アスランさんと初めてセックスしたのは、終戦後、すぐ。
オーブに身をよせていた俺を、不憫に思って。…そう、それは多分愛とか、慈しみとかじゃなく、言うならば、「同情」に近い感情だったと思う。きっと。
あの戦争で傷ついたのは俺だけじゃないのに。
俺は家族も友人も母のようだった人も守りたいと思った人もみんな失ったけれど、でも、俺はそういう目に見える辛さばかりで。失った喪失感の大きさを怒りに変えて、剣をふるって、戦争に負けた。だからきっとそれは当然の制裁だったし、俺はのうのうと生きているにはあまりにも人を殺しすぎた。
…それなのに。
勝者のはずのアスランさんの方が、ずっと辛そうな顔をしている。眼に見えないものを失った大きさが俺の比じゃないからだ。…多分、この人は何もかも手に入れられる環境にありながら、何もかもを失ってしまったんだと判ったのは戦争が終わってからだった。俺はそれに気づくのが遅すぎた。あぁ、じゃあ俺が守ってあげましょうか。俺が貴方の何かになってあげましょうか。どんな存在でもいいよ?憎む対象でもいいよ?…でも俺からは手伸ばせないからね、アンタが望むのを待ちます。俺、いる?

「シン」
名を呼ばれて振り返った。アスランさんは、いつもの苦い笑顔を浮かべて俺に手を伸ばしていた。
だから、伸ばされた手を拒めずに、そのまま身体を合せた。初めてのセックスは恐怖なんて殆どなくて、ただ、胸にぽっかり開いた孔を味わうような気持ちでいっぱいだった。抱かれているのに、2人で1つになっているのに、なんだろう、この真っ白な空間は。…おかしいな。俺、アンタの何かになってるはずなのに。…やっぱ役不足か。アンタでかいからさ。

「シン、好きだよ」
いいですってば。そんな風に言ってくれなくていい。そんな言葉、俺に向けるものじゃないでしょ。俺には気休めなんていらないです。嘘もいらないです。マガイモノもいらない。でも、もし1つでももらえるのなら、キスだけ欲しいなぁ。…ね、キスしてください。俺、それだけでいい。

喘ぎ声を耳の奥で聞き、身体の奥底だけは熱くなるのに表面上はまるで氷みたいだった。触れ合った手と手が冷たい。…あぁアスランさん。あんたも身体、冷たいね。俺もなんですよ。ほら、触ってみると判るでしょ?アンタ、一生懸命俺を熱くさせようとしてるけど、なかなかあったかまんないんです。だからもういいですよ。手、離していいです。

暗闇の中のセックス。眼を開ければアスランさんの顔。…ミネルバに居た時と、顔、全然違いますね。
寂しくて、腕を伸ばそうとしたら、その手をやんわりと止められた。なんで?理由が判らなかった。首に伸ばそうとした手も、胸をなぞろうとした手も止められる。
こんな真っ暗な中でさ、顔ぐらいしか見えない暗闇なのに。せめて肌、触らせて欲しいのに。…なんで駄目なの。なんで、もっと近づけないの。…駄目ですか?やっぱり俺が、触れるのは嫌ですか。
切なくてせつなくて、眼を逸らした。
手だけは。
…こんなにぎゅって握ってくれてるのに。

ずぐずぐと突き入れられる律動は、確かに射精へのカウントダウンだったけれど、足のつま先も、指先も冷たくて冷たくて凍えてしまいそう。

突き上げ汗の飛ぶ表情を見ているのが辛くて顔から眼をそらす。うすぼんやりと、アスランさんの身体が浮かび上がった。
あぁ、顔を見なければいいんだ。身体だけ見ていればいいんだ。そうしたら、アンタがどんな表情してるのか苦しいのか切ないのか怒ってるのかも判らないもんな。顔から顎へ首筋へ。目線を逸らす。肩、鎖骨、胸、腹。
そして目線が行き着いた左半身に、大きな傷があるのを知った。

左ばかりに、一面に。腹にも足にも腕にも。焼け焦げた痕のような、皮膚がただれた痕。
(これ……)
ちゃんと見ようと目を凝らそうとしたら、俺のまぶたの上にアスランさんの唇が降ってきて、やんわりととどめられる。それでもどうしても傷を見たくて身をよじれば、今度は行動を制御するかのように、さらに奥深くに打ち込まれて仰け反った。続けて奥深くにずくずくと突き入れられて、苦しくて目を閉じる。強引なセックス。握り締められている手に力が入った。俺もアスランさんの皮膚に爪を立てる。…我慢が出来ない。

「ひ、ぃ、…あ、…あ!」
もう殆どこらえる事もなく、湧き上がった射精感に任せて、腹の上に精液を吐き出した。一瞬のスパーク。ひくひくと腹の下や尻が痙攣しても、アスランさんはそのまま行為を続けた。俺しかイってないからだ。
息が出来なくなりそうなほど強引で容赦のないセックス。…この人、こんな抱き方をするんだ。
目を開けている事も出来ず、辞めてという事も出来ない。…そんな権利、俺にはない。
だから、その傷の謝罪も出来ない。俺がつけた傷だ。俺が、あの嵐の海の中に落としたから。

「シン、ほら大丈夫だ」
名前を呼ばれて、大丈夫だと意味もなく言われて。…ねぇ、何が大丈夫なの?…アンタが言うその台詞、一番の嘘っぱちだ。
そんなの欲しくない。嘘なんか要らない。…優しさも、要らないから。
「シン」
涙が出そうになる。
悔しくて、唇を噛み締めた。