21歳の刹那がやってきた話:4
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あだ名なんて勝手につけられて勝手に広まるって言ったのは、確かに俺だったけど、まさかこんなに早いスピードであだ名が決まって広まってみんなが呼ぶなんて、思ってもみなかった。
あの、おっきい刹那のあだ名は、「美人さん」になった。みんな「あの美人」って呼ぶ。それ、あだ名じゃないような気がするけど、まぁ判らないでもないし、みんなそう呼ぶからもう止めようもない。
俺と同じ歳の刹那は、相変らず「刹那」呼びだ。
でも、これで呼びやすくなったと思う。

「刹那」
俺は普通に刹那を呼ぶ。MSデッキで。
刹那は黙々と作業していた。
「せーつな」
もう一回呼んだけど、刹那は振り返らない。
エクシアの整備にどっぷりはまってる。
しょうがないなと、床を蹴って、刹那に近づいて真後ろからもう一回。
「刹那、なぁもう時間だ、上がろう」
結構大きな声をだしたつもりだけど、刹那は無視。…わざとだろ。
「刹那、刹那。俺の声聞こえてるよな?」
振り返らない。意固地だ。
だから、俺も意地悪をする。
「…どうせ拗ねるんなら、ロックオンだけ拗ねてろよ」
今度こそ刹那の身体が、ぴくっと動いた。拗ねてる原因をストレートに言ったからだ。
刹那は、ゆっくりと工具を置いた。ようやく作業をやめる気になったらしい。どうせ刹那のエクシアは完璧だ。整備だって穴がない。なんていったって、刹那の愛機なんだから。
くるりと振り返った刹那の顔は、いつものように無愛想。
でも、いつもより眉が上がってる。斜め上に。
「…俺は拗ねていない」
「拗ねてるじゃん」
「拗ねていない」
なんだよ、聞き分けないなあ。でもそうやって言ってくるのが拗ねてる証拠だ。
だから俺は、今度は笑ってやった。
「だったら、だぶるおーがんだむ?っての?あの美人さんの機体を睨むみたいに見るのやめろよな!」
「………」
刹那は、ついに本格的にむくれてみせた。むすっとした顔になる。どうやら本当にイラッとしてるらしい。
「…俺は睨んでない」
ああ、駄目だ。刹那は本当に拗ねちゃった。
「…じゃあ、それでもいいからさぁ、…ええと、晩めし。食いにいこうぜ」
こんな言い合いしてたって、刹那はどうせ言う事きかない。だから、強引に刹那の手を取った。
「…!」
「いいから早く!」
刹那は、俺が触れても拒まない。もう友達だからだ。

刹那を引きずるようにして、ずるずると刹那を食堂に連れて行く。
だけど、その食堂では運が悪いことに、ロックオンと美人さんが並んで御飯を食べていた。
…ああ、本当に運が悪い。

「よお、刹那。整備終ったのか」
ロックオンは明るく言うけど、刹那は無視だ。
俺の手を振りほどいて、さっさとカウンターでパイロット食を受け取ると、ロックオンのところには行かずに、コウさんのところへまっすぐに歩くと勝手に隣に座った。
コウさんはびっくりしていた。ニナさんと話をしている最中に、刹那が突然隣に座ったからだ。
(あーあ…)
ロックオンと口もきかないつもりか。
俺は、やれやれと思いながらも、刹那を一人に出来なくて、同じように隣に座った。
ロックオンも、深追いはしないみたいだ。

刹那は、コウさんとニナさんの事が、多分好きだ。
ニナさんはシステムエンジニアで、エクシアのパワーアップパーツも担当しているから、刹那が気を許すのは当たり前で、コウさんの事も好きなのは、時々コウさんがエクシアを褒めるからだ。いい機体だね、ってそんな一言と、俺にはワケわかんないような専門的な事を刹那に喋っているのを見た。多分あれから刹那はコウさんの事が好きになった。
だからまあ…知らない仲でもないとは思うけど。いきなり食事邪魔したけどいいのかな。…いいか。コウさんニナさんは、俺達が2人の仲に入っても怒ることはない。
あ。にんじんはいらない。…入れようとすんなよな。

「エクシアを強くしてくれ」
刹那があまりにも突然に、ニナさんにそう言った。
ニナさんは驚いて、口に入れようとしていたチキンを一旦プレートに戻した。
「今のままじゃ、ご不満かしら?」
「もっと強く」
「今でも充分強いわよ。近接戦闘なら、エクシアの横に出る機体はほとんど無いわ」
「…スラスターの加速可能範囲を」
「GN粒子対応型のパーツは、今、ありません」
ニナさんは、あっけなく切って捨てる。
刹那はそのあとも、ニナさんに食いつく。スラスターが駄目だと知ると、今度はコンデンサーがどうのとか、グリップの操作がどうだとか。
コウさんは、目をぱちぱちさせ、それから俺の耳元で、ひそひそ声をひそめて聞く。
「…刹那は…何かあったのかい?」
「あー…不機嫌なだけだと…」
多分。あの美人さんが来ちゃったから。
「なんか色々妬いてるみたい」
「…ちがう」
刹那はそこだけ聞き取ったらしく、素早い返事。
…ああ、判ったってごめん。もう言わない。…でも、どう見てもさ…。

コウさんは、さらに声を潜めた。
「あの美人さんが来たから?」
「…多分」
「…ああ、じゃあ刹那が妬くのも判るけど」
「えっ」
コウさんが、しみじみ頷いた。
…俺はびっくりした。
だって、コウさんって…そんな恋愛に…積極的?だっけ?
こないだだって、ニナさんをデートに誘おうとして失敗してなかったっけ…?
でも、コウさんは、うんうんと大きく頷いた。

「自分と同じ人間が、自分よりも性能いい機体に乗ってたら…ヤキモチを妬くのは仕方ないよ」
判るなぁと頷く。
「あ、そういうこと、ですか…」
ああ、そういうことで妬いてるのか。
刹那ならありえる…な。

ふと見れば遠くでロックオンが苦く笑っていた。
アンタ、判ってんなら刹那煽るなよな。
俺は睨んだけど、多分、懲りてない。