刹那Fセイエイが好意を寄せるアムロレイと、その相対的な関係について
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「アムロさん、なんか後ろから付いてきてます」
「ああ、判ってるよ」
格納庫、ゼータのコックピットの高さまで上げたカーゴの上。
アムロさんはモニタと部品から目を離さず、さらに手も動かし続けながら、それだけを簡潔に答えた。カチャカチャと部品をはめ込む音が続いている。気付かせてあげようと思って言った言葉なのに、まるで気にしていない風だ。
…けど、幾らなんでも、僕達の後ろからあれだけじっと見つめられてると…落ち着かないんじゃないのか?
「…アムロさん」
「カミーユ、今から数値読み上げるから、そこの端末に入力していってくれないか」
「ええ、やります、やりますけど」
駄目だ。
アムロさんは、さっぱり僕と話をする気がないらしい。
仕方なく、端末取り上げて、アムロさんがとてつもない速度で言うワードを、端末に打ち込んでいく。
…ああ、ちょっともう、相変らず早いなこの人は…!…いや、ついていけますけど、これっ、エンジニア以外の他人にやらせたらまず無理ですよ!



アムロさんは、整備馬鹿だ。
そんなの、この戦艦のみんながわかっている。
そう言ってる俺だって充分にMS馬鹿だって事も判ってる。新しいパーツやら、MSの駆動やらを開発していくのは趣味だ。アムロさんの穴倉生活に付き合うこともある。

アムロレイ。
確かもう三十路近い歳になると思う。
パイロットの中では最年長に近い。けど、今、MSパイロットの中で、マスターっていう一番上の立場は、ロックオンストラトスだ。
本来なら、アムロさんがなるはずだった。けど、それを断ってしまったのは、ただ単にこの人がパイロットというより、整備や開発に余念が無いからだ。
ロックオンストラトスもそれが判っていて引き受けているのだから、アムロさんの開発馬鹿をとめる人は誰も居ない。この人は、MSに乗っても一流だけれど、それ以上にMS開発に目がないんだから。
今とて、新しいオプションパーツが手に入ったからって、僕のゼータにさっそくつけてくれているわけだけど、…あー、性能引き出したいのは判りますけどね!

アムロさんが数値をはじき出していく。僕はそれを打ち続ける。Zのポテンシャルはどんどんあがっていく。それはいいけど。
…やっぱり背後…というか、ゼータの足元でこっちを見上げているあの子供が気になる。
ちらっと、目線を下に落とした。
Zの足元。こっちをじっと見ている目がある。赤茶色の目。
背もそんな高くなく、顔つきだって子供みたいなくせに、目だけがやたらと鋭い。
刹那Fセイエイだ。
見上げる刹那の目は、アムロさんだけをじっと見ている。目を離そうともしない。
でも残念。アムロさんは今、新しいパーツにかかりっきりです。最高の数値を出さない限りは、多分ここから離れない。この人、開発馬鹿なんだ。だから諦めてくれたらいいのに。…ああ、でも君もガンダム馬鹿だったか。なら似たもの同士。だからアムロさんを待ってるのか。

溜息が出た。
それをアムロさんがようやく気付いたらしく振り返る。
「どうしたカミーユ」
「どうしたもこうしたもありませんよ。ほら呼んでますよ、刹那が」
言って、ひょいと下を示すと、数度まばたきをし、何かを一瞬考え、それから顔をばっ、と上げた。
「……ああ!約束をしていたんだ!」
どうりで。
時計を見て確認して、顔をしかめる。約束の時間はかなりすぎているらしい。
「カミーユ、あとはバランス調整だけだから」
「はい、判ってます。あとは一人でやれますよ。データは後でアムロさんのトコに送っておきます」
「頼む」
カーゴを下ろすと、アムロさんはすまないと声をかけながら刹那と一緒にエクシアに歩いていってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、身長差が兄弟みたいだ、なんて思う。
アムロさんと刹那Fセイエイ。
20センチぐらい違うんじゃないか?歳だって、10歳以上違う。歳の離れた兄弟みたいだな。

「あれ…?アムロさんは?」
そんな時に、タイミング悪くやってきたのはジュドーがきょろきょろとあたりを見回す。
なにやら手に持っているのは、小さなディスク。どうやらデータの提出か何からしい。
「あっちだ。今、刹那の相手をしているから、あんまり近づかないほうがいい。刹那が怒るぞ」
「へーぇ、またエクシア見てもらってんのかぁ」
こないだも出力の調整だとかなんだかとか言ってたけど、と呟きながら、ジュドーが2人の背中を見つめる。
「ゼータにも新パーツついたんじゃなかったわけ?」
「俺のはもう終る」
「放っておかれたんだ」
「馬鹿言ってんじゃない」
にや、と笑って顔を突き出してくるから、その頭にゴツンとこぶしを落とした。
ジュドーの話に付き合ってる暇はない。
さっさとこの仕事終らせて食事をしたい。端末を持ち直した。

…放っておかれた、だって?
何を言ってるんだ、まったく。
あの刹那Fセイエイが、ガンダム馬鹿だって事は知ってる。
そしてアムロさんが、エクシア用に新パーツを準備していた事も知ってる。
エクシアが強くなると刹那は喜ぶ。(顔には出さないから判りにくいけれど、僕達は感覚が少しばかり鋭いから喜んでいることぐらいは判っているつもりだ)
だからこそ、刹那Fセイエイは、自分の機体を見てくれるアムロさんを買っている。人にあまり心を開かない刹那には珍しいこと。
「寂しそうな顔だなあ」
「…僕が?」
「そうだよ」
そう言って、にっ、と笑うから、なんだか気分が悪い。
「俺はアムロさんを独占したいとか、そんな風に思ってない」
言い返してやったのに、ジュドーは、目をぱちりと瞬いて、「はっ?」って顔。そうしてまた意地悪そうな顔を笑うのだ。
「何を勘違いしてんだよ」
「勘違い?」
「カミーユさん、まだ刹那と友達になってないんだ?」
にいい、とさらに口端を上げて笑うジュドーの顔に、ムカッときた。
「何?」
「怒るって事は図星だなー。カミーユさん、人付き合い苦手だもんねぇ」
「馬鹿な事、言ってんじゃないよ、あの刹那は他人に早々懐かないのはお前だって判ってるだろ」
「そお?コウさんあたりには、懐いてるように見たけどさ?」
「あの人は…エクシアを褒めたからだろ…」
ウラキ中尉とは、同じガンダム馬鹿なんだから、気も合うだろう。
そもそも、同じ趣味の人間にしか心を許さないのはどうなんだ。そんなの、人を選んでいるだけだ。
子供じみてる。
「お前もさっさと仕事しろよ」
付き合っていられるか。
気分が悪い。ジュドーにこれ以上絡まれるのは嫌でカーゴを上昇させたのに、声が下から響いてくる。
「マスターのロックオンに、刹那と仲良くなる秘訣、聞いてみればー?」

それこそ、御免だ。