回ぐらいでいい。

「何が経済的じゃないって?」
「このホテルホテル代。もったいないじゃん。毎度毎度会う度にさ、ええと1泊1万5000円だろ?このビジネスホテルのツイン」
「……えらく庶民的な事を言うなお前は」
一週間に1度か2度の頻度で会っていて、その度にホテルを利用する。お互いベッドのある家はあるのだが、しかしシンはザフトの兵宿舎だったし、アスランはオーブ行政府の専用マンションだ。他軍の男を連れ込んでいるところを見られたとなると、あまり喜ばしくない。
会う度に、セックスに至るのは若さ故に仕方ないとして、ラブホテルだったら、休憩5000円程度で済むのに、アスランはそこを使うのを嫌がり、ホテルを取る。
最初の内は、三ツ星の高級ホテルだった。アスランがシンを連れていくのだ。あまりにも敷居が高いホテルにランクを落としてくれとお願いし、2つ星になり、1つ星になり、ビジネスホテルにまで格下げさせる事に成功した。…それでもシンはそのホテル代がもったいないと思う。
なにか、ならお前は青姦でもしたいのか。けど前に一度した時に、後始末のあまりの面倒くささと、周囲の目が気になるからって二度としないといったじゃないか。それなら…、そうだ、カーセックスの方がいいのか。車だと狭いし終った後に身体の色んな箇所が痛くなるが、それでもいいなら、車でもいいが。…半ばやけくそ気味な提案は即座に却下された。ホテル代がかかるのも嫌だが、外でやるのも車でやるのも嫌だ。たまにならいいかもしれないけれど。

「やっぱりもったいないな…」
指折って数え、1ヶ月ですごい金額なるじゃんと、シンはため息をつく。
シンとて、ザフトレッドでフェイスという、いわばザフト軍の高給取りにあたるわけだが、18歳の男の子らしく、金銭感覚はマトモだ。
一方、20歳のアスランザラといえば、現在はオーブ軍准将にまで上り詰め、日々行政府に足を運び、カガリユラアスハの片腕として軍部を担っている重鎮である。当然給料もそれなりの額であるし、そもそもアスランザラといえば、元ザフトレッドフェイスであり、元プラント最高評議会議長の息子でもある。金に困った事など1度もない。が、2度のザフト軍脱走によって、今までの口座に入れてきた給料が凍結されている。当然アスランが受け取ったはずの父や母の遺産も金も手に入れる事は出来なくなったが、それに引き換えても、現在のオーブ軍の給料は破格だ。伊達に金色のMSを作ったり、個人所有の戦艦ドッグやらMS格納庫をぽいぽい持っているような国ではない。

「ホテル代って、大した金額じゃないじゃないか」
「いや、アンタなぁ」
「ホテル代を出しているのは俺だろ?…お前が出している金は、ここに来る交通費程度だ」
「あのな、俺だって任務地によっては、宇宙からココに来る事になるんだぞ!?シャトルの往復チケット、いくらすると思ってんだ!?」
そのぐらい出してやるよ、と言おうとして、けれど目の前にあったシンの滑らかな腰に目を奪われた。手を回して引き寄せた。
「おいッ…!、あ、…ちょっ、もうしないって…!」
普段、インナーに隠れていて見えない腰骨のライン。そこから内股に繋がる節々。普段見えていないからこそ、こうして裸になって見れば、それは酷く扇情をそそった。唇を寄せ、腰と腿の間をちゅ、ちゅ、と小さく口付ける。
抵抗しているつもりなのか、シンの手がアスランの髪に絡む。
「……な、…ホテル、もったいない…」
なんとか話を戻した上で、2度目に突入しようとするアスランのアタマを引き剥がそうとする。
「じゃあお前は、どうしたいんだ?会う回数を減らしたいのか?」
「…いや、…そういうんじゃなくてさ、つかどうしたらいいのか考えろよ!アンタも!!」
「俺はこのままでいい。ああ、なんならそうだな、お前もオーブの軍司令部に勤めればいい」
「却下。俺はザフトレッドだ」
ぎぎぎ、と音がしそうな程、強い力でアスランのアタマを剥がそうとしているのに、ビクともしない。
アスランは小さく舌打した。
戦争が終った今、アスランとシンを隔てるものは何も無くなったわけだが、シンはかたくなにザフト軍である事を望んだ。アスランがどれだけ求婚まがいの告白で彼をオーブへと入れようとしても、シンは首を縦に降った事がない。
「……いっそさ、アンタがザフトにもどれよ」
言われて、3度目はさすがに無理だと言った。シンはそういわれるのが判っていたのか笑っていた。
お互い役割があるのだ。アスランにはアスランの、シンにはシンの。

「まぁ…しょうがないのかなぁ…」
ベッドの中。
2度目を阻止できなかったシンが、アスランに組み敷かれながら言う。
仰向けに寝そべるシンの上にアスランが覆い被さる。
「まぁ、一緒に暮らしでもしない限り、今のまんまだよな」
しょうがないか、とシンが苦笑まじりに笑って、アスランに手を伸ばす。中途半端に高ぶらされたから、もう1度イかない事には仕方ない。あぁ今日もまんまとアスランに乗せられた。
「……一緒に?」
シンに言われた言葉に、アスランが、ふ、と考える。
「……一緒にか。そうか、その手があったか」
「へ?」
シンを組み敷きながら、アスランは、彼らしくもなく、に、と笑った。