この本は、同時発行の「CAN’T FORGET YOU」の半年後の話になります。 お持ちの方はそちらからどうぞ。 こちらのみでも、たぶん読めます。戦後設定。 オーブアスランと、ザフトシンの遠距離恋愛です。 --------------------------------------------------------- 「シン、今日の今からの予定なんだけど、ちょっと変更したいんだ」 キラが、にっこりと笑って言った。 …変更?…変更って言ったのか、もしかして今。 「アンタね…じゃあ、この書類は!」 「んー…帰ってから?」 「やるのかよ」 「やる。やるよ」 嘘つけ。絶対こいつ、今この書類の束片付けるの嫌で言っただろ。じと、と睨むけれど、キラは真面目な顔して、「やるよ!」ともう一度言った。…俺は信じてない。キラはいつもこうだから。 プラントのアプリリウス。 そこは、プラントの首都であると共に、ザフトにとっても本部のある大切な場所だ。 施設の中でも最奥の一室。そこがキラの執務室だった。 つい一年半前までオーブの制服を着ていたやつが、今はザフト指揮官の白服を着ている。オーブの人間って、どうしてこうも着る軍服を変えるのか。…理由は判っているけれど、なんとなく納得できないまま、もう一年、キラと一緒の仕事をしている。 ちなみに、俺の執務室(というか事務室)は、キラの隣だ。 「いいからいいから。ね、シンも行くよ」 「は?…どこ行くって…」 「いいからー」 キラは、いつもに増してにこにこ笑っていた。…いやアンタの笑顔とか、怖いから。いつもの顔じゃない。 絶対に、なんか企んでるときの顔だ。 「なんで俺が行く必要があるんですか。アンタが勝手に今日の予定変えたいだけだろ」 「いいからー」 さっきからそればっかり。しかも背中を強引に押されて、執務室から出されてしまった。 そうなれば、もうキラを止める事も出来なくて、気付いた時には、ザフトの基地内を、キラに手を引かれながら歩いている。 …ああ…くそ。 「でー?結局何処へ向かうんでありますかぁー?」 「うん。ちょっと港まで」 「…は?軍港?」 何でそんなところに用があるんだ。 もしかしておエライさんでも迎えにいくのか。…だったら急に予定が変更された理由も判るような気がする。お忍びで誰かきたって言うなら接待とかしなくちゃならないのかな。…面倒くさいな…。 どう考えてもいい予想にはたどり着かなくて、もう、頭の中はキラと、やってくる人間に対しての文句しか出てこない。こうしている間にもキラの仕事はどんどん溜まっていってる。それは俺の仕事にもなって、つまりはいまこうしている時間にも、どんどん…。 「ほら、シン」 「はいはい」 ため息をつきつつ向かった、軍港のハッチ内。 俺達がついた時、ちょうどシャトルが来ていたようだった。けれどそれは民間の定期シャトルだった。いつもの便だ。 …これで来てんの?エライ人。 仕方なく襟を正して、ぎゅっと首筋まで締める。ああ、相変らずこれ苦しい。 シャトルにタラップが掛けられて、中から民間人がぞろぞろ出てくる。それはどうみても、金持ちとか偉い人とかそういうんじゃないように見える。キラが待ち構えている人はまだ降りてこないようだった。…で、最後の方。ほとんど荷物を持っていない男のひとがひとり、降りてきた。 それは濃青髪の、背も高めの、見知った顔で。…そう、俺だって知ってる。いや、知ってるどころじゃない。だってあのひとは。 「…アスラン!」 キラが叫んだ。手を振る。 それに気付いたアスランさんも手を振り返した。それでもって俺を見つけた途端、目がふわっ、て笑って、…そう、ふわって… 「…う、そ…」 俺は、そこに立ち尽くしていた。 …この人、まさか本当に会いにきたの、…か!? いや、いやいやいや。まさか。まさかだよな?だってオーブからここに来るのに丸一日以上かかる。それにこの人はオーブ軍のお偉いさんという肩書きも持っていて、…だからいくらなんでも。けれど、キラはにこにこ笑顔で迎えている。まるで遊びにきた友人か何かのように。 「久しぶりだな、キラ」 「本当だね、久しぶり!」 タラップの下まで、すいーっと進んだキラの手を、アスランさんが取って握った。顔と顔が近い。…相変らずこの人たち、恋人同士みたいなことする。 アスランさんは私服だった。そういえば、昔アスハと一緒にミネルバに居た時に着てたものと同じかもしれない。黒と緑の上着、タイトなスラックス。このひとは、黒ぐらいしか似合う服がない。顔が整いすぎていて。あ。例外。…ザフトの赤服。あれはマジ似合ってた。制服みたいなカチッとしたやつが合うんだな、きっと。 俺がそんな事を思っている間にもキラとアスランさんはにこにこ会話。 「よく取れたね休みなんて」 「まぁ…なんとかもぎ取ってきたよ。カガリが呆れていた」 「アプリリウスには何日居れるの?」 「明日の夜のシャトルで帰る」 「うわ、それじゃあ実質一日ぐらいじゃない。よく来たね」 「そりゃあ来るさ」 アスランさんはそこでにっこり笑った。俺に目線を向ける。 キラの斜め後ろで、じっとそのやりとりを見ていた俺を見つめると、まだ近くには人が居るっていうのに、アスランさんはとんでもないことを言った。 「シン。口説きにきたぞ」 「………!!」 にっこり笑うアスランさん。 「マジですか」 「ああ」 このひとは…。 本当に、この人はぁあああっ!! 信じれない。信じらんない、マジ信じられない!! なに考えてんだ、このひとは本当に!! |