カミーユビダンとシンアスカの、夜の話。
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なんで俺、こんなのに付き合ってるんだろう。

透明なコップに並々と注がれた液体は、透明。
ただし、これはミネラルウォーターとかそんなものじゃない。アルコールだ。それもかなり強いやつ。
飲め、と言われて置かれたけれど、飲めるわけがない。目の前にべろんべろんに酔っ払ったカミーユさんがいるんだから尚更に。飲んだらこうなるっていう悪い見本みたいなものだ。
ぐったりしてる姿を見るに、この後介抱しなきゃならないのは俺なんだろう。多分。
食堂を見渡したけれど、時間が遅いだけあって、周りには誰一人いない。それに、もしも誰かがこの食堂に入ってきたとしても、こんなカミーユさん見たら、やっかいごとだと直ぐに見抜いて逃げてしまうと思う。
それこそ、こういう人の介抱って、隊長とかのが面倒見れるんじゃないのか?あとあのロックオンとか。あーあ、どうしようもねぇなって諭した上で、たいちょーに、ほら運ぶんだシン、とか言われるんだきっと。ああいうリーダー気質な人なら、うまく纏めてくれると思うけど、俺だけじゃこのカミーユって人をどうこうする事は出来ない。

さっきから、そろそろ部屋に戻ったら?って言ってるけど、酔っ払いにどれだけ言っても無理だ。余計に酒を煽られて、俺はそれに付き合わされる。
しかも、さっきからクダを巻いて話をしている事が、他人には聞かれたくないような事だから、さらに困る。
でもいい加減、そろそろさぁ…。

「あー…俺、明日早番なんですけど」
「…おまえが、僕の質問に答えたらな…帰っていいぞ…」
「マジでありますか…」
それじゃあ帰れないじゃないか。
カミーユさんの目は据わっている。酔っ払いなのに、頭だけは働いていて、…面倒くさい。
さぁどうするかなぁ。
カミーユさんの質問てのが、最高に答えたくないんだけど、でもなぁ。

「質問答えたら、カミーユさん部屋に戻ってくれるんでしょうね」
「ああ。帰るさ。それで悩んでるんだからな」
「…誰にも言わないって約束は、」
「言うわけないだろ、こんなこと」
失礼なこと言うなって顔して、眉間に皺を寄せられるけど、俺怒られる筋合いないんだけど。
腹立つなぁと思ったら、また、ぐいっ、と酒を煽られた。あー…。
もういい加減に…。
わかった、腹をくくればいんだな!それでこの人もう飲むのやめるんだな!?
覚悟だけは決めた。

「じゃあ、俺言いますよ。質問に答えます。…ええとですね、…ショック受けないでくださいよ。嘘つきませんから」
「…ああ、言ってみろよ」
煽られて、すっと息を吸い込んだ。
「……………。俺の場合は気持ちいいですよ。カミーユさんと違って」

言ってしまった。

途端、カミーユさんはぴたりと動きを止めた。
とりあえず、返答を待つ。でも答えは帰ってこない。黙られるとつらい。待つのは苦手だ。
少し待った。
でもやっぱり答えは帰ってこない。その上、カミーユさんはグラスを握ったまま動かない。まるで一時停止ボタン押したみたいに。
もう少し待ってみる。
動かない。
…イラッとした。
目の前には酒。
…うっかり煽ってしまった。飲まないと決めたのに。

「そうか…君は気持ちいいのか…」
ぼそっとカミーユさんがつぶやいたのはその直後で、うわ、そんなすぐに喋るなら飲むんじゃなかった!と思った。
カミーユさんは、気持ちいいのか…ってぼそぼそと何度も言う。
そんなに言われるとなんだか更に恥ずかしい。
照れたけど、腹はくくったし、もう言ってしまったものはどうしようもないから、
「ええ、気持ちいいです。カミーユさんは気持ち悪いってんですよね。それは可哀想だと思いますよ。せっかくヤってんのに気持ちわるいって」
「………」
はっきり言った。
またカミーユさんはフリーズし、けれどすぐに解けて、また酒をぐいーっと。
「ちょっ!部屋に戻るって言ったのに!」
「ああ、帰るさ、これを空けたらな」
「マジかよ!」
あーもう、この人どうしてくれよう。
前髪をぐしゃっと潰したら、視界がなんだかふらっと揺らいだ。…やばい、こっちも酔ってきた。この酒ホントに強いんだな。

セックスは気持ちいいか。
それがカミーユさんに言われた質問だった。
そんなの答えられるわけないと思ってたのに、今この有様だ。

カミーユさんは気持ちよくないという。
でも俺は、そんな風には思えない。痛いけどさ。なんかものすごい恥ずかしいけどさ。…気持ち悪くて痛くて痛くてたまらないってものじゃない。
だってしょうがないじゃないか。セックスなんて人それぞれだろうし。そもそも男同士のセックスなんだから、合う合わないっていうのがあるのは仕方ないことなんじゃないのか?
他の人がどういう感想を持つかなんて知らない。人とこんな話したことがないし。…今度刹那にでも聞いてみるべきなのかな。…いや、刹那は多分なにも言わないと思うけど。じゃあロックオンに…ああでも嫌だ。人の聞くのはいいけど自分のを人に話すのは嫌だ。


カミーユさんのコップ酒はどんどん無くなる。注ぐ。ぐいぐい飲む。
その瓶がなくならないことには無理らしいから、こっちだって飲む。もう一口飲んでしまったら後は同じだ。
それで、数杯を開けた頃、こっちも気分がよくなって、頭がゆらゆらしだした。
もうどうにでもなれって思った頃、またカミーユさんは、セックスについて呟きだした。

「…入れる前なら、気持ちいいんだ…」
「そりゃ、入れるのが一番痛いし大変なんだからしょうがないんじゃないのかよ、…でありますー」
「シン、お前はそのおかしな敬語を何とかしろよ。…いや、けど入れても気持ちいいって言うんだろ、お前は」
「あーだから、ええ、そうですよ、悪いですか」
「…悪くはないさ。羨ましいと思っただけさ。…こっちは毎回、内臓ぐちゃぐちゃになりそうなぐらいに気持ち悪いし痛い。入口も切れるし、翌日にも響く。拷問みたいだ」
「なら、いっそ辞めればいいだろ!」
言ったあとで、はっ、となった。
ついカッとなって言ってしまったけど、言ったらいけない言葉だった。気付いてもあとのまつりだ。
けど、俺の言葉に、カミーユさんは、怒るでもなく落ち込むでもなく、ふっ、と小さく笑った。
「けど、僕にはこの身体しかないんだよ」
自分に言い聞かせるみたいに笑って、カミーユさんは言う。
ぐたっと身体から力を抜き、なのに表情だけはすごく伝わってくる。苦しそうな顔。

カミーユさんは、この身体しかない、って言った。
…セックスする理由が、この身体しかないからって。
…なんだよ、それ。
なんか、おかしくないか?

「…それって、変じゃないですか」
「変じゃない。僕と大尉は、そんなもんだ」
「そんなもんって…」
セックスってそういうもんじゃないと思うんだけど…。好きじゃないのにセックスしてるって事なのか?…じゃあ上官命令でやらされてるとかそういう事なのか…?いや、あの人はそういう人には思えなかったけど…。どういうんだ?
(うーん…)
酔っ払った頭で考える。
カミーユさんはそんな俺を見てまた笑い、コップにトクトクとアルコールを注いでいく。俺のグラスにも。
「…君はいいな。…ちゃんと繋がってる…」
繋がってるって…ああ、アスランさんと、って事…?
「こころがさ。…ちゃんと身体と一緒じゃないか…繋がってる…」
「…あー…でも喧嘩ばっかりですけどねぇ」
「それがいいんだよ。僕と大尉には喧嘩はない。心が離れているからだ」
「……」
なんか難しい。
理解しにくい。
大人の恋愛みたいだ。嘘とか、付き合いとか、そんなのばっかりの。
でもこのカミーユさんて人は、確か俺とそう歳は変わらなかったはずだ。まだ17とか18とかそのぐらい。
好き=付き合う じゃないんだ。
セックス=恋人 じゃないんだ。
俺は、そういうの理解できないから、よく判らない。好きじゃなかったら一緒に寝ないよ。

「…カミーユさんは、複雑な恋愛してんですね…」
「恋愛、じゃないさ。だから身体が欲しいんだ」
ほら、やっぱり難しい。
恋愛じゃない。
身体だけ。
…そんなの、難しい。こころと身体が別々って事だ。
駄目だ。もう考えられないや。頭の中、くにゃくにゃしてるし。難しい。
カミーユさんの身体は、ずるずると力を失って、テーブルに突っ伏していく。

「…あの人のこころは、俺のところには無いから…だから身体、欲しいのに……なぁ…」

目を閉じながら、呟いて、カミーユさんは唇を閉じた。
寝ちゃったのかな。判らないけど。

握りしめたままのグラスの中に、アルコールはあと少しだけ入っていた。
力が抜けきった手から、グラスを取り上げる。
カミーユさんの手はとても細かった。