UC:0088 アクシズ
―――――――――――――――――――――――――――
この世界で初めて目を開けた時に見たものは、液体の中から見えるふわふわとした世界だった。
生ぬるい液体の中に、自分の身体がどっぷりと浸かっている。どうしてか、すでに思考が働いていて、あぁ、俺は今生まれたんだと納得した。
ならば行かねば。俺にはやらなければいけない事があるはずだ。
液体の向こう側、そこは薄暗い闇の中に幾つもの液晶のモニタが青白く光る、研究所のような場所だった。左右を見れば、自分が入れられているものと同じであろうカプセルが並んでいた。それは開いているものであったり、人が眠っている状態であったりと様々だ。一様に同じ姿かたちの男が眠っている。…という事は、自分も同じような顔をしているのだろう。クローン技術により生み出されたのだということは、脳に直接受け付けられた知識で判っている。
「目覚めたのか、12番目のクローン」
正面から声が聞こえ、眼球だけを動かして声がした方を見やる。そこに居たのは、ひとりの男だった。
すぐに培養液が抜かれ、徐々に身体に酸素が満たされる。
呼吸をするという事をすぐに覚え、身体の節々の動かし方を理解し、肌を差す空気が、[冷たい・寒い]というものだと認識した。
「セツナ・トゥエルブ。おはよう。さっそくだが、君には大切な仕事がある」
ああ、判っている。そのために生まれてきたのだから。
こくりと頷く。軍服の男は「ふむ」と小さく納得した。
「さすがに12番目だな。よく熟成している。脳細胞は問題なく作動しているようだ」
得意げに口端を上げて言う。次に出た言葉は、今の軍状況と、やるべきことの羅列だった。
「まず何からすればいい」
「戦え」
即答だった。それだけを返されて、そうかとまた頷いた。戦う。おそらくMSに乗って。
操縦の仕方や、人間の殺し方は、とっくの昔に頭の中へ叩き込まれている。そういう風に脳は育てられているのだから。
「お前より早く生まれた11人の兄は、すでに前線だ。MSも用意させている。…戦局は今が正念場でもある。お前は一機でも多くガンダムを倒せ」
この男がマスター。
この男の為にこれから生きる。そしてこの男のために戦う。
(それが俺に課せられた使命か)
納得し、自分の足で床を踏みしめた。
|