「了解ですおねえちゃん。じゃあ、シンと刹那さんに出てもらいますね」
「出てって…おいメイリン、おかしくないか!…俺達いきなり拘束されて、す巻きにされてんだぞ!?」
「ええとね、今、アスランさんとロックオンさんが水鉄砲持ってるの」
「シカトかよ!」
「で、二人は、シンと刹那さんを狙ってくるので、避けてください」
「はぁっ!?」

赤い髪を二つのしばり緑色の軍服を纏ったメイリン、という女性が、微笑みながら告げた言葉を、隣で、シンアスカがひとつずつ文句を言って騒いでいる。
その様を、す巻きにされた状態で冷静に見ていた刹那は、どうやら面倒な事に巻き込まれたらしいなと認識した。
同じくす巻きにされているシンも、どうしてこうなったのか、判っていないらしい。
ほんの数十分前に、突然、何かが来て、ぐるぐると縄を巻かれたかと思うと、目隠しまでされて、気付いたら今に至る。
刹那とシンは見事に拘束された状態で、メイリンを見上げていた。

どうやら何かのダシにされたらしい。
今、メイリンという女性から言われた情報によると、アスランザラとロックオンストラトスが水鉄砲を持ってこっちに来ているとか。それから避ければいいらしいが、はたしてそれにどんな意味があるのか。
こういう時は抵抗などしないほうが得策だ。体力を消耗するだけで、少しもためにならないことを知っている。

「おい、お前もなんか言えって!」
言われても、特に何をするというわけでもない。やれと言われればやるしかない。
水の入った鉄砲で狙ってくるから避ける。それだけでいいなら楽だろう?

「逃げたら終わるのか」
「うん。タイムリミットは1時間。逃げきれたらセーフです。ただし艦外とブリッジには行かないでね、艦長に怒られちゃうから。副艦まではバレてもオッケーです。内緒にしてくれるって承諾してあります」

意外と手際がいい。
これがコーディネーターというものだろうか。いや、男女の差なのかもしれない。

「でも、もし逃げられなかったら、シンも刹那さんも、罰ゲームが待ってます」
「罰ゲーム?」
「1日メイドさんです」
「はっ!?」
メイド?首を傾げる刹那の横で、シンの顔がみるみる赤くなっていく。なんのことだ。刹那は眉をひそめた。
「じょうだんっ…」
「服はもう注文してあって届いてるの。あとは着るだけね。負けたら、シンも刹那さんも、お互いアスランさんとロックオンさんの言うことをよく聞くメイドになってもらいますからよろしく」
「ちょっとまてよ!なんで俺たちがそんな事っ」

噛み付くシンに、メイリンは、すっと表情を押さえて言葉少なに告げた。

「レクリエーションルームの、自動販売機をシンが蹴って壊した件」
「うっ!」
「インパルスの整備をサボること、2回。寝坊で遅刻した件5回」
「ちょっ、ちょっとまてメイリン!わかったから、判った、でもじゃあ刹那は!?こいつはただの客なのに!」
「ただの客ならなおの事です。働かざるもの食うべからずって、もう随分前に言ったもの。ね、メイドぐらいやってもらわなくちゃ」

圧倒的だった。
にっこりと、幼いとも思える程の笑みをつくりながら、言ってる事は至極当然の事だ。
オペレーターを敵に回すな。
それは、今日、シンと刹那にきっちりと刻まれた教訓となった。

そうして、二人は巻き込まれることになる。
元はといえば、アスランとロックオンの射撃の腕前を知りたかっただけの遊びが、ミネルバ中を揺るがす一大レクリエーションとなったのであった。


***


一方その頃、いまだMSハンガーから抜け出せないロックオンとアスランの元に、拡声器を手にしたルナマリアが登場していた。

「あーあーあー。逃亡犯に告ぐー。今、シンと刹那くんを投入いたしましたので、彼らを狙い撃ってくださいー。彼らに見事先に命中させた方が勝ちですー」

セイバーのコックピットに大の大人2人が窮屈に身を屈めて入り込みながら、外部スピーカー越しにルナマリアの声を聞いた。
見れば、彼女の拡声器は、確実にセイバーのコックピットに向いている。すでに居場所を察知させられている。なんという事だ。
「…あいつらまで参加させられてるのか」
ちっ、とロックオンが舌打した。言いながらも、水鉄砲の中身が本当にねばねば弾になっているのかを確認する。よし、これであいつらにもしも当たっても危害はない。ひとまず安心だ。
「どうする?アスランさんよ」
「…こんな事しても、意味がない」
「ごもっともだ。1日メシ抜きってぐらいだろ?俺たちにとってデメリットっていえば」

ロックオンはともかく、ミネルバの貴重な戦力でありフェイスであるアスランが1日食事抜きというのはいただけないが、食堂を利用できないだけだというのなら、携帯食は随時確保している。このセイバーの中にも部屋にも非常食として常備されている。水が飲めれば問題もないし、身体とてコーディネーターだ。問題はない。ロックオンは客であるから戦闘する事もない。1日食べなくとも腹が減るぐらいだろう。

「タイムリミットは1時間って言ってたな」
「このまま1時間、ここに居れば…」
「あーあー、ちなみに、勝った時の賞品も用意いたしましたー、シンと刹那くんがメイドとなってご奉仕してくれますー」

メイド!?
ご奉仕!?
思わず、アスランとロックオンの目があった。いやそれは、しかし!
どうする、と顔を見合わせている2人の下で、ルナマリアは、服も用意してありますーと黒いミニスカートドレスを取り出す。ご丁寧にも2着分だ。

「あんなものをシンが着るのか!」
「いや刹那は着ないぜ、絶対着ない無理だ」
「俺だってああいう趣味は!」
「俺もねぇよ。…ただ、メイドっていう事は掃除だとかそーゆーのもしてくれるってことだ」
「ああじゃあ、あの汚いシンの部屋を掃除しろと言ったら聞くのか…」
「…お前、欲が無いな…」

思わずがっくりと肩を落とすが、まぁ、賞品もあるなら、やってやってもいい。
決してそれはスケベ心ではない。
滅多に…いや、絶対に見れないだろう刹那のメイド姿を見られるから、というのも理由としてはちょっとはあるけれど、いや、これは正等なる戦いだと思えば、やりがいはある!
水鉄砲とはいえ、最近射撃訓練も出来ていないのならば、腕慣らしぐらいにもなるだろう。
ロックオンはそう結論付け、なにやらぐるぐると考え事をしているアスランの肩を押した。

「おい、コックピットハッチを開けろ」
「えっ」
「あいつらを狙う撃つぜ!」

闘志に燃えたロックオンの目がそこにあった。