なんだか不思議な光景だ…。
リビングに引いたラグの上でごろごろしながら、シンはアスランを見上げた。
3人がけの大きめのソファに、シャツを緩めたアスランがくつろいで座っている。手にはジャンクフードを持ち、片手はテレビのリモコン。
ポテトチップクスをぱくりと食べ、リモコンをぴぴぴといじり、指先についた粉を舐めて口の中に消化する。テレビのチャンネルは、コメディ、ニュース、バラエティと色々変えた後、古い映画に固定された。

不思議だよなぁ…。

アスランザラという人間は、MSのパイロットであり、今はオーブ軍正規の准将だ。その仕事は多忙を極めていたし、本人の実直で勤勉な性格から、生活態度が緩んだところなど1つも見たことがない。
ミネルバに居た頃もフェイスとしていつも何かを考えていたし、仕事ばかりをしていた。食事中だったりシャワー中だったりした時は、多少なりとも気は緩んでいたかもしれないが、誰の事を思っているのか、上の空でため息をつくことも多かった。
戦争が終った後も、以前と仕事は減ったわけではない。かえって戦後処理やらテロリスト警戒やらこまごまとした仕事は増え続けていて、遠距離恋愛中だったシンともあまり会う機会もなかった。…それが今は一緒に暮らしているというだけで不思議だ。

こんなにまったり出来るとは思ってなかったけど…

今日は特別休暇というわけではない。
シンは、つい1時間前にカーペンタリアから帰ってきたばかりで、食事を終えてわずかばかりのリラックスタイムに入ったところだし、アスランもアスランで、明日は朝早くから軍議があると言っていた。今夜だけの静かな夜だ。
次にこの家に帰ってこれるのは、何日後になるだろうかとシンはスケジュールを頭の中で見直した。…しばらく戻れそうにないと直ぐに判って、なおのこと今が貴重な時間なんだと感じる。
ほんの僅かな休みの今、アスランと共に何もしない時間があるなんて、なんて贅沢なんだろう。


絶対、ジャンクフードなんて食べないと思ってた…

冷蔵庫の横のストックルームには、レトルトやら乾物などの食品が僅かばかり置かれている棚があるが、そこにポテトチップスやお菓子の箱が幾つか置いてあったのは知っている。それはアスランがシンの為に買ったものだと思っていたし、事実、シンもそこからたびたび拝借しては、子供のように食していたけれど。
今とて、アスランが食べているポテトチップスはシンが持ってきたものだ。チップスの袋とほかにもチョコレート菓子を手に取って、コーヒーも用意する。床に寝そべりながらまぐまぐと食べていると、夕食の片付けが終わったアスランが、シンの傍のソファに腰を下ろして落ち着いた。

「食べる?」
言って、アスランの前においてみれば、意外にも彼はぱくりとそれを食べ、さらにテレビを見ながらまぐまぐとつまみ始めた。

珍しい光景だ、とシンは思った。
いつもシャツをきっちり着込んでいるのに、今はそれも肌蹴られ、ソファにゆったりと背中を預けて、表情もリラックスされているし。
シンなぞ、ソファの上よりも床の方がいいとラグの上に直接寝転んで、お菓子をぽりぽりつまみながら、適当なテレビを見ているのだから、アスランよりもずっと行儀は悪いのだが。

「…アンタ、一緒に暮らすと色々性格見えてくるな…」
「何が?」
テレビから流れるのは、あまり得意でない言語の映画だった。アスランは理解しているようだ。時折映画を見て笑い顔になっていたりする。

「映画も見るし、菓子食べるし、ギャグで笑うし。意外と行儀悪い事もするし。こないだドアを足で閉めてた」
「両手がふさがってたら、そうしないか?…まぁ人前ではしないけど。菓子も映画も嫌いだなんて俺は一言も言った覚えはないぞ」
「いや、確かに嫌いだなんて言われてないけど。なんていうか、イメージ?しそうにない」
「…そうか。なら、俺はシンの悪い癖を移されたかな?」
「なっ、俺の所為ぃ?!」

笑いながら、アスランが言い、シンは少しムッとした。
まるで、こちらに100%非があったようじゃないか。言い返してやろうと思ったのに、アスランはにこにこと笑っているから、なんだかその笑顔を崩したくなくて、それ以上の文句を辞めた。

珍しい。笑う、なんて。

嬉しいけれど、複雑だ。どう対応していいか判らない。

「やっぱ、アンタの事、俺まだ色々しらないや」
「そうか。じゃあこれからもっと知ってくれ」
にこりと微笑まれて、直視できずに思わず顔を逸らした。
「ほら」
逸らした顔の前に、ポッキーを差し出されて、シンはそれに食いついた。