はじめてセックスする事になった。
今2人でベッドの上で、正座して向かい合っている。

「…ど、どうすれば?」
「俺に聞くな…」
「しようって言ったの、あんたじゃないですか!」
ベッドに入った途端、この喧嘩だ。アスランは頭をかかえた。がしがしと頭をかく。…どうすればいいっていうんだ。
シンはまるで捨て犬のようにきゃんきゃん吠えて止まらない。
「だいたい、なんで俺が受ける側なんですか!アンタが受けたっていいだろ!?」
「歳を考えろよ」
「歳関係ないって!」
言って、うがーと吠える。これではラチが開かない。
「とりあえず、服…脱がないか?」
「えっ」
「なんでそこで驚くんだ…」
胸に手を当てて、脱がないぞ、という体勢になったシンが、ベッドの上を後退した。
「敵前逃亡か?」
「いや、敵前逃亡て!アンタ俺の敵!?…ってか、いやそうじゃなくて、服、別に着たままだっていいじゃないですか!」
幸い、ザフトの軍服ならば下だけ脱げばいいだろう。上着は長いから、そのままでも下半身は見えないし。
全裸になる事に抵抗しながらも、シンの顔は真っ赤だ。面白いぐらいに真っ赤だが、アスランとて頬を染めつつ、そっぽを向いてしまっている。どうしようもない。初心すぎる。
「…お前がそれでいいならいいが…。上着を着たままっていうのも…」
「なんでありますか」
上目遣いで睨むシンの紅い目が可愛い。そう思えるようになったから、アスランも末期だなと思った。以前はこの目で喧嘩を売られてばかりだったというのに。(それは今でも変わりがないが、恋愛してしまえばあばたもえくぼというものだ)
「上着着たままで下だけ脱ぐっていうのも…卑猥だな」
「なっ、だったらどうしろっていうんだー!?」
マットレスをぱしぱしと叩くシンはすでに錯乱中だ。
アスランも身動きせずに目線を逸らしているが、その言動から察するに、アスランとて充分錯乱している。

「もいい。もういい。あんたが脱いだら俺も脱ぐ」
「俺からか!?」
「そうですよ!言いだしっぺが脱いでくださいよ!」
暴れていたかと思えば、今度はベッドの上でふんぞり返ってアスランに命令を下す。こういう時ばかりは上司部下関係ないだろう。シンは強気だった。錯乱中だが。
「判ったよ…脱げばいいんだな」
これ以上何を言っても無駄だと判ったアスランが、ため息をつきながら正座を崩す。ベッドの上で立てひざをついて、腰のベルトに手をかけた。しゅるりと引き抜く。シンの目の前での行為だ。
「うわ、ちょっとまった!」
「なんなんだ」
「ちょっとまて、ちょっとまてって!エロい!…目の前でそんな事するなっ」
「脱げと言ったのはお前だろう…」
「俺ですけど!そりゃ言いました!言ったのは俺だけど、でも目の前でやらなくたっていいだろっ!?後ろ向いてやってくださいでありますー!?」
「…お前…ホントにする気あるのか…」

今まで以上に真っ赤なったシンが、わたわたと手を動かしながら抗議するが、いろんな意味で意味不明だ。
さすがのアスランも少し冷めた。…けれど冷めたからこそ、少しばかり頭が回転するようになった。
「シン、ならお前が脱がしてくれ」
「は、はぁっ!?」
「だから、俺もお前を脱がすから」
「うえっ!?」
「一緒に脱がしあおう」
「ば、馬鹿いうな-----!??」
「けど、一石二鳥だろう。お前も脱げるし俺も脱げる」
「っ!!」
確かに一石二鳥かもしれないが、恥ずかしい事に変わりはない。しかも脱がせあいだなんで。
「…どうせならさっさと脱いだ方がいいだろう」
「そ、そうですけどね!あーもういいです、判りました!脱がせりゃいいんでしょ、脱がせりゃ!!」
こうなったら、と。
錯乱中の焼け付く思考でアスランの提案を了解した。
アスランと同じようにベッドの上で立てひざをつく。アスランの手が届く目の前で、だ。
柔らかなベッドの上で動けばアスランが揺れた。立てひざでは安定性にかける。

いざ目の前でアスランを見下ろす。その目線は股間だ。
すでにベルトは外されているから、あとはボタンとチェックを下ろすだけだ。下着も脱がすが。
(どうしよう…)
どうしようもないのだが、どうしようと唸る。
意識がアスランの股間に集中していたら、突然自分のベルトにアスランの手がかかった。カチャリと音がして、バックルが外れる。
「うわあっ!何やってッ!!」
「…何って…」
驚いて飛びのいたシンが後ろのめりになる。手をついてなんとかベッドから落ちるのは免れるが、しかし体勢が情けない。
バックルの外れたベルトが、ゆらゆらと揺れていた。
シンの動揺ぶりに、アスランも再度ため息をつく。
「このままじゃ…いつまで経ってもはじまらないな…」
「っ、わ、わかりましたよ…!」
揶揄されて、煽られたシンがむくりと置き、立てひざをついて、今度はシンからアスランの股間に手を伸ばす。
ボタンを外そうとして、みっともなく手が震えた。
アスランもシンに凭れるようにして、後ろに手を伸ばし、ベルトを引き抜いた。
しゅるりと抜けたベルトを、ベッドの下へ落とす。
シンは、未だボタンに悪戦苦闘中だ。
「…そこだけ俺が外そうか?」
「お、俺がやりますよ!」
変なところで意固地になるシンだ。ボタンを乱暴にひっぱる。外れた。チャックを下げれば、赤い軍服の中から下着が見えた。
「うげ…」
「うげって…お前な…」
しかもまだ下着だというのに、シンの目は汚いものを見るかのようだ。
ムカ、と。アスランもさすがに苛立ちを覚えた。
シンの服のボタンを外し、強引にチャックも下げた。これでアスランと同じ状態だが、さらに手を伸ばして、パンツまで丸ごと下げた。ずるりと肌色が見える。
「うわぁっ!?」
「こら、大人しくしろ!」
一気に下着も下ろされて、あわてて股間を押さえる。後ろに飛びのこうとすれば、許さないとばかりにアスランが上に乗りあがった。膝まで落ちたパンツをひっぱって、足から引き抜く。アスランの手が早かった。
「うわ、うわ、なにす、…ちょっ!」
シンとてされているばかりではない。さすが軍人というところだろうか。組み敷かれつつも、股間を抑えつつも、反射的にだろう、右足のキックを繰り出す。アスランの手がそれを止める。途端、頭突き。今度はモロに食らった。
「…っ…!」
額を押さえながら蹲るアスランの下から、シンがずりずりとずり上がり、シーツをかき集めて股間を隠す。ぜえぜえと息をつきつつベッドの隅まで移動して殺気だてているあたり、予防注射を嫌がる猫か犬のようだ。
「……シン、お前…」
「だ、だって!いきなりここまでするか!?」
錯乱を通り越してパニックだ。
今から何をするか判っているのか。セックスだ。服1つ脱ぐのでこの騒ぎは酷い。
つまるところ、シンは何も決意など出来ていなかったのだ。口で大見得を切っただけで。

「判った。…もういい。やめよう」
「え、?」
引き下ろされたチャックを上げ、ボタンを留めて、床に落ちたベルトを取って腰に巻く。
「え、ちょっと、アスランさ、」
「いいよもう。お前がそこまで嫌がるならいい。また覚悟が決まったら言ってくれ。無理にさそって悪かったな」
シンから目を逸らし、淡々とそれだけを言って、ベルトを嵌める。
軍靴を取り上げて、足を通そうとしたところで、アスランの背中にドン、とシンがぶつかった。
「…シン?」
「嫌だ、なんて言ってないっ」
「けど、お前な…」
「もういいって!出来ます!判りました!俺がすればいいんでしょ。アスランさんを挿れればいいんだ!判った!もう覚悟したから!」
「シン、…」
「だから、もうやめようって言うな!…やるならもう最後までやってくれないと…でないと…」
アスランの背中に怒鳴るシンの声。
手を回されて、ぎゅっとアスランの腹を抱きしめ引き寄せる。
その手が白く震えていた。

「わかった。なら辞めない。シンほら、判ったから手を離せ」
「…っ」
頬を赤く染め、頼りなげに紅い目が揺れている。愛しくて頬を撫でた。
「ゆっくりやろうな」
「アスランさ…」
軍服の上だけを身に着けたシンを見下ろせば、白く細い足が見えた。股間はギリギリ軍服で隠れているが、きわどい姿だ。触れたくなる。
「…シン、じゃあその。続きをしてもいいか?」
「…ど、どうぞ…」
言えば、一気に体をカチンと硬くさせる。
コホンと咳払いをして、アスランはシンに手を伸ばした。
伸ばす先は、内股だ。
「あ、でも待って」
その手が触れるか触れないか、の瞬間。またシンが声をかける。
「…今度は聞かないぞ?」
「そ、そうじゃなくて、その、思ったんですけど」
「なんだ」
白い足がまるで誘っているみたいだ。少年の、こんな細い体躯に鼓動を高ぶらせるとはアスラン自身思ってもみなかった。18年目の驚きだ。
シンの白い足が、もじ、と動いた。見とれる。

「キスとかした事ないのに、いきなりセックスっておかしくない…?」

言われた言葉に、今度はアスランが凍りついた。