21歳の刹那がやってきた話:5
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「妬いていない」
そう答えるのは、一体何度目か。もう何度も言った言葉だ。
刹那はため息を吐いた。
「嘘つけ」
ロックオンが、飽きもせず迫るから、面倒になって逃げることにする。
けれどベッドは狭い。すぐに行き当たりになった。背中にはロックオンの肌。離れる事など出来ない。
これ以上、ロックオンから何かを言われるのは耐え難い。
ベッドから起き上がろうと、刹那は身体を捩った。
「待った」
「…ロックオン」
「行かせねえよ、刹那」
あっという間に背中から手を回され、ぐっと引き寄せられる。肌が密着して、首筋にもロックオンの唇が触れる。
「離せ」
「いやだって」
いい加減にしろと身体を左右に揺すってみてもロックオンは離れなかった。髪をひっぱってみても、蹴ってみても駄目だ。ロックオンの腕は動かない。
それどころか、首筋の裏に与えられるキスがどんどん深くなっていく。
刹那は眉を顰めた。
好き勝手言っておきながら、身体ばかりを求めてくる。勝手すぎる。
「離せ」
再度、言う。…けれど。
「…離せねぇ」
離さないではなく、離せない。
どういう言い訳なのだろう。勝手すぎる。
他人の前では、あんなにも聞き分けのいいことをやっておきながら、ベッドの中になった途端にこれだ。
刹那は知っている。これがロックオンの本性だと。
「刹那」
呼ぶ名が、どんどん湿り気を帯びてくる。だからこそ身を硬くし、身体を閉ざした。
刹那と呼ぶ、ロックオンの声を聞きたくないと思った。
「…やめろ」
「俺は、お前の名前を呼んだだけだぜ」
「あいつも刹那だ」
「…ほら、やっぱり気にしてんじゃねえか」
「………」
揚げ足を取られた。
こんな密着した状態で、自分のことは棚に上げて。
「…離せ」
意識せずとも、刹那の声が低くなる。
この状態が気に食わない。…とても、とても気にくわない。
ロックオンの誘いにつられて2度目のセックスなど、する気はまったく起きなかった。

「俺を離せ、ロックオン!」
叫んだ途端、部屋のドアが予告なく開いた。
ベッドの真正面にあるドアだ。嫌でもドアを開けた侵入者の姿は見える。
「…あ…」
薄暗闇の中に、通路の燦々と明るい光が差し込む。
だからこそ、たずねてきた人間が誰なのか、ロックオンにも刹那にもよく見えてしまった。
抱き合った身体は、何も身に纏ってない。
申し訳程度にシーツが身体に巻きついているぐらいだ。何をしていたかなど、嫌でも判る。

「…せ、つな」
ロックオンが呼んだ。ドアの前に立つ男の名を。
「あー…刹那、これは」
「すまない、邪魔をした。頼まれていた資料はここにおいていく」
何かを言おうとし、けれどその前に刹那が口を開くほうが早かった。
資料らしきデータスティックをドア横の机に置く。ドアが閉まった。あっという間にドアの向こうに消えた刹那。
まさに一瞬だった。
ベッドの2人を見ても、眉も動かさず顔色も変えず。まるで見慣れているとばかりに。

一方、呆然としたのはベッドの中の刹那だ。
何が起きたのか。頭が理解しきれていないが、この状態をあの男に見られて、けれど何も言われずに立ち去られたという状況だけは判る。
こんな不本意な状態を、あの男に。
わなわなと身体が震えたのは、その後だ。

「…あー…刹那?」
未だに抱き締めたままだったロックオンが、腕の中の刹那に問いかける。
腕の力は緩められていた。
けれどその腕から抜け出せなかったのは、刹那の震えの所為だ。
「…ドアのセキュリティは指紋認証なんだから、お前が入れるなら、あいつも入れるって事、忘れてたな、俺達」
つぶやくロックオンに、刹那の肘鉄が綺麗に決まった。