だって戻ってこないのがいけないんだ。何がフォンブラウンで作戦会議だ、うまいこといってあの人って結局ひとつのところに留まっていないんだから。


「…それで今、その状態か?」
「あなたが、っ、んっ、かえってこない、からッ…!」

大尉の部屋ドアのパスコードなんてかなり前から知っている。僕がこっそり入ってきても大尉はパスコードを変えない。つまり入ってもいいって事だ。ベッドに寝転べば、大尉のにおいがした。エゥーゴとはいえ軍属なんだからコロンなんてつけてないはずなのに、なんでこんなにおいになるんだろ。おかげで枕に顔を埋めると大尉に抱かれている気分になった。
…なんかこんなのって、大尉の愛人みたいだ。
居ない時にこっそりさ、大人のおもちゃなんて使って。

「そのオモチャはどうしたんだ」
「…トーレスが…っ、女のひとに使えってっ…」
「君は女性じゃないだろう」

そうですよ!僕はれっきとした男ですよ!そんなの、いつも僕を抱いている大尉には嫌って程判ってるでしょうに。
アーガマに帰って来たばかりの大尉は、多分このベッドで休みたいだろう。けど僕が自慰なんてものをしているから大尉はどうすることも出来ずに、ため息みたいに息を吐くと、ベッドのふちまで来て、腰を下ろした。僕の顔を見下ろせる場所。手を伸ばしたら届くけど、あいにくと僕の右手はしゅこしゅこ扱いていて、左手はアナルにずっぷり入っている。イキたくて仕方ないから、両手は動かせない。だから目だけで大尉を見上げる。…あ、今日はサングラスしてないんだ。

トーレスに貰ったおもちゃは、上海土産を渡したお礼だといっていた。女のひとに使ったら喜ばれるぜ、なんて笑って渡された時は呆れたけれど、あいにくとベッドで一緒に眠るような関係のひとは知らない。…男なら知ってるけど。
僕と大尉が寝てるのって、誰か知っているのかな。ファはなんとなく気付いているみたいで、時々眉を寄せて僕に聞いてくるけれど。本当のことなんていえるわけない。
ああ、でもそれよりまずいな、本当に気持ちがいい。これ。

「張り型か?電動?」
「…ん、っ…中で、ぶぶぶって…」
動いているのが判る。中の壁が小刻みに震えていて、小さな快感の波が何度もやってくる感じだ。
おとなのおもちゃを使うのはさすがに人生で初めてで、だから挿入してスイッチを入れた途端、実はもう1回軽くイってしまった。おかげで手はどろどろで、ベッドも汚してしまっている。ここ、大尉の部屋なのに。
「カミーユ、私はどうすれば?」
「…みて、見ててください…」
だって今、大尉に手を出されたら、またすぐにイってしまいそうで。こわいんだ。このおもちゃ、パワーが強くって快感も強い。こんなで大尉にいじられたらどうかなってしまう。…今はまだその覚悟は出来てない。
「も、…も1回だけイキたい…んです」
「構わないが…。ああ、確かに辛そうだな」
「我慢、してたん、です…よ…!」
貴方がかまってくれないから!
そう言外に匂わせたけれど、聡い大尉はちゃんとわかってる。僕の髪に触れて、さらりと後ろに流した。
「…はうっ…」
ああ、駄目。大尉の手で触れられると、ビクビクする。こわい。でも二度目の射精は簡単な刺激ではイってくれなくて、つまり生殺しみたいな状態になった。
「…大尉、大尉、やっぱ駄目、触れて……触れていいですか」
「どこに?」
へっ?どこ?
…あー、…ええと、
「腕っ、腕貸してくださいっ…」
「随分としとやかな願いだな」
笑いながら、大尉が腕を出す。いつも露になっている大尉の腕に縋りついた。アナルにバイブを入れたままで、その手を離して大尉に回す。
逞しい腕に、ヘビみたいに腕を回す。ぎゅっと強くしがみついても大尉は怒らなかった。だからさらに気をよくして僕は顔も上半身も大尉にぴったりとくっつける。でも扱いている手だけは動かせない。だって…これが一番気持ちいいから。
「たいい、…たいぃい…」
自分でもびっくりするほど甘い声が出た。
でも、イキそうになっている頭の中で、それを止める事なんて出来ない。
大尉の腕。においのする枕なんて目じゃない。たまんない。…ああ、もうどうしよう。
「…大尉、いく、いく、…もう、ああ、怖い、いくっ」
「こわい?」
笑ったように聞いてくる大尉の声。
そうですよ、怖いんですよ!だってなんか…凄く気持ちよくなり過ぎてる気がして。あまりにも怖いから、扱いた手も止めた。でもバイブはまだ動いてるから沸き上がる快感は止まらない。扱いていた手も大尉の腕に絡めた。
「…あーー…あ、−−−−−…!どうしよ、っ、うっ、やだ、いく、こわい、いく、でるっ、…!」
その声が最後だった。
大きくビクン、と身体が跳ねて、大尉の腕を掴んだまま思い切り射精をする。
二度目なのに、結構な量がぶしゅぶしゅと出て、大尉のベッドを汚していくのを止めることも出来ない。…ああ、僕凄くはしたないことをしてる。そう自覚しながらも、とんでもない気持ちよさの中でイった。
「はうっ…」
アタマの中が焼き切れそうな快感だった。
ゆっくり力を抜いて、折れそうなほど強く抱きしめていたはずの大尉の腕からも力を抜く。
「カミーユ」
優しい声。低い声。僕の好きな声。
汗で張り付いた前髪をそっとのける指先。
「気は済んだか」
「済みました…」
あ。なんか凄く恥ずかしい。…そりゃそうか。思い切り自慰しているのを見られてるんだから。
「もう一度息を吐け、カミーユ」
「…ん、」
すう、と息を吸って、ゆっくり吐く。
力が抜けたのを見計らって、大尉の指がバイブを抜いた。
「あふっ」
抜いたバイブのスイッチを切る。それを呆然と見ていたら、腸液とかで濡れたままのそれを僕の手に握らせた。…え。ちょっと、大尉。
「確かにこういうものは便利でいいが」
「…はい?」
「やはりこれは女性に使ってやれ」
「え?」
それ、どーゆー事ですか。よく判らない。…つまりなんですか。僕とはもうヤらないってこと?
一瞬、腹の底が冷えたような、ひやりとした感覚が生まれたけれど。
「シャワーを浴びる。その間に身体を整えてくれ」
そう言って、目の前で軍服を脱ぎながらシャワールームへ向かう大尉の背中を見送った。
…けれど、それは僕をもう抱かないって事じゃないのはすぐに判った。
だって、僕と大尉は言葉なんて無くても、ある程度考えてることは判るから。
ああ、つまりこの後大尉が抱いてくれるって事だ。

「…うわっ…」
そう思ったら、なぜか自慰を見られたよりもずっと凄い恥ずかしさが湧きあがってきた。手に持っているいかがわしいおもちゃなんて目じゃないぐらい。
大尉に抱かれるかと思ったら、身体の中があっという間に熱くなった。
…うわ、うわ。どうしよう。
いやどうしようもないんだけど。
「うわぁ………」
すぐにシャワールームから水音がして、僕の心はその音以上に舞い上がっていた。