抜いた直後の不快感は、いつまで経っても慣れない。

目の前にはシーツの白。
その白を掴もうとして、後ろから羽交い絞めにされている手に阻まれる。腕さえ自由に動かない。
ギシギシと鳴るベッド。
まるで取り憑かれたかのように、激しく動く腰。
熱さと、押し付けられる肉の感触。
ひゅ、と息を飲んだ音が耳元で聞こえた。
くる、と判って目を閉じる。シーツは掴めない。
ぴたりと止まった呼吸。次の瞬間、中に発射される精液。
どく、どく、と数度の脈動と、細く長い息を吐き出す音。後頭部にかかる生暖かな感触に、ぶるりと震えた。
羽交い絞めにした腕は強く、未だ離される事もなく、ただ受け入れるしか出来ない事に、苛立った。
また、中に出された。

やがて、身体が弛緩し、背中に落ちてきた身体を否応なく受け止める。高ぶった熱い体温が、背中圧し掛かった。
「すげえな…刹那」
ふいに、柔らかな声が聞こえて、目を開けた。
首筋にロックオンの顔がある。
「お前の身体、熱い」
…いきなり何を。お前の方がずっと熱いと思いながらも声が出ない。
身体は強張ったままで、力を緩めることさえ出来なかった。
やがて、ようやく満足したのか、熱い身体をすりつけていたロックオンが上半身を起こした。熱かった身体同士が離れて、ようやく僅かに息を吐く。背筋がぶるりと震えた。この後どうなるかは判っている。
「抜くぞ」
「…ゆっくりやってくれ」
「ん?」
「…こぼれる」
「ああ、判った」

何度出したのか覚えていない。ただ、お互いに充分満足するぐらいの射精をした。
他人との2部屋で、こうしている事さえ問題なのに、シーツを汚すわけにはいかない。
こっちの分は全部タオルに射精させたくせに、ロックオンは全て中に出す。
腹がぐる、と音を立てていた。
痛みやら、不快感やら、ただでさえ気持ち悪くてならないのに、今からもっとも嫌いな作業が待っている。

「…抜いて大丈夫か」
大丈夫なわけがない。
「ああ」
零れるな、と念じながら、ゆっくりと抜かれていくのを身体で感じる。ようやく握り締めることが出来たシーツに絡んだ手は、拳を握る。力を抜けば、どろりと零れてしまう気がした。
「そんな力込めんなよ、大丈夫だ」
ずるずると全長が抜かれ、やがて、どろり、と萎えた物体が抜け出た。
ぐ、と力を込めているものの、果たしてシーツを汚していないのかどうか、判らない。力を込めたまま、汚れたタオルを掴んで、シャワーブースに足を向けた。
「…出て行け」
「処理してやろうか」
言葉には返さずに、振り向いてじろりと目を向けると、悪かったよ、と肩を竦める姿。
「今度はゴムを用意するさ。…オフが貰えた上に上陸許可が下りたら、だけどな」
下着を身につけ、ジーンズを履く。あっという間に着替え終えて、部屋を早々に立ち去ろうとする姿。
「とにかく今は時間がねぇし、お前と同室のアイツだってそろそろ帰って来る時間だろ?」
「ああ」
今は居ない、同室のもうひとつのベッドを見た。散らかったベッド、無造作に置かれた軍服と端末。コーヒーの空き缶。
シンはすぐに帰って来る。スケジュールでは哨戒をしているはずだ。たいした時間もかからずに終って帰って来るだろう。

「刹那、メシは」
「…浴びたら行く」
「なら、待ってる」
「いい」
「素っ気無いね、お前は」
笑うように言って、部屋を出て行った。けれど、おそらく食堂で待っているだろう。
シャワーブースに入って、コックを捻る。熱いシャワーを浴びながら、床に座り込んだ。尻を浮かした。…ここからは嫌な作業だ。
それでも、待っているであろうロックオンを思えば指は躊躇いなく奥まで入り込んだ。

…待たなくても、いい。
ロックオンが仕事を大量に与えられているのは知っている。
それが、ひとりではとてもやりきれないような量だということは。
パイロットだけをやっているのとは違う。
あのアスランザラを見ていても判る。

部屋も変わった。
同じ時間を過ごすのも減った。
なのに、それでも。
(…潰れないのか…)
この、関係は。

目の裏に浮かんだロックオンの姿を思いながら、指を動かした。
収まったと思っていた熱い息が、ブース内に木霊した。




全てを終えて、服を着込み、タオルを首にかけながら部屋に戻れば、もうひとつのベッドに人の姿。シンだ。
「…帰っていたのか」
「早く終ったんだ」
「…そうか」
前髪からしずくが落ちる。タオルで拭きながら、終ったままだった自分のベッドのシーツを剥がした。食堂へ行くついでにランドリーに寄るつもりだった。

赤い服が、背中を向けている。その背は丸まっていて、どうやら端末か何かを弄っているらしい。

『連携を取るなら、同室で仲良く』
この同室が決まった時に言われた言葉を思い出す。
いつまで同室なのかは判らないが、つまりはコミュニケーションを取れといわれているのは判った。
『ねえ、刹那くん。友達作るの苦手だと思うけど、…シンくんは君とは正反対のコだけど、だからこそ分かり合えると思うんだ。だからひとまず同室で話をしてみて』
フリーダムのキラヤマトが言った。にこりと微笑む笑顔と、ぽんと叩かれた肩。
さっそく理不尽を訴えて、怒鳴っているシンアスカ。

友達。
…この、シンアスカと。

「……俺はランドリーに行く」
「は?」
シンが振り返った。あからさまに不思議そうな顔で首を傾げる。言葉が思いつかない。
「…ランドリーに行く」
「判ったって。だから?俺の分も持って行ってくれるってこと?」
そうだ。
こくりと頷いた。
シンは端末を手に持ったまま、しばらく口をあけてこちらを見つめ、やがて、いいよ、と否定の言葉。
「…シーツ2枚も洗うの大変だからいい。俺、あとで自分で持ってく。だから刹那はその汚れたシーツ洗ってこれば?」
「………」
言い切られた。
本当にいいのか、とシンの赤い眼をじっと見つめると、やがてその目が揺れた。まるで動揺したように。
「…だから!俺のは汚れてないんだよ!最近、ここでやってないから!だからお前はひとりで洗えばいい!」
今度は怒鳴って言い切って、ひとりで話を完結させると、背中を向けてシーツを引き上げてしまった。
シーツの繭の中、シンの形。
「…いいのか」
「いいんだよ!」
何故怒鳴るのか。
判らないまま、シンの黒髪を見つめた。
僅かに見えた、髪と軍服の隙間。首の裏に幾つもの赤い痕があった。