「あ…」
Zのコックピット内で作業していたカミーユは、その画面に出たエラーの表示に眉をひそめた。
「…これ…ちょっと…」
まずいかもしれない。キーボードを叩いて配列を変えてみても、エラーの文字は収まらない。
「まいったな…」
見れば、かなりこんがらがったトラブルだ。どうにかできるか?とやってみてもコンピュータはもとより、機体自体のエラーも出ている。これはどうやらひとりでなんとかするのは無理そうだ。
コックピットから顔を出して、左右を見てみるも、右隣の百式に肝心の大尉はいない。
そもそも忙しい人だから仕方ないかと、周りを見てみるけれど、アストナージの姿もないし、モーラも居ない。遠くにアスランとシンが見えるけれど、あれは駄目だ。何か言い合いをしている。
さらに顔を動かして周囲を見てみれば、いるじゃないか。GP−01bと名のついた機体の傍に、ふたり。
フルバーニアンのパイロットであるコウ・ウラキは整備が終ったらしくニナ・パープルトンと談笑している。
この戦艦のメカニックは優秀だ。それでいて美人も多い。MSデザイナーであり、整備も完璧にこなすニナ・パープルトンは、艦内でも1,2を争う美人だ。それをものにしてるウラキは余程の恋愛をしてきたのかと思えばそうでもないらしい。気付いたら一緒にいて、気付いたら付き合っていたという状態らしく、本人達はピュアな愛を貫いているらしい。なんとも羨ましい状態だ。まるでティーンエイジの恋のようだけれど。
(…僕なんて、この歳でもう大尉の愛人状態なのに…)
まだ十代だというのに、愛人なんてスタータス。欲しいわけでもなかったけれど。
人というものは個性があって違うものなんだから仕方ないだろ、とカミーユは他人事のように思った。
「あのふたりの手伝ってもらえそうだな…」
思いついて、Zの装甲を蹴った。


「すみません!」
「あらどうしたの、カミーユくん」
Zのボディを蹴ってフルバーニアンまでやってきたカミーユが、ふたりの前にすとん、と止まる。
「データの調整、手伝って欲しくて」
「ええ、ひとりじゃ大変だものね。手伝うわ」
「すみません」
快諾したニナは、さっそく準備するわねと手元のコンピュータを終了させるべくキーボードを叩く。その隣ではウラキがMSデッキをじっと見つめている。
「何見てるんです?」
「いや、…刹那とアムロさんは仲がいいんだなと思って」
「ああ…」
見れば、確かにふたりはつかず離れずに傍に居るのが見えた。
「あのふたりがよく一緒に歩いているのをよく見るよ」
「あら。今更なに言ってるの、コウ」
目に留まらぬ速さでキーボードを叩いていたニナが言う。
「ニナは知っていたのか?」
「当たり前でしょ。あんなにいつも一緒に居るじゃない。…それよりも、貴方はこっち。私がカミーユくんのデータをなんとかする前に、直しておいてね。」
「え?大丈夫だろ?」
「オートバランサーの調整は貴方自身で完璧にしてくれなくちゃ」
「判ってるよ…」
愛機であるフルバーニアンの調子は上々で、次の出撃にも無事間に合うだろう。
「調子よさそうですね」
カミーユがフルバーニアンの頭部を眺めながら思う。相変らずよく整備されていると思う。
「ありがとう。でもコウがもっとしっかりしてくれないと駄目ね」
「………」
ニナにぴしりと言われて、ウラキが肩を落とした。
「はい、カミーユくんおまたせ。いきましょうか」
「あ、僕も手伝うよ」
「貴方はオートバランサー」
「えっ」
「終ったら手伝って頂戴」
ぴしりと言い置いて、今度はニナがフルバーニアンを蹴る。
カミーユは苦く笑った。
このふたりはなんだかんだで上手くいってるのだ。

「お互い趣味が合うと楽しそうですね」
「え?コウのこと?んー…それは確かにそうね」
「羨ましいですよ」
さっそくZのデータバックアップのコードを引き伸ばしてニナのpcに繋げる。すぐさまデータの吸い上げが始まった。
「カミーユくんだって、…ええとジュドーくんと仲がいいじゃない」
「あいつは駄目です。すぐに金目当ての話ばっかりする」
「あら」
「MS論を話してても、いつの間にか、”ああ、あのMSはいい金になったな”って言うから萎えるんです」
今とてそうだ。ジュドーが居たら、こんな仕事はまっさきに手伝ってもらうのに、あろうことか自分のMSさえ整備を放り出して、近くの資源衛星まで偵察…という名のジャンク捜しに行ってしまった。
「ふふ。…あら?このZのシステムに入っている宇宙戦データは、アムロさんが作ったもの?」
「よく判りますね。そうです。僕が元データをつくって、あとはアムロさんが。あのひと本当にMSの動作プログラム組ませたら、とんでもないもの作りますね」
こんなに駆動系の性能よかったっけ、と思うほどに精密なものを作ってくる。
あのひとがパイロットをやっていて良かったと、カミーユは本気で思う。
もしもアムロが完全に整備だけを担当していたら、全機がとんでもない状態にチューンナップされてしまいそうで。
そんなアムロが乗るニューガンダムは、現在MSデッキの一番奥に鎮座している。それは見事に装甲がはがされてた状態だ。整備の真っ只中なのだ。
「ニューガンダム…どうなんです?」
MSデザイナーとしての意見も聞きたくてニナに話を振れば、思いの他、あまりいい顔はしていない。
「んー…どうなんでしょうね。いじり過ぎよあれは。アムロ大尉しか乗れないわね」
ニューガンダムは、フィンファンネルを装着した白と黒の鮮やかなコンスタントのガンダムだ。機能美に優れているその機体は今現在、改造の真っ只中である。
「…あれ…別に壊れたからいじってるわけじゃないですよね?」
「ええ。アムロ大尉がまた新しい機能をつけようとしてるのよ。ファクトリーで作った新しいオプションパーツの出来が良すぎたのね」
つまりアムロの悪い癖である「改造癖」が始まってしまったらしい。
「いいのよ、別に改造自体わね。悪い事じゃないし、私も勉強になるし」
「…不機嫌ですね」
「……。だって、ただ仕事が増えるだけなのよ。…それにほら、あの子だって物欲しそうに大尉の後をずっと追いかけてる」
「あの子?」
言われて、カミーユは目線を下げた。ニナが見つめる先には、アムロと刹那が居る。
あのコ。…刹那のことだ。
「コウが言うとおり、確かに刹那くんとアムロ大尉は仲いいわよね。あの刹那って子、誰にでも懐くわけじゃないから、心を許している人間はすぐに判るわ」
「確かに…。でも「ニナさんも、刹那に好かれてるじゃないですか」
「それは、私がエンジニアだからよ。前にエクシアのパーツ持っていって装備してあげたから」
それで懐いたのね、とまるで猫か何かに対するようにニナは言う。
「ふうん…」
なるほど。判りやすい。
「さぁ、データ処理、さっさとやっちゃいましょうか」
「そうですね」
ニナの横で同じようにデータを見つめながら、カミーユもコックピットに座り、手を動かした。…その時。

「…あれ?」
コックピットの中、モニタの横に何かおかしなものがはさがっている。
「どうかした?」
「いえ、…なんでも…。ああすみません、コックピット内の調整は、全部、僕がやります」
「あらそう?じゃあ私はメインユニットだけやるわね」
「お願いします」
適当に笑顔でごまかしながら、カミーユはそっと手を伸ばした。
モニタと機材のかすかな隙間。そこには1枚の紙がはさがっている。手にとってみれば、それはハガキサイズの封筒だった。
「…なに、…これ」
まんなかが膨らんでいる封筒だ。一体なにが、と封を開けてみれば、中からは飴玉がひとつと、写真が数枚カミーユの手の中に落ちてきた。
「……な…!」
その写真を見て驚いた。
写真に映ってたものは、全てクワトロの姿だったのだ。
(なんだよ…、これッ…!)
写真は全て盗み撮ったものらしい。ピントがずれているものや、ぶれているもの。さらには着替え中の写真まである。
さらに、封筒の中には、飴がひとつ。
なんなんだ。これは。…嫌がらせなのか?
「…誰だ…こんなことしたの…!」
封筒を持つカミーユの手が震えた。
いや、誰が、なんて想像はつく。
こんなふざけた冗談をやってくる人間なんて、ひとりしか知らない。
「あの、…ばかッ…!」
ぐしゃ、と握りつぶした写真と封筒を、ニナに見えないようにすぐさまポケットの中に隠した。


***



「ジュドー。お前だな?」
「……は?」
「とぼけるな!」
ジュドーの愛機が到着し、コックピットハッチが開いた途端、乗り込んできたカミーユに、ジュドーは面食らっていた。
「…え?ちょっと待って。なんでカミーユさん、そんなに怒ってんの?」
「理由さえ判らないのか」
「…だから…。ええと、なんのこと?ってか、どれに対して?」
どれ、だと?
どれだけ心あたりがあるというんだ。
カミーユはさらに眉を寄せながら、ポケットの中に突っ込んだままだった写真をジュドーの顔めがけて投げつけた。
「こんなものZのコックピットに入れやがって!」
「へっ?」
投げつけられたそれを手に取り、ぐしゃぐしゃになった写真をいくつか開いてジュドーは目を見開いた。
「うわっ?!なんでこれがカミーユさんとこにあるんだよ!」
そら見た事か。やっぱりお前じゃないか。
ジュドーの前で腕を組んで見下ろした。ふんと鼻を鳴らす。
「なんの嫌がらせなんだ、これは」
「いや…だってさ…これいい金になるんだもん…クワトロ大尉のこと好きっていう女の人、多いんだよねー」
へらと笑ったジュドーにカミーユはさらに呆れた。
「だからって隠し撮りか。趣味が悪い」
「…まあ…カミーユさんのも隠し撮りなんだけどさ…」
「ん?」
「あ、なんでもない」
首をぶんぶんと振る。
あぶないあぶない。これ以上悪行がバレたら本気で大目玉を食らってしまう。
どうやらカミーユにはクワトロの隠し撮りだけがバレたようだとジュドーは安心した。他のクルーの写真はまだバレていないらしい。それは助かる。
美形が多いと言われているこの艦の中で、クワトロだけが隠し撮りされているはずがない。カミーユはもとより、アスランやキラ、ロックオンにアムロ。それはそれはよりどりみどりだ。

「で?…なんでこれがZのコックピットにあったの?」
「なんだよ白々しい。おまえだろ」
「…いや、これ売ったのは俺だけど…。カミーユさんのコックピットになんか入れてないよ」
「嘘つくなよ」
カミーユの足が、ガン、とジュドーの脛を蹴る。痛い。
「ちょっ!足癖悪いな!」
「お前の金汚なさほどじゃない!」
「どっちもどっちだ!てか、なんで俺がカミーユさんを喜ばせるようなことしなくちゃならないんだよ!」
「…よろこっ…!?」
「だろ?大尉の写真なんてあげたら、カミーユさんのオカズにされちゃうじゃん!」
「…ばっ!!」
途端に真っ赤に顔を染めたカミーユが、持ち前の空手の技術でジュドーに殴りかかろうとし、けれど狭いコックピットで足がつまずいて見事に倒れこんだ。衝撃でハッチが閉じられる。
しかも、無理に動いた所為で、そこらへんのスイッチを押してしまった。
『…うわっ、ジュドー、おまっ』
『違うって!カミーユさん、うわ、ちょっと!そんなとこ触んないでッ』
『お前が静かにしてろ!』
『あっ、ちょっ、そこ俺の股間!』

「…なに、この声」
MSデッキに居た皆が、1機のMSを見上げる。
そこから発せられる声は、見事に戦艦全体に響き渡ってしまい、その日、ジュドーとカミーユは、艦長であるタリアにこっぴどく説教をされたのである。


***


戦艦食堂で、食器の後片付けをするカミーユとジュドーに笑顔は無かった。
罰として、1日食堂の当番を命じられたのだが、いい笑いのネタだ。来る人間皆に「仲いいじゃないか」と笑われ、あげくに「コックピットでやるときゃ気をつけろよ」なんて下品に笑わる始末。
そんな状態でも、皆に食料パックを渡さなければならない羽目になった。

「……で。あれは結局、誰の仕業なんだよ」
「知らないですって」
ガチャガチャと食器を泡立てて洗う。肩を並べてシンクに向かいあっているが、巻き込まれたカミーユは、むっつりとした表情のままだ。
「写真入れた挙句、飴まで入れるなんて、よっぽど愉快犯だなお前」
「飴ぇ?なんでそんなもの…」
「知るか。入れただろ。それも子供が好きそうなやつを」
「飴かぁ…そういえばウラキさんが持ってたな、飴」
「ウラキさんが?」
「うん。刹那とかシンにさ、あげてるの見たよ」
「………は?」
それが何故、写真と一緒に入れられているんだ。
「お前がやったんだろ?」
「だから俺じゃないって!そもそも俺飴なんて持ってない」
「嘘つけ」
「嘘じゃないって!俺の部屋知ってるでしょ!?」
言われて、ふと思い出す。ジュドーの部屋にはしょっちゅう入り浸っているカミーユは、どこに何があるのか手に取るように判っている。…ああそうだ。確かにあの部屋に飴なんてない。MSデッキに収まりきらなかったジャンク品が溢れかえっているけれど。
「本当にお前じゃないのか」
「違う。俺がイタズラするなら、Zに挟むのはクワトロ大尉じゃなくて俺の写真」
「………。」
ジュドーのセミヌード写真?…ああ、確かにやりかねない。
「お前、ばか?」
「失礼なこと言うね、カミーユさんは!」
ぴしゃ、と泡立った水を掛けられたから、倍にして返した。ジュドーの顔は泡まみれだ。慌てて顔を拭いている。
しかしこれで、あの写真のイタズラがジュドーでないことは確定だ。…ということは誰だ?
わざわざ写真を買って、飴まで入れるような愉快犯。
「ウラキさんがそんな事する人じゃないし…」
「うわ…、信頼度高いんだなぁ」
「お前とは違うからな」
「ひで…」
乱暴に顔を拭いたタオルをぽいと放った。ジュドーが洗ったグラスはまだ泡がついている。注意しようかとも思ってやめた。どうせ叱られるのはジュドーだ。
さっさとこの片づけを終らせないと、休む時間もなくなる。

「お、やってるな」
「ロックオン」
洗いもの真っ最中のふたりを覗き込んだのはロックオンだった。そういえばまだ食事を取っていない人が2人居るはずだ。
「遅番ですか?」
「ああ、遅くなって悪いな。あとは俺と刹那だけだ。さっさと食べちまうから」
「大丈夫ですよ」
申し訳なさそうに言うロックオンに、カミーユは残りの2つを渡した。これで給仕は終了だ。トレイを片付けて、途中だった皿洗いを再開する。
「…にしても、さっきはふたりして何騒いでたんだ?面白そうだったじゃないか」
「…もう面倒で説明もしたくないんですけどね…」
何度同じようなことを突っ込まれたか。いい加減馬鹿らしくなってきた。あの写真をZに入れた犯人を捜そうとも思ったけれど、それさえ面倒くさくなる。
「ま、いいレクリエイションになっただろ」
「だからってこんな余分な仕事させられるのはごめんですけど。ジュドーの馬鹿のせいで」
ちら、と目線を送ってみれば、ひでぇなーと苦く笑っている。どうやらジュドーはすでにこの状態を楽しんでいるらしい。楽天的だ。
一方、ロックオンの横に並んで食事を取っている刹那は、無言だ。いつものことだが、なかなか会話をする機会がない。さっきはアムロの隣にちょこちょこしていたと思ったけれどもう辞めたのか。
「あ、そういえばロックオンさん。今ね、犯人捜してるんですよ。知っていたら教えてくれません?」
片付けながら、ジュドーが顔を出す。
「犯人?」
「そう。カミーユさんのゼータにイタズラした犯人」
「イタズラぁ?なんだそれ」
「そもそもそれの所為で、俺達こんな事する羽目になってて」
まさか犯人がロックオンだとは思えない。案の定、なんのことだとロックオンは首をひねっている。カミーユはため息を混じりに話を始めた。
写真の内容までは言わないが、コックピットに挟んであったものの所為で揉めたんだ、と。
「ジュドーの悪ふざけに付き合うような人間なんて、この艦にいるかどうかも判んないですけどね」
「うわ…俺本当信用度ないな…」
「当たり前だろ」
つん、とそっぽを向いたカミーユに、ロックオンも心あたりがないと首を振った。
「てか、写真なんて出回ってんのか」
ロックオンの目線がジュドーを見た。
「…えへ」
笑って誤魔化そうとしたジュドーだが、ロックオンは聡い。おそらく自分の写真も撮られているのだろうと想像がついたようだ。心あたりがあるらしい。
「悪いな。俺じゃ判んねぇよ。もしなんか判ったら言うよ」
「…いいですよもう…。なんか疲れてきました」
結局犯人はわからずじまいか、とカミーユがため息を吐いたところに、思いもがけない声が上がった。
「…それをやったのは俺だ」
「…へ?」
「え?」
声がした方を一斉に見れば、それはロックオンの隣でミルクの紙パックを持った刹那だった。
今、刹那がやったといったのか?
…あの写真のイタズラを?
一瞬の無言の空白。想像の時間。
最初に口を開いたのは、隣にいたロックオンだった。
「…なんでお前?」
ロックオンは首を捻る。おかしいだろう。そんな遊びを刹那がするとは思えない。けれど刹那はこくりと頷く。
「本当にお前なのか?」
「ああ。Zガンダムのコックピットに、クワトロ・バジーナの裸の写真と、飴を挟んだ」
「…うわぁああ!?」
写真の内容を見事にばらされて、カミーユは思わず慌てた。
「…ちょっと待て、なんでそうなる!?」
刹那以外の3人が、どうしてだと驚く中で、刹那だけが冷静だ。まるで悪い事をしたという意識もないほどに。
「なんでそんな事したんだよ、お前…。だいたい飴なんてどこから…」
「コウ・ウラキに貰った」
「なんで」
「くれた」
それこそ何故だ。
…ああいや、まて。刹那が子供に見えたからか。
いや、違う。おそらく刹那が、興味を持ってウラキのガンダムの傍に居たからだ。ウラキも刹那も重度のガンダム馬鹿だから。
「飴は判った。…で、写真は?」
「売っていたので買った」
「マジか…でなんで?」
「カミーユ・ビタンにあげようと思った」
「…お前いつも言葉が少ねぇって!だからなんで!」
「そうすればいいと、ジュドー・アーシタが」
「…はっ?」
思わず、カミーユとロックオンがぴしりと固まった。
一方名前を出されたジュドーが、「あれ?」と首を捻って苦く笑う。

…そこまで来て、なんとなく理由がわかった気がする。
ウラキにもらった飴、
ジュドーの悪い知恵。
そして、アムロやニナに負けない、カミーユのMS基礎構築能力。

「…あー…そういえばお前、こないだカミーユのシステムデータ、熱心に見てたっけな…」
「はっ…?」
全ての事情を察したロックオンが、ぽつりとつぶやいた。
「それでもってあれだ…お前がクワトロ大尉の部屋から出てきてるのも見ちまってんだよ…こいつ」
「…な…!」
ロックオンは申し訳なさそうに言っているが、つまり、だ。ここまで言われて、カミーユもようやく判った気がした。
刹那はまっすぐにカミーユを見ている。しかし、それはどこか物欲しげな顔だ。
「…刹那…きみ」
いや、…確かにカミーユとて刹那と仲良くなりたいとは思っていた。彼の真摯なまでの態度は、いっそ気持ちがよかったし、どこか守ってやりたいと思えたからだ。それでも歳など1つ2つしか違わないのだが。

刹那の考えが、カミーユも手に取るように判った。
喜ぶと思ったのだろう。刹那は。
(…僕が大尉のこと、好きって知ってたから写真手に入れて…飴も貰ったから喜ぶだろうと思って入れたんだ…)
そう。それは刹那とて不器用なりの意思表示だったのだ。

「けど…これは回りくどい…」
ぼそりとカミーユは本心を呟いた。
刹那はその言葉にピシリと固まった。ショックを受けたらしい。

その一言が原因で、カミーユと刹那の距離は、やはり縮まることは無かった。