仲良し症候群 ティエリアアーデとシンアスカの場合 ------------------------------------------------------------------------------------------- ふと気づいたら、人だかりが出来ていた。 艦の食堂。 山のようなギャラリーの向こうでは、なにやら怒鳴り声がする。 「なんだよ、どうした何が起きてんだ?」 またやっかい事じゃなきゃいいが。 近づいてみると、人だかりの一番後ろに、刹那の後ろ姿も見えた。 背が低い所為で、前の大人たちに邪魔されて見えていないようだが、本人はただその場にいるだけのようで、ぼうっとたたずんでいる。人をかきわけてまで前に行こうとは思わないらしい。 「よお、刹那」 呆然と立ち尽くす刹那の肩に手を乗せた。ついでに首筋に腕を回した。 「どうしたんだ?」 「…ロックオン」 (…お?) 後ろから抱きついてみせても、拒否もない。…これは免疫ってやつだろうか。 調子に乗ってそのまま刹那に触れてみる。文句はない。 「この人だかりの向こうに何があるんだ?まさかまたパイロットが何かしでかしたとか、そういうんじゃないだろうな」 一応なりとも、マスターユニットという役柄だけは与えられている。 そんな役柄の都合上、もしパイロットが何かやらかしたなら、責任は自分にある。 ここまで人だかりが出来て怒鳴り声もうっすら聞こえるあたり、嫌な予感は当たりそうだが。 刹那は躊躇いもせずその予感的中な事を言う。 「ティエリアアーデとシンアスカだ」 「…はっ?なんだよ、その不思議な組み合わせは」 「2人が喧嘩をしている」 「なんで?」 「アスランザラが止めに入った」 「アスランが?」 あいつはまた貧乏クジ引いたのか! 「しばらくしたら、アスランザラの声が聞こえなくなった」 「…それってヤバくないか?」 相手はシンとティエリアだ。怒らすとやっかいな2人を止めにいって、止め切れなかった場合、おそらくひっぺがされて殴られでもしてるんじゃないか? 「…てか、ヤバいって!」 聞いているうちに、アスランがどんなことになっているのか、想像付いた気がした。 これはまずい、と人ごみを掻き分けてたどり着く。 …予想通り、そこにはシンとティエリアに踏みつけにされたアスランが、床でのっぺりと、へばっていた。 肝心の2人は、いまだ髪を引っ張り合いの喧嘩中。 ギャラリーがいようが、けが人が出ていようがお構いなしの、まるで子供の喧嘩。 「なにやってんだ、お前らは……」 頭が、痛くなった。 *** 「なぜ僕まで独房に」 「喧嘩両成敗ってやつだよ。買っても悪いし、売っても悪い」 「僕は、売っても買ってもいない。あのシンアスカというのが、あまりにも礼儀が無かっただけだ」 「だから…、そういうのも無視してりゃあいいのに、お前が買うから、アスランが怪我しちまったんじゃねえか!」 自分が悪いかもしれないって反省ぐらいしろよ! 思わず怒鳴りたくもなる。 ティエリアの意固地は現在MAX状態で、手もつけられない。 「ったく…勘弁しろよ…。俺が責任取るんだぜ…」 喧嘩が大きくなりすぎた所為で、艦長からは報告しろと言われている。言うのはもちろんマスターである俺の責任だ。 なんて報告するんだ、こんな子供の喧嘩を。 もう一方の相手のシンといえば、同じ独房に入れているのに、ふてくされてこっちを見ようともしない。 「シン、お前もなんでティエリアに喧嘩なんて」 「しつこかったからですよ」 「…しつこいって…」 「アレがなってないだの、コレが問題ありだの、人のことばっかり言うから」 「なんだよ、それは…本当に子供の喧嘩じゃねえか…」 いや、子供か。 シンはともかく、ティエリアも対人的な年齢は若いように思う。なにせ、いつもツンツンしてるから。 「とにかく、もう喧嘩すんな。ここで反省してろ。丸1日は入ってもらうからな」 厳しく言いつけて独房の扉を閉めた。 こういうときは、とにかく和解させないといけない。まったく、なんでこんなことになってんだか…。 *** 「大丈夫か、アスラン」 「俺は大丈夫です。コーディネーターなんで」 「って骨折してんだぜ…腕」 「3日もあればくっつくと思います」 3日。…コーディネーターってのすごいもんだな。 感心するけれど、そもそもなんであの2人があれほどの喧嘩になったのかが分からない。 「あの2人、特に会話らしい会話もしてなかったように思うんだが…。喧嘩するぐらい犬猿の仲だったのか…?」 確かに、気は合わなそうに見えるが。 ティエリアもシンも、引くことを知らないタイプだ。衝突したら確かに大問題になりそうな気はするが。 「最初は、シミュレーターで模擬戦をやっていたようだ」 「…あの2人が模擬戦?」 「偶然一緒になったらしいが…スコアを見れば分かると思うが、なかなかのコンビネーションだった。初めてのコンビだったと思うんだが」 「そりゃあ…」 アスランが言うぐらいのスコアだったなら、かなりのいい出来だったんだろう。大火力のヴァーチェと、近接戦闘で突っ込んでいけるインパルスは確かに相性がいいのかもしれない。 「それで、なんで喧嘩に」 「終わった後、言い合いになっていた。あんたはもうちょっと後ろを守った方がいい、だとか、インパルスはもっと広く展開すればもっと動けるだろう、とか、そんなことを言い合っていて…気づけば、シンが、アンタそんなだから友達出来ないんだぞ、と叫んでいて、ティエリアの方も、すぐに怒鳴る君に僕は付き合ってやっている!とかなんとか…で、」 「なんだそりゃ」 お互い良く見てるじゃないか。それを喧嘩越しでしかいえなかったのはあいつらの性格の問題か。 「まぁ…それであの状態になった、と」 アスランがこくりと頷いた。 そこまで聞いて、力が抜けた。 なんだ、あいつら、結局なんだかんだでお互いをよく見てるし、分かり合っているじゃないか。 類は友を呼ぶってやつのかもしれない。 シンの無鉄砲さを、たしなめつつもフォローできるティエリアと、 ティエリアの辛辣さえも、鼻で笑い飛ばすぐらいのシンアスカ。 「…以外と、いい組み合わせなのかもしれないなぁ」 「え?」 「シンとティエリアは仲がいいってことさ」 言うと、アスランは、不思議そうに目をしばたかせた。 ああ、こいつはカンが悪いから判らないかもしれないな、なんて笑ったけど、ぼやぼやしてたら、その調子でシンが他のやつに取られちまうんじゃないか、と少しばかりアスランが心配になった。 |