カミーユビダンが思う、刹那Fセイエイの心理。 ----------------------------------------------------------------- 僕が思うに、刹那Fセイエイという人間は、酷く単純に出来ているのではないかと思う。 今とて、MSデッキをふよふよと浮いている彼の目線の先にはエクシアというガンダムがある。 この戦艦の中で、彼を見つけるのは酷く簡単だ。 まず、彼は、このMSデッキに居る確率が高い。広い格納庫にはガンダムと名のつく機体が大量に入っているけれど、大抵彼は自機の傍に居る。 それでも見つからなければ、あの赤いマフラーを目安に探すといい。 彼は背も低いから、集団にまぎれている時はそうして見つけるのが一番だ。 赤を目印に刹那を探していたら、ジュドーを見つけた。その手にはいくつもの部品とチップ。おそらくまたジャンクパーツを拾って小銭稼ぎをしていると見える。…今度もう一度殴っておこう。殴って聞くやつでもないけれど。 さて今日、刹那はエクシアの傍には居なかった。 となれば、次に探すのは、コウウラキ中尉と、彼の愛機の専属メカニックであるニナパープルトンさんの傍にいるのが妥当だ。 刹那は、彼らのもとを良く訪れては、何をするでもなく後ろに立っている。ウラキ中尉とニナさんの会話を聞いているのだとは判る。彼らはガンダムに対する知識がハンパでない。それはGP01Fbだけに留まらず、ガンダムというガンダムに興味があるらしく、僕のZもあの2人の観察対象になった事がある。当然、刹那のエクシアも見ていたことがあるのは知っているけれど、その時に随分とエクシアを褒めた上に性能を細かに見ていたらしい。エクシアに詳しいものに刹那は心を許す。あの2人は合格ラインだったらしい。ほんの細かなデータのやりとりや、僅かなノイズ問題まで徹底的に解決しようとする、技術者の鏡のような彼らだからだ。当然、整備にも余念が無い。 いつだったか、エクシアのマスタードライバが上手く動かなかった時、整備士のイアン・ヴァスティと協力して直したのが、刹那にとって、さらに彼らの株を上げる原因だったらしい。 整備士以外に、エクシアを触らせなかった刹那にしては、最大の許容なのだと思う。 探していた刹那は、やはりウラキ中尉とニナさんの傍に居た。 2人の後ろにちょこんと立って、マフラーを無重力になびかせている。 しばらくそうしてじっと話を聞いていたようだったけれど、後ろに立たれている事に気付いたニナさんが、刹那に飴をあげた。口の中に棒つきの飴を銜えた刹那は無表情で、踵を返す。エクシアの元に飛んでいった。 随分懐いてるんだな、と思ってふうんと鼻を慣らした。 「…そんなに刹那を見つめたら、さすがのアイツも気付くぜ」 「うわぁっ?!」 いきなり話しかけられて驚いた。 見れば、丁度視界の死角に、薄茶色の髪を靡かせたロックオンストラトスの姿。 「居たなら声をかけてください」 いつから見ていたんだろう。悪趣味だな。 「どうした?刹那が気になるのか」 「…別に気になっていたわけじゃないですよ」 「そうじゃなきゃ、見つめてるなんておかしいだろ」 「おかしかないですよ」 この人と会話をするのがどうにも居心地が悪くて、Zのコックピットに入って火を入れた。 ブゥンと鈍い音を立てて、システムが起動する。けれどロックオンストラトスはコックピットの中に顔を入れて覗き込む。 「…何です?俺に用でも?」 「いいや?」 だったらなんでこんなところにいるんだ。 「…お前さんは感情がストレートだな。判りやすい」 「すみませんね。ひねくれているもんで」 「ひねくれてるやつは、そんな風に物欲しげな顔しないって」 「…物欲しげ…?」 気に食わない言われ方だ。含んだような言葉。 何が? …物欲しげだって? 言いたい事を適当に言ってるだけなんじゃないのか。 いっそ、コックピットハッチを閉じてやろうかと思ったけれど、ロックオン・ストラトスは、ハッチをまたぐようにして立っているからそれも出来ない。 出て行ってくれと目で訴えたけれど、彼は飄々としている。 …なんなんだろう。 この人が、僕達MS隊のマスターだっていうのは判っている。 あのコーディネーターのアスラン・ザラよりも、ニュータイプのアムロさんやクワトロ大尉よりも、戦闘になれば上の存在だ。 なんでこの人が選ばれたのか、理由は良く知らない。上には上の事情というものがあるんだろうと判ってる。 けど本人に言わせれば、「ただ面倒くさい役割を押し付けられただけだって」というのが弁らしい。 だからって、なんでこの人今俺のところに居るんだろ。 「…整備、したいんですけどね」 「ああ、すまないな。俺の事は気にせずにやってくれ」 気になるから言ってるんだけど。…この人、人の話真面目に聞く気あるのか? 人のことを物欲しげと言ってみたり、なんだか気分が悪い。 そもそも、物欲しげって、…この人は、そもそも刹那の…。 ああ、そういう事なのか。 理由が判って落ち着いた。肩の力が抜けた。 「…言っときますけど、僕は刹那Fセイエイに恋心を抱いているから、じっと見てたってわけじゃないですよ」 「…え?」 動揺させてやろうと思って言ってみたら、見事に驚いた顔で返された。なんでいきなりそんな事を言うんだって、鳩が豆鉄砲食らったような顔。 「だから、人のこと物欲しげとかいったじゃないですか。…僕は別に、」 「ああ、違うよ、違う。すまないカミーユ。そういう意味じゃない」 「はぁ?」 人が話をしてるのに、今度は笑いだした。くくくと喉を鳴らしながら腰を折る。腹で笑いだした。 …なんでこの人、俺のことで大爆笑してるんだ? イラッとした。 コックピットハッチ、閉じてやろうか。 別にこの人挟まれても死にはしないんじゃないか? ひとしきり爆笑してみせたロックオンが顔を上げた。口端をヒクヒクさせたまま。 …腹が立つ。 「そうじゃなくて、悪かった。俺が笑ったのは君が可愛いこと言うからさ」 「はっ?」 「俺が物欲しげって言ったのは、刹那と友達になりたいなら君から声をかけた方がいいぞ、って事で」 「……なっ…!」 笑いながら言われた言葉に、今度こそ腹が立った。 「何を!あなたは!」 俺がいつ、刹那と友達になりたいって!? 「気になるから見ちまうんだろ。君なら刹那といい友人になれるさ。歳も近い」 「何言ってんだよ!」 勝手にずばずばと物を言う。気に食わない。 「ハッチ閉めます。本当に出て行ってください!」 まだ爆笑しているロックオンストラトスの肩をぐい、と押して、急いでスイッチを押す。 ハッチは閉まった。 けれど、Zは全点視界モニターだから、まだ笑ってるロックオンの姿が見えてしまうから、余計にイラついた。 |