「アスランさんが、2人いたらいいのに」

シーツの上にちらばる、ざんばらに切られた黒髪に指を通していると、ぽつりと言葉が聞こえた。
少しの汗を含んだ前髪をはらい、いつも跳ねている横髪なでる。白いうなじには先ほどつけたばかりのピンク色の痕が2つ、同じ大きさで痕になっていた。

「俺が2人に?…何故?」
「なぜ、って…」
うーん、と目線を逸らし、どうやって答えるべきなのか悩んだシンは、まぁたいした事じゃないです、と言い置き、アスランから目線を逸らさずに答えた。

「そしたら、2人のうち、1人をルナマリアにあげる。あいつアスランさんの事すげぇ好きだから。アスランさんはルナマリアに優しくしてあげて、それでアンタが大好きなラクスクラインにも笑顔をあげたりする。フリーダムのパイロットにも、AAのやつらにもいい顔していい。なんならハイネや艦長やオーブの代表とかにも優しくしてやってさ。だから…」

もう1人のアスランは、俺のものがいい。

そう呟くと、シンは強引にアスランを組み敷いて上に乗り上げ、抵抗されまいと腕を押さえつけながら、アスランの唇を塞いだ。乾いた唇がねとりと絡む。

「アンタはね、俺だけを見てるんだ。俺ばっかりを追いかける。俺だけを抱く。この唇も。脳みそも身体も、傷も」
アスランの身体を跨ぎ、上から見下ろす。
18歳だというのに、少年のようにきょとんとした顔のアスランが、シンを見つめ、口をぽかんと開けた後、ようやく言葉と状況を理解したのか、一呼吸置いて目を伏せた後、にこりと微笑んだ。手をシンの腰に廻し、引き寄せる。
先程、中に出したばかりの精液が、ぽたりとアスランの腹に落ちた。構わずに引き寄せる。
腰から脇まで、さするように肌をなぞる。その感触を楽しみながら、上から降ってくるシンからのキスを楽しんだ。唇が濡れはじめた。

「…なんだ。強烈な愛の言葉かと嬉しく思ったんだが。…もう1度やりたい為の、誘い言葉だったのか?」
「まぁ、そういう事です」
「そうか。残念だな。シンが望むなら、俺の身体ぐらい2つに分裂しても構わないと思ったんだが」
「出来るモンなら分裂して欲しいですけどね。体力が1/2になるなら御免です」
「…体力が半分になっても、お前を満足させる程はあるよ」
「減らず口」
「お前に言われたくないな」

くすくす。
2人で笑いあいながら、冗談ともつかない言葉を言い交わす。ベッドの中のピロートークだ。もう一度セックスしたいための言葉遊び。
爪でアスランの首筋を引っかいた。赤い線状の痕が残るが平気だ。どうせ、普段は詰襟は一番上まで常にきっちりと止められているし、前よりも少し伸びた青髪が、情交の痕など隠し切ってしまう。
おかえしとばかりに、アスランもシンの背後に手を廻し、ひきしまった尻に指を沿わせた。
シンがしたように赤い痕をつけたいわけではないから、指はそのまま谷間の孔に引き込まれるように、挿入させる。
「ぁう、」
小さな声が上がるが、それもリップサービスのようなものだ。先程までアスランの指と勃起したものを両方受け入れても裂けなかった孔だ。指の1本程度で喘ぐ事も拒む事もない。
1本だった指はすぐに2本、3本と多くなり、ぐちゅぐちゅと中の精液を掻き回した後、ためらいもせずに、再び猛ったものを、シンの中に押し込めた。ずぶずぶと挿入されていくのをじっくりと見つめながら、ゆっくりと。シンはそういう挿入が好きだと知っている。いっぺんに突き入れても、顎をのけぞらせて喜ぶが、その分痛みもあるようだ。
今は、シンをじっくり犯したかった。

「…ぁ……は、…あ…」
今度こそ、シンから上がった言葉は、本能から出た言葉。
首筋を伸ばし、気持ちよさげに身をくねらすシン。手を伸ばして頬を撫でた。
シンは、アスランが2人になったらそのうちの半分の愛をくれと言う。

「…もし俺が2人になったら、お前は半分の愛でいいのか?」
「……ふ、…ぇ…?」
同じからだ、同じ考え、同じ人間。ただ肉体が分かれてしまっただけ。
元は1つの人間だろうに、半分だけの愛で。

「シン。もしも俺が2人になったとしても、きっと2人共、お前を愛するよ…」
だから、覚悟しておいた方がいい。

アスランの言葉に、シンは何も反応を見せなかった。ただ、再び始まったセックスに身体を預け、快感に浸る。
シンの頬、額、唇をなぞって、鎖骨を辿り、胸の先端をこね回せば、シンの声が上擦った。相変わらず、ここが弱い。

アスランの望むとおりに抱かれながら、シンは小さく拳を握った。
いっそ笑ってしまいたかったが、表情に出したら、きっとアスランは今以上の意地悪を仕掛けてくるだろう。


あぁ。アンタだけは、俺のもの。